木村カエラのアーティスト活動と私生活は自然につながっているーー日記エッセイ『NIKKI』が綴る愛おしい日々
もう一つ記しておきたいのは、シンプルで心地よい文体。どんなにシリアスな出来事であっても、どこかほのぼのとしたリズムと語感の柔らかさを備えた文章によって、読み手のなかにスッと溶け込んでいくような感覚があるのだ。大袈裟な表現はまったくなく、ドラマティックに盛ることなく、日常の体温をそのまま伝える文章のセンスはおそらく、作詞やボーカルの表現のなかで培われたものだろう。
この本に記されている最後の日記は、コロナウイルスの感染拡大防止のため、学校が休みになった3月8日。「スケジュールが空っぽになった」彼女と子供たちは、雨のなか散歩に行く。レインコートを着て走り回る子供たち。その後はごはんを作り、食べさせ、家のなかで忙しく動き回る。多くの人が経験していることだが、彼女の素朴で真っ直ぐな文章を読むと、「みんなそうだよな」と何だか少し前向きな気分になる。様々な現実にぶつかり、こんがらがりながらも、決してポジティブな気持ちを失わない姿勢も『NIKKI』(と木村カエラ自身)の魅力。先が見えない世界のなかで、日々の大切さ、近くにいる人たちとのつながりを思い起こさせてくれる力が、この本には確かにある。
■森朋之
音楽ライター。J-POPを中心に幅広いジャンルでインタビュー、執筆を行っている。主な寄稿先に『Real Sound』『音楽ナタリー』『オリコン』『Mikiki』など。
■書籍情報
『NIKKI』
木村カエラ 著
価格:本体1,680円+税
出版社:宝島社
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