なぜ私たちには“余白”が必要なのか? 松田未来が語る、自分軸を取り戻すための土台作り

大ヒットエッセイから6年。コスメブランドディレクターであり、多くの女性から支持を集める松田未来が、待望の新刊『私が私を生きる「余白」の美学』を6月10日に双葉社から刊行。「正解」と「効率」ばかりを優先して、自分を置き去りにしていないか。そんな現代に向けたメッセージが込められた本作には、スピード感や生産性が求められる日々の中で、自分にとって本当に大切なことを見失わないためのヒントが詰まっている。初収録のショート小説の誕生秘話も含め、松田さんの言葉に耳を傾けた。
6年ぶりの新刊。自分の中に生まれた「余白」への気づき
――前作から6年が経ちました。今回、全編書き下ろしの新刊エッセイ『私が私を生きる「余白」の美学』を執筆された背景や、率直なお気持ちからお聞かせください。

松田未来(以下、松田):前作(『私が私らしく生きる美学』)を出させていただいた時、私としてはもう持っているものを全て出し切って書いたつもりだったんです。だから、「次に本を書くのは15年後くらいでいいかな」なんて思っていました(笑)。でも、ありがたいことに、6年経った今でも「今も読んでいます」という声を本当に多くいただいていて。
私自身は6年前に書いたものを読み返すと、当時の思いが詰まりすぎていて恥ずかしくなってしまうんですけど、それが逆に「あ、私自身が変わっているんだな」という気づきにも繋がりました。これだけ多くの方が大切にしてくださっているのなら、今の私だからこそ放てる言葉、届けられるメッセージがまた新しくあるのではないかと思ったんです。全編書き下ろしということで不安もありましたが、今がそのタイミングなのだと思い、執筆を決意しました。
――6年前といえばちょうど2020年のコロナ禍の時期でしたね。世界中が未知の不安に包まれる中で、ご自身の中で起きた変化をどう捉えていらっしゃいますか?
松田:そうですね、前回のトークショーやサイン会ではフェイスシールドをしていましたから、なんだか懐かしいです。当時は様々なことが規制され、世界中が不安に包まれていました。でも、前作の執筆を通じて自分自身と深く会話をし、掘り下げたことで、自分をもっと大切にできるようになり、自分との関係性が大きく変わった感覚がありました。そこから今日まで、自分に対して誠実に、一日一日を積み重ねてきたつもりです。
今回、前作と同じ制作メンバーと本を作ったのですが、すべてを書き終えた後に「私、前回から何が変わりましたか?」と聞いてみたんです。そうしたら、「圧倒的に“余白”が増えた」と言われて。私自身は「えっ、そうなのかな?」と驚いたのですが、読み返してみると、確かに原稿の中に「余白」という言葉が何度も出てきていたんです。人との距離感や、何かを求める気持ち、そして自分自身に対しても、いい意味での「余白」を持てるようになった。それが、この6年間で私の中に生まれた大きな変化だったのだと思います。
すぐに答えを出さない。相手を尊重する「余白」の渡し方
――タイトルの「余白」にも繋がりますね。今の社会は、SNSも含めて、どうしてもすぐに答えを求めがちだと思います。最短ルートで正解を知りたがる風潮の中で、松田さんはどのようにコミュニケーションをとられているのでしょうか。

松田:やはり「すぐに効果が出るものを知りたい」「要約して教えてほしい」といった即効性を求める声は以前よりも増えていると感じます。でも私は、すぐに答えを出して迫るようなことはしたくなくて。いつも相手が自分で考え、選択できるスペースを残しておきたいんです。
例えば、「友達の誕生日プレゼントは何がいいですか?」と聞かれた時、「30代ならこのリップが間違いないですよ」と断言してしまえば簡単かもしれませんし、それを求めている方もいるとは思います。でも、私はそれぞれの細かいシチュエーションを知り尽くしているわけではないので、「私だったらこうするけれど、これが正解とは限らないから、あなたの心地よい選択をしてくださいね」とお伝えするようにしています。
――「これが正解です」と言い切らないスタンスなのですね。
