『鬼滅の刃 外伝』が描く、ふたりの柱の生き様とは? 冨岡と煉獄、それぞれの過去

『鬼滅の刃 外伝』冨岡と煉獄の生き様

※本稿には、『鬼滅の刃』(吾峠呼世晴)と『鬼滅の刃 外伝』(平野稜二)の内容について触れている箇所がございます。上記2作を未読の方はご注意ください(筆者)

 なんでもスピンオフ作品の単行本で、初版100万部発行というのは漫画史上初なのだという。いや、なんの話かといえば、先ごろ発売された平野稜二の『鬼滅の刃 外伝』(原作/吾峠呼世晴)のことである。

 同書に収録されているのは、『鬼滅の刃』の人気キャラ――「水柱」の冨岡義勇と、「炎柱」の煉獄杏寿郎(煉の字は火+東が正式表記)を主人公とする2本の「外伝」なのだが(注1)、いずれも独立した物語としても充分読み応えがある力作に仕上がっている(もちろん、吾峠呼世晴が生み出したキャラクターの魅力があってこその話ではあるのだろうが)。

注1……同書には、この2本(=『冨岡義勇外伝』『煉獄杏寿郎外伝』)のほか、巻末に4コマ漫画『きめつのあいま!』(全26話)が収録されている。

 まずは、『冨岡義勇外伝』。同作は、冨岡と、「蟲柱」の胡蝶しのぶが、「北ノ雪山」に潜む鬼を狩る物語だ。ふたりは、山の麓の宿場でひとりのマタギの少女に出会う。少女の名は、八重。以前、山で暮らす父親とその仲間を熊に殺されたという彼女は、何かを隠している様子。そんな彼女が雪の降りしきる山中で、銃口を向けた“怪物”は熊ではなく……!?

 と、ここまで書けば、「それ」の正体がなんであるかはお察しいただけるかと思うが、冨岡と胡蝶は、少女に代わって「それ」を倒す。だが、胡蝶はともかく、この時、冨岡の心の中には、それまでの「鬼狩り」では抱いたことのなかった感情が芽生えていたはずだ。

 というのは、この時の冨岡というのは、竈門炭治郎(=原作の主人公)と鬼化した妹の襧豆子をあえて見逃した(さらにいえば「育手」の鱗滝に託した)あとの彼であり、当然、(同じ雪山での出来事だったということもあり)竈門兄妹のことが脳裏に浮かんだことだろう。だからこそ、冨岡は、八重に「それ」が最後につぶやいたある言葉を伝えられたのだ(以前の彼なら、その言葉をたとえ聞いたとしても、そのまま何もいわずに立ち去ったはずだ)。

 そんな彼の心の変化に、胡蝶しのぶが気づいているという描写も心憎いものがある。

※以下、ネタバレ注意

 原作をお読みの方はご存じのことと思うが、のちに胡蝶は、無限城での戦いにおいて、上弦の鬼・童磨に敗れて命を落とす。だがもしも、そうならずにあの壮絶な一夜を切り抜けることができたならば――きっと平和な日々の中でも冨岡義勇のいい“パートナー”になれたかもしれない。

 そして、もう1本の『煉獄杏寿郎外伝』だが、まさに「少年漫画はかくあるべし」というような、熱い「正義」を描いた物語だ。ちなみにこの作品の中では、煉獄はまだ「柱」ではなく、「甲」の隊士であり、「癸」の甘露寺蜜璃(=のちの「恋柱」)の剣の師匠として登場する(注2)

注2……隊士には階級があり、上から順に、甲・乙・丙・丁・戊・己・庚・辛・壬・癸。

 実はこの、甘露寺が煉獄の継子(弟子)であり、彼女が使う「恋の呼吸」が「炎の呼吸」から派生したものであるという設定は、これまでも公式ファンブックなどで明かされてはいたのだが、それがどういうことなのか、本作では具体的な形で読むことができる。

 さらには「恋」という、一見戦闘には不向きだと思われる概念を、なぜ甘露寺の場合は「強さ」に転じさせることができるのかも丁寧に描かれており、その「原理」を知ることはきっと、原作をより深く理解するうえでも役に立つはずだ。

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