山崎育三郎が語る、ミュージカルとドラマそれぞれの挑戦 「未知の世界に飛び込むことに葛藤もありました」

山崎育三郎が語る、思い出と現在

『エリザベート』最後の通し稽古で得た感覚

――ミュージカルの世界では4年のうちにお立場も変わった気がします。

山崎:僕は21歳の時に『レ・ミゼラブル』のマリウス役でデビューしたので、ある時期まではいつも1番年下という立場でやってきました。今はその状況も変わってきていますね。後輩もたくさんできましたし、ちょうど僕たちの世代でミュージカル界全体が大きく盛り上がってきている感覚もあります。この本が出た4年前にはFNS歌謡祭等のテレビ番組でミュージカル特集が組まれるなんて想像もしていませんでしたから。

――そういう番組を観た方たちがミュージカルに興味を持って劇場で生の舞台を体感する流れもありますよね。

山崎:まさにそこは自分が目指していたところです。メディアに出ることで新しいお客さまを劇場に呼び込むことができますから。僕自身は比較的早いうちにテレビで歌わせてもらう機会もありましたが、カンパニーとして出演し、作品の世界観を多くの方にプレゼンテーションすることが夢でしたので、それを叶えるために頑張ってきたところもあります。

――今年の4月から上演予定だったミュージカル『エリザベート』はこの状況の中、中止となってしまいました。山崎さんの新役、黄泉の帝王・トートを劇場で観ることができなかったのはとても残念です。

山崎:多くの方にそう言っていただきます。ただ、僕自身、あまり過去のことを気に病んだり、先のことを考えて不安になったりすることがないんです。とにかく“今を生きる”っていうのが僕のテーマですから。だから今は自分ができることをひとつひとつ積み重ねていくだけです。でも今年の『エリザベート』に関しては、忘れられない出来事もあって。

――ぜひうかがいたいです。

山崎:オーケストラもすべて入った帝国劇場での通し稽古の時、なんとなくですが、カンパニー全体に「この通し稽古が最後になるんだろうな」という空気があったんです。あの時の世の中の状況を考えたら、お客さまを劇場に入れての上演ができる可能性はとても低かったですし。その時、僕は花總まりさんのシシィと組ませていただいたのですが、全員の「今、このメンバーでやれるのはこれが最後かもしれない」という想いが相まって、とても熱量の高い通し稽古になりました。僕も凄く集中して、自分がずっと思い描いていたトートを演じられた充足感があったんです。そうしたら、演出の小池(修一郎)先生が「これまでの『エリザベート』の歴史の中で1番いい稽古だった」と言ってくださって。“明日”はないかもしれない、もうこの作品をやれないかもしれない……という皆の想いが結実したんでしょうね。もちろん、2カ月間稽古してきて、それをお客さまに観ていただけないのはとても悲しいことですが、ここまでやりきれたんだから、上演できないことを悔やむより前を向いていこうという気持ちになれました。

オリジナルミュージカルを作ることがひとつの課題

――『シラナイヨ』には井上芳雄さん、浦井健治さんと組まれた“StarS”のエピソードもたくさん書かれていました。そして今は城田優さん、尾上松也さんと“IMY”を結成されています。

山崎:StarSのふたりとは今も連絡を取り合っていますが、それぞれの活動でスケジュールが合わなくて、なかなか活動が難しいところもあります。IMYは最初からオリジナルミュージカルを作るという目的で集まりました。今のコロナ禍でミュージカル界が厳しい理由のひとつが、海外作品に頼りがちということだと思うんですよ。たとえば、ネットで配信をしようと思っても海外作品は版権の問題でそれが難しい。こういう時だからこそ、自由にやれるオリジナルミュージカルを作ることが僕たちの世代のひとつの課題なんです。日本のクリエイターたちが海外ミュージカルに負けないレベルのものを作って、それを世に出していくことが、より重要な時代に入っていると僕は思います。

――それをプレイヤーである山崎さんが発信していくことの大切さをあらためて受け止めています。最後に4年前のご自身にメッセージをお願いします。

山崎:「大丈夫だよ」って伝えたいです。新しい事務所での活動が始まって、映像の世界にも入っていくけど、自分が信じた道、歩みたい道をそのまま進んでいけばすべてが拓(ひら)ける。4年後にはミュージカル俳優が朝ドラで活躍してるよ! FNS歌謡祭にはミュージカルコーナーもできたよ! 凄いことがいろいろ動いてるよ! だから、きっと大丈夫、って。

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■書籍情報

『シラナイヨ』(電子書籍版)
著者:山崎育三郎
出版社:ワニブックス
各種ネット書店にて販売中(紙版書籍も全国書店、ネット書店にて販売している)

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