松田:「これさえやれば間違いない」と言い切る方が、もしかしたら引きはあるのかもしれません。でも、私の中の美学として、それには少し違和感があるんです。カリスマのように振る舞ってすべてに答えを出すこともできたかもしれませんが、絶対にそれはしたくなかった。そうやって徹底してきたコミュニケーションに対して、ある時、お客様が「いつも考える余白をくれる」と言ってくださったんです。
正解を押し付けないことで生まれる考える時間、それを「余白」と捉えてくださった。少し長い視点を持って相手と接することができるようになったのは、私自身が「余白」を持つ勇気を持てるようになったからかもしれません。
焦りや不安、違和感。揺らぐ心との付き合い方
――世の中のスピード感がどんどん増していく中で、効率や結果を早く求めてしまう焦りは誰もが持っていると思います。松田さんご自身も焦りを感じることはあるのでしょうか。
松田:もちろんありますよ。一日で魔法のように綺麗になりたいし、すぐに結果が出てほしいと思うこともあります。会社を経営していたり、本を出したりしていると、数字という現実的な部分に向き合うことになりますから、気持ちがはやることも当然あります。
でも、魔法なんてないんですよね。一朝一夕で身につかないものを、継続して少しずつ身につけていくことこそが、本当の自信に繋がっていく。近視眼的に今すぐの結果を求めるのではなく、長い視点で見た時に、「果たしてどちらが私の人生にとって健康的だろうか」と問いかけるようにしています。焦っている時こそ、「焦っていたら自分らしい判断ができないよ」と自分自身にリマインドしています。
――それでも不機嫌になりそうだったり、心がざわついたりした時は、どのように対処されているのですか?
松田:私は、そういうハプニングが起きた時を「自分が成長するチャンス」だと捉えるようにしています。「昔の私だったら慌ててイライラしていたけれど、今の私はこの感情をどうやって乗り越えようか」と。どう思考を変えれば機嫌を保てるのかを考えて、うまく捉え方を変えられたら、「また一つ大人になれたな」と自分を褒めるんです(笑)。
ただ、どう向き合っても解決しないようなモヤモヤした気分の時は、自分の中で「松竹梅」の気分の切り替えとして使っているアイデアを用意しています。例えば、本当に楽しみにしていた予定が急にキャンセルになってしまって、頭では仕方のないことだとわかっていても、気持ちが沈んでしまう時。そういう時は、「これはもう一番上の『松』のケアが必要だ!」と思って、すぐに大好きなスパを予約するんです。予約を入れた瞬間に「来週楽しみ!」ってワクワクしてきて、ちょっと踊りたくなっちゃうくらい(笑)。そうやって、自分で自分の機嫌をとる仕組みを持っておくのはおすすめです。
執着を手放し、コントロールしない心地よさ
――年齢を重ねると、人間関係やライフステージが変化し、これまで親しかった人との距離感が変わることもありますよね。本の中で書かれていた「手放す」や「感謝して離れる」という言葉がとても印象的でした。
松田:環境や興味の対象が変われば、付き合っていく人が変わるのはとても自然なことだと思います。嫌いになったわけではなくても、今の自分にとって少し距離を置いた方が「健康的」であるなら、無理に一緒にいる必要はないと思うんです。
たとえすれ違って離れる選択をしたとしても、「相手が悪い」とネガティブに捉えるのではなく、その人と一緒に過ごした時間や、そこから得た感情、学びにフォーカスする。どんな人間関係であっても、そこから得た成長は必ずあるはずですから。だから、「いい経験をさせていただきました」と感謝して離れることができれば、お互いに気持ちよく次のステップへ進めるのだと思います。
――物に対する執着についても書かれていましたね。引っ越しの時に持ち物を半分に減らされたとか。
松田:そうですね。私はもともと物に対する執着があまりなくて、「なくてもなんとかなるかな」と思ってしまうタイプなんです。安心感を得るために荷物を多く持つ人の気持ちも分かりますが、私にとっては少ない荷物で身軽でいることの方が心地よい。
自分が何に対して「重い」「嫌だ」と感じるのか、逆に何に「嬉しい」と感じるのか。そういう日常の小さな「違和感」をずっと無視せずに見つめてきたことで、自分にとっての心地よさがはっきりと分かるようになってきたのだと思います。
――子どもの頃から、自分の気持ちには正直だったのでしょうか?
