砂糖増量中のシンデレラ・ストーリー「わたしの幸せな結婚」シリーズから目が離せない理由とは?

「わたしの幸せな結婚」から目が離せない

 もちろん久堂清霞の描き方も巧みだ。異能者としての実力は折り紙付きだが、男性とは思えぬほどの儚い美しさを持ったイケメン。母親との確執や、いままでの婚約者候補の言動を見て、女性に幻滅していたが、美世を知ることによって、徐々に変わっていく。第1巻の時点で、美世と清霞が相思相愛であることは確定しており、その上で作者はカップルの障害を設定しているのである。

 しかも、各巻の障害が、よく考えられている。まず第1巻は、美世の実家の斎森家だ。自分を虐待し、家の道具として扱う斎森家に、清霞との暮らしで人間性を取り戻した美世が立ち向かう展開が気持ちいい。

 そして第2巻は、美世の母親の実家である薄刃家が、障害としてクローズアップされる。併せて、第1巻から匂わされていた美世の秘密も判明。ふたりを取り巻く人物も増加し、世界が一気に拡大された。この2冊が、シリーズのプロローグといっていいだろう。

 さらに第3巻になると、清霞の両親が登場。対異特務小隊の仕事で、両親の家を拠点にする清霞に、美世も付いていく。そんな彼女に清霞の母親・芙由は、初対面から攻撃的な言葉を浴びせるのだ。そう、第3巻は嫁姑問題になっている。嬉しいのは美世が、積極的に芙由と仲良くなろうとすること。ずいぶん成長したなあと、感慨深いものがある。また、清霞の仕事の方で、シリーズを通じての敵になるであろう人物が出現。衝撃的なラストまで含めて、大いに盛り上がる。

 それを受けた第4巻では、敵に狙われる恐れのある美世が、身を守るために対異特務小隊で日中を過ごすことになる。ここで彼女が出会うのが、清霞の元婚約者候補の女軍人・陣之内薫子だ。清霞と親しい様子を見せる薫子に、美世はやきもき。正確には違うのだが、第4巻は元カノ問題を扱っているのだ。

 このように本シリーズは、1巻ごとに美世に障害を与え、それを乗り越えさせることで、彼女を成長させている。そして成長する美世は、清霞に対する愛を強めていく。清霞の方も同様だ。だからハッピーエンドが約束されていることを承知の上で、砂糖増量中のシリーズがどうなるのか、先が気になってならないのである。

■細谷正充
1963年、埼玉県生まれ。文芸評論家。歴史時代小説、ミステリーなどのエンターテインメント作品を中心に、書評、解説を数多く執筆している。アンソロジーの編者としての著書も多い。主な編著書に『歴史・時代小説の快楽 読まなきゃ死ねない全100作ガイド』『井伊の赤備え 徳川四天王筆頭史譚』『名刀伝』『名刀伝(二)』『名城伝』などがある。

■書籍情報
『わたしの幸せな結婚』
著者:顎木あくみ
イラスト:月岡月穂
出版社:富士見L文庫
https://lbunko.kadokawa.co.jp/special/watashino/

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