松重豊が語る、複雑怪奇な「俳優」という生き物の性 「改めて自分は変人だなと思います」

松重豊が語る、複雑怪奇な「俳優」という生き物の性 「改めて自分は変人だなと思います」

俳優は複雑怪奇。これは奇怪な生き物の生態図鑑

――小説とエッセイの2部構成で、俳優・松重豊を堪能しました。

松重:俳優という存在をすごく身近に感じていただいている人も多いと思うのですが、いわゆる表現者とは違う、とても複雑怪奇な生き物なんです。そこを面白おかしく感じていただければいいかなと。一筋縄ではいかない人種です(笑)。人からの借り言葉と借り衣装で、初めて会う人と「好きだ」「愛してる」だの言わなきゃいけない。奇怪な生き物の生態図鑑になっていると思います。

――ところで「私」は最初に弥勒菩薩と出会いますが、ご自身でも菩薩や仏の前で自問自答したご経験はあるのでしょうか?

松重:あれは結構実体験に基づいてます。40代の初めくらいに京都の広隆寺で弥勒菩薩を見ました。そのころ「いろんなことにこだわりをもって芝居をやろう」「役というのもちゃんと理解していたほうがいいんだ」と思っていたのですが、「こだわるなよ、お前」といったことが般若心経とかに書いてあったりして、自分を空っぽにする、何も考えない時間を作ったりした。仏教のなかに入っているエッセンスが、役者をやるうえですごいヒントになったんです。

――実際に大きな影響を受けたんですね。

松重:はい。僕は特定の宗教には入っていませんが、でも仏教徒だなと感じます。一神教の人たちには分からない、「空っぽでいいんだよ。この中に宇宙があればいいんだ」という仏教の、空洞の世界が、役者としての生き方に「これだ!」と思えたんです。40前半くらいのそこからの出発で、「俳優という、このくだらなく面白い世界」がなんとなく見えてきた。

――空洞が一番強いというお話も出てきますね。

松重:弥勒菩薩自体、真ん中が空(くう)なんですよね。今回の小説は弥勒菩薩が核になりました。“空洞”はタイトルにもなっているし、俳優という仕事も、そこに含まれるものの一部だと思います。

如何にして、空っぽの器でいられるか

――40代前半での気づきを、今回の執筆で改めて再確認した形ですか?

松重:そうですね。今でもそこのスタンスは変わっていないし、そこを踏み外してないなと思う。改めてひとりになって、全然違うフィクションの中でも遊べるのに、こういう役者の空っぽの中身というものにまた自分を置いて遊んじゃった。死ぬまで謎解きですみたいな俳優さんはたくさんいらっしゃいますが、僕はそういう気はさらさらない。謎じゃないと思うし、毎回空っぽにしているだけ。脚本がないと何もできないし、カチンコが鳴って監督にOKと言われるまで何もない。俳優は拠り所を他に求めていくしかない。

――でも空っぽだからこそ何にでもなれるのでは。

松重:そうなんです。何もないから何にでもなれる。でも本当に何もなくなったらどうなるんだろうという、そこの問いかけも最終話でしています。何もないといって、無になっちゃうと終わっちゃう。無ではなく、空(くう)、空洞でいられるように。

――無ではなく空。

松重:器でいられるにはという模索ですね。

――現在、松重さんは俳優のお仕事で引っ張りだこで、大変な人気も伴っています。コワモテなイメージだけではなく、最近は猫(『きょうの猫村さん』)にまでなりました。この人気をご自身はどう感じていますか?

松重:人気があるとか、かわいいと言われるとかってことは、ま~ったくの幻であると思っています。器は本当に薄いので、慢心したり、「俺以上に食うのが上手い(『孤独のグルメ』)俳優はいないんだぞ」なんて思った瞬間に、器がバ~ンと割れてどこかに飛んでいきますからね。本当に儚い器なので。僕は自分の作品を観返すことがないので、まだ「食べること」や「猫になったこと」に関して自分のなかでパロディにもできてません。だからその辺は意識しないように、といっても、意識させられるんですけど、特に考えなくていいかなと思って過ごしています。

日本語の持つ語感の心地よさを意識

――松重さんは音楽好きとしても有名で色んなところで語られていますが、書くことに関して影響を受けた小説家などはいますか?

松重:今回、こうしてモノを書いてみたり、朗読をやろうとしたりして、自分の書いたものがリズムとして心地いいかよくないかということが、僕のなかで非常に大きいのだなと感じました。山田太一さんのような、「え、なに」「それ」「うん、わかってる」なんて日本語の持つ力のリズムを感じるものには、非常に影響されていると思います。ミュージシャンでもある町田町蔵(町田康)さんなんかの作品も音ですよね。逆にそうした響き、語感、リズムが意識されていないものは、セリフでも覚えづらいんです。今回も、そうした音として響く、リズムがある、朗読して面白いという部分は、自分の意識下にあったのだと思います。

――そういえば、小説もエッセイも、読んでいるときに頭のなかで松重さんの声で再生されていました。

松重:喋り言葉で心地のいいリズムの言葉を選んでいるんでしょう。職業柄です。

――YouTubeチャンネルでの朗読も楽しみです。最後に読者にメッセージをお願いします。

松重:菊地信義先生の装丁によって、とてもシンプルで美しい本に仕上がりました。でもこれが実は女性週刊誌よりもえげつないことが書いてあったりします(笑)。小説って小難しいのかなと身構える人もいるかもしれませんが、えげつない俳優のゴシップ本だと思ってもらって構いません。くだらない話を面白おかしく書きました。またそれを朗読しているYouTubeもあるので、そこで1編聞いてみてから読んでもらっても。おそらく今までこういうものはなかったと思うので、ぜひ手にとっていただければと思います。

■書籍情報
松重豊『空洞のなかみ』
価格:本体1,500円+税
出版社:毎日新聞出版

松重豊公式ウェブサイトURL:https://mattige.com 

■松重豊 チェキプレゼント

松重豊のチェキを1名様にプレゼント。応募要項は以下のとおり。

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