『鬼滅の刃』は「時代に描かされた」作品だった 最終巻ネタバレ徹底解説

『鬼滅の刃』は「時代に描かされた」作品だった 最終巻ネタバレ徹底解説

 『鬼滅の刃』(集英社)の最終巻となる第23巻が12月4日に発売された。吾峠呼世晴が「週刊少年ジャンプ」で連載していた本作は、大正時代を舞台に、鬼に家族を殺され、妹の禰豆子を鬼に変えられた少年・竈門炭治郎が、鬼殺隊に入隊して鬼と戦う物語だ。

 最終巻では、ついに宿敵・鬼舞辻無惨との戦いに決着が付く。連載された時期が新型コロナウィルスのパンデミックが世界中に広がっていく時期と重なっていたこともあってか、コロナ禍に我々が抱える不安に立ち向かう物語が漫画の中で描かれているように感じ、毎週、食い入るように読んでいたことを思い出す。

 以下、ネタバレあり。

 人間に味方する鬼・珠世と柱(鬼殺隊の最上位の剣士)の胡蝶しのぶが錬成した毒薬の影響によって無惨の細胞は老化し、戦闘能力も大きく低下していた。無惨は身体を分裂させて逃亡しようと試みるが、すでに分裂する力は残されていなかった。

 日の出まで鬼殺隊が無惨を足止めする中、日の光を浴びた無惨は巨大な赤ん坊の姿へと代わり日陰に逃げ込もうとするが、やがて肉体は消滅する。しかし、死の間際に無惨は心臓が停止した炭治郎に血と力を注ぎ込み「最強の鬼の王」として復活させる。

 人を殺してしまう前に炭治郎を殺そうと鬼殺隊は飛びかかるが、炭治郎に手をかけることができず苦悶する。最終的に禰豆子が間に入り、栗花落カナヲが胡蝶しのぶから預けられた鬼を人間に戻す薬を(視力を犠牲にする「花の呼吸、終ノ型、彼岸朱眼」の力で)打ち込むことで、炭治郎は人間に戻るのだが、先が見えない戦いの中で、疲弊し倒れていく鬼殺隊と、炭治郎を鬼に変えてまでしつこく食い下がる無惨の戦いは壮絶で、時節柄、医療従事者の方々が新型コロナウィルスを抑え込もうと治療に当たる姿に重ねて読んでいた。

 無惨は、鬼殺隊の当主・産屋敷耀哉の言った「想いこそが永遠であり不滅」という言葉が正しかったと認める。そして、敗北を認め、自分を追い詰めた人間の力に感動するのだが、同時に「私の想いもまた不滅なのだ 永遠なのだ」と考え、炭治郎に全てを託そうとする。

 「永遠というのは人の想いだ」「人の想いこそが永遠であり不滅なんだよ」という言葉は「完結巻記念全面広告」として新聞五紙の夕刊にも掲載された、本作のテーマを集約した名台詞だが、同じ言葉を無惨が言うと、途端に醜悪で独善的なものに変わってしまう。

 那田蜘蛛山で蜘蛛の鬼が「絆」という言葉を使う場面もそうだったが、正論に聞こえる美しい言葉を、鬼が曲解した形で用いることで、おぞましい意味に変わる瞬間が『鬼滅の刃』には多い。

 台詞が名言として引用されることが多い本作だが、どんなに美しい言葉でも、誰がどのような状況で言うかという関係性によって、言葉の意味が全く違うものに変わるということを作者は繰り返し描いている。この正論に対する適切な距離感があるからこそ、勧善懲悪の物語を描いても独善的なものにならなかったのだろう。

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