江口寿史が語る、漫画家としてやり残したこと 「70年代後半のギャグ漫画の凄さを残したい」

江口寿史が語る、漫画家としてやり残したこと 「70年代後半のギャグ漫画の凄さを残したい」

 『すすめ!! パイレーツ』(1977-1980年)、『ストップ!! ひばりくん!』(1981-1983年 ※未完だったが2010年に完結)、『エイジ』(1984-1985年)などで知られる漫画家であり、イラストレーターとしても功績を残し続けている江口寿史が、初のジャケットアートワーク集『RECORD』(河出書房新社刊)を発表した。

 2000年代における江口の代表作の一つである銀杏BOYZ『君と僕の第三次世界大戦的恋愛革命』(2005年)、江口自身が「ぼくのイラストの新たなステップの幕開けとなった作品」(『RECORD』に掲載されたセルフライナーノーツより)と語るShiggy Jr.の『ALL ABOUT POP』のほか、吉田拓郎の『一瞬の夏』(2005年)、大森靖子の『MUTEKI』(2017年)など、これまで手がけてきたジャケットイラスト29点をLPサイズで収録。さらに本人による全作品解説、吉田拓郎の寄稿文、銀杏BOYZ・峯田和伸とのスペシャル対談などを収録したブックレットも付いている。

 江口寿史のジャケットアートワークを様々な角度から楽しめる『RECORD』の制作プロセスを軸にしながら、ここ数年の活動の手ごたえ、漫画家/イラストレーターとしての今後のビジョンなどについて、江口自身にたっぷりと語ってもらった。(森朋之)

今の人たちはたぶん、心に刺さるものに敏感

――初のジャケットアートワーク集『RECORD』が発売されました。これまで江口さんが描いてきたCDジャケットのイラストが収められた作品ですが、江口さん自身はこの作品をどう捉えていますか?

江口:「本がなかなか売れない」と言われてる時代じゃないですか。そんななか、こういう個人的な本と言うか、趣味性の高い本を出せるのは、今の自分の状況が良いんだなと思いますね。僕の体感として、2015年に『KING OF POP 』(玄光社)を出したあたりから、世間の僕を見る目が変わってきたというのかな。かなり前から漫画の仕事を減らして……というか、なかなか描けなくなって。イラストの仕事はずっと続けていたんですけど、それはたぶん、ほとんどの人には届いてなかったと思うんです。僕の仕事を熱心に追いかけてくれてるファンにしか届いてなかったと思うし、多くの人にとって江口寿史という存在は、『週刊少年ジャンプ』から去ったときに消えていたんですよ、ほぼ。でも、『KING OF POP』という画集と、それに伴う全国10カ所での巡回作品展で、漫画からイラストまで含む画業の全てを一挙にまとめて見てもらう機会があったことで、非常に多くの人の目に触れた。そこで改めて「江口寿史、こんなにいっぱい仕事をしていたんだな」と気付いた人がかなりいたんじゃないかなと。そのタイミングで再評価みたいなことがはじまって、5年くらい続いている実感はありますね。

――イラストレーターとしてのキャリアを画集という形でアーカイブし、届けることが大事だったと。

江口:そうですね。あと、この10年くらいの間のSNSの発達も大きいと思います。僕はSNSのない時代にイラストの仕事を始めたので、しばらくは全然伝わらなかった(笑)。『KING OF POP』を出したときに各地で展覧会をやったことで、それがネットでも広がって、その結果、次の画集『step』(河出書房新社)もすぐに出せたんです。だからこそ、今回の『RECORD』のような趣味性が高い本も出せたんだと思います。CDジャケットの仕事もかなりやってましたし、それを1冊にまとめたいという気持ちもずっとあって。『RECORD』はかなり凝った装丁なので、普通だとなかなか通る企画ではないですけど(笑)、それはやはり『KING OF POP』と『step』が成功したことの結果だと思います。

――江口さん自身が書かれた作品に対する解説も興味深く読ませていただきました。Shiggy Jr.の『ALL ABOUT POP』のジャケットは、「ぼくのイラストの新たなステップの幕開けとなった作品」と位置付けられていますね。

江口:はい。それまでの僕の絵は、レイアウトやトリミング、女の子らしいポーズ、ファッションのディテールなどに意識を置いていたんです。Shiggy Jr.の『ALL ABOUT POP』イラストはそうではなくて、“顔”だけですからね。顔の表情。恋をしているときの気持ちだったり、目に見えないもの、空気とか匂いを表わしたいと思ったんですよね。

――それはSiggy Jr.の音楽に触発されて生まれた変化なんですか?

江口:それもあるでしょうね。『ALL ABOUT POP』というアルバムを作ったメンバーの心意気にも応えたかったし、「これを届けたい」という気持ちもあって。だったら僕も、自分のポップを一段階上げたいなと。あと、CDジャケットって面積が小さいじゃないですか。LPレコードのサイズだったらいいんですけど、CDジャケットにディテールを描き込んでも目立たないんですよ。最初はShiggy Jr.のメンバーが何かやっているところ、たとえば車を洗っている絵なども考えたんだけど、それよりも女の子の表情だけで刺さるほうがいいなと。レコード屋で(イラストの女の子と)目が合ったときにキュンとする感じを出したかったというか。この時期は僕自身も個人的にいろいろ思うところあり、それも合わさって「届いてほしい」という気持ちになったんでしょうね。

――江口さん自身の感情も反映されているんですね。

江口:僕はそれまで、自分の思いを絵に込めることがあまりなかったんです。わりとエディター体質で、「コレとコレを組み合わせたら、ポップになる」という考え方だったし、かなり引いた視点からエディションしていて。『ALL ABOUT POP』の絵は“思いを伝える”というか、エモーショナルな感じですよね。

――絵に込められたエモさが増したことは、若い世代に江口さんの絵が届き始めたことにも関係していると思いますか?

江口:うん、そうじゃないですかね。今の人たちはたぶん、心に刺さるものに敏感だし、そういうものに飢えてる気がするので。それがダサいという時代が長かったじゃないですか。特に僕が20代を過ごした80年代は、エモーショナルなものがいちばんカッコ悪い時期で。僕自身も「ちょっとハズしたほうがカッコイイ」「熱い思いを表現するのはダサい」という意識があったし。いまはそうじゃないと思います。

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