松田:両親からも「まっすぐだ」とは言われていました。自分に嘘をつけない性格なんですよね。例えば、みんなでご飯を食べていて、本当は美味しくないと思った時、周りが「美味しい!」と言っていても、私は絶対に「美味しい」とは言えなくて。「新鮮な味だね」とか、嘘にならない言葉を選んでしまうんです(笑)。不器用で要領が悪いなと思うこともありますが、そういう小さな違和感をごまかさないことが、自分に対する誠実さなのかなと思っています。
眠れない夜に寄り添う。初のショート小説に込めた願い
――今回、初のショート小説「あさねの台所」が収録されています。エッセイだけでなく、小説を書こうと思われた背景には何があったのでしょうか。
松田:実は、最初から小説を書こうと思っていたわけではないんです。私のコミュニティには、20代後半から40代の、子育てやお仕事で環境が大きく変化し、ストレスを抱えている方が多くいらっしゃいます。その中で、「最近よく眠れない」「寝つきが悪くて明日の仕事が不安になる」という声がとても多かったんです。
私自身も、アドレナリンが出すぎて眠れない時期がありました。眠れない夜の、あの「また眠れなかったらどうしよう」という焦りや孤独感は本当によくわかります。そんな時、私はオーディオブックで、ストーリーを追わなくてもいいような穏やかな話をスリープタイマーで流しながら寝るようにしたら、すっと眠れるようになったんです。
その話をコミュニティの皆さんにしたら、「未来さんの声で聞きたい」とおっしゃっていただいて、じゃあ私が朗読をして寝る前の時間に流してみようと思いました。でも、既存の小説には著作権がありますし、昔の文学作品だと言葉が難しくて読み上げるのが私には難しかった。それなら、「私が眠る時に聞きたい、何も事件が起きず、美味しいご飯が出てきて、少しだけ現実離れした温かいお話」を自分で書いてしまおうと思いました。
――誰かの眠れない夜に寄り添うために生まれた物語だったのですね。
松田:そうなんです。最初はコミュニティの中で朗読用として作ったお話だったのですが、皆さんから「いつか活字でも読みたい」という声をたくさんいただくようになりました。そして今回の書籍の編集を担当してくださっている方にその話を読んでもらったら、「SNSに疲れたり、人と比べてしまったりしている現代の人たちが、すごくホッとするお話だから絶対に入れた方がいい」と言ってくださったんです。
――最後に、このインタビューを読んでいる方、そしてこれから本を手に取る方へメッセージをお願いします。
松田:今の時代は、物や人への「執着」や「コントロールしたい」という気持ちがどうしても強くなりがちです。でも、自分以外の人間、例えパートナーや子どもであっても、決して自分がコントロールできるものではありません。私は自分で自分の人生の舵を取りますが、誰かに舵を取られたくはないし、私も誰の舵も取りたくない。そうやって他者をコントロールしようとする気持ちを手放すことができれば、自分の生き方にフォーカスでき、他者ともいい距離感を保てるようになると思うんです。
この本に詰め込んだのは、たとえ揺らいでも、また自分の軸に戻ってくるための心と体の土台のつくり方です。スピード感のある日々の中で、自分にとって本当に大切なことを見失いそうになった時、ふと立ち止まって、自分の中に「余白」を作るきっかけになれば嬉しいです。

■書誌情報
『私が私を生きる「余白」の美学』
著者:松田未来
価格:1,870円(税込)
発売日:2026年6月10日
出版社:双葉社

























