『賭博黙示録カイジ』や『賭ケグルイ』にも通じるスリル! 宮内悠介が描くギャンブル文学『黄色い夜』の凄み

宮内悠介、ハイブリッドな新作が誕生

 『黄色い夜』というタイトル自体も、どこかを問わず世界のあらゆる場所に横たわっている苛烈な現実を象徴しているように取れる。本書の中で「黄色い夜」は、E国のような砂漠の国でよく起こる、全天を覆った砂嵐が太陽の日差しを遮って、周囲を熱と闇に覆ったような状況を指している。科学や技術ではカバーできない自然環境の中、貧困と苦難を伴いながら生きる大変さと言っても良い。そしてルイにとって「黄色い夜」は、慣習や国民性といったものに縛られた日本での日々が当てはまる。自分だけではどうしようもない閉塞感や劣等感にとらわれた状況を意味する言葉をタイトルに据え、どうやったらそこから抜け出せるのかを問おうとした作品なのかもしれない。

 ルイが目的にしていた国王相手の大勝負に、ルーレットで挑んだ結果がどうなったか、その過程がどう進んだかは物語を読んで知って驚こう。絶対に勝てない勝負などないのだと教えられる。その後に繰り広げられる60階の支配人を相手にした最後の勝負では、日本という国で普通に生まれて大人になっていくのとは違った出生と成長、境遇と環境が世界中に存在することへの想像がもたらされる。決して長くはない物語だが、世界の諸相とギャンブルの熱、そして生きる意味がぎっしりと詰まった1冊だ。

■タニグチリウイチ
愛知県生まれ、書評家・ライター。ライトノベルを中心に『SFマガジン』『ミステリマガジン』で書評を執筆、本の雑誌社『おすすめ文庫王国』でもライトノベルのベスト10を紹介。文庫解説では越谷オサム『いとみち』3部作をすべて担当。小学館の『漫画家本』シリーズに細野不二彦、一ノ関圭、小山ゆうらの作品評を執筆。2019年3月まで勤務していた新聞社ではアニメやゲームの記事を良く手がけ、退職後もアニメや映画の監督インタビュー、エンタメ系イベントのリポートなどを各所に執筆。

■書籍情報
『黄色い夜』
著者:宮内悠介
出版社:集英社
価格:本体1,500円+税
https://books.shueisha.co.jp/items/contents.html?isbn=978-4-08-771720-4

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