カイジ、トネガワ、ハンチョウ……予想不能な広がりを見せる“福本伸行ユニバース”の懐の深さ
まさか賭博黙示録ユニバースがこんなに広がると思わないじゃないですか。何の話かと申しますと、『賭博黙示録カイジ』の新作映画の公開、さらにスピンオフ漫画の異常増殖の話です。
福本伸行先生の『カイジ』といえば、人生ドン底の青年カイジが、様々な死のゲームを機転とド根性で乗り越えていくギャンブル漫画の金字塔。裏の裏を読みあう心理戦と、アクロバットな逆転劇。そしてカイジ構文と呼ぶべき独特なセリフ回しで知られています。「ざわ……ざわ……」「Congratulation! Congratulation!」「Fuck You ぶち殺すぞ……ゴミめら……!」など、本編は読んでいなくても見覚えはある、という方も多いのではないでしょうか。このように有名作なので、当然のように実写化されました。そして人気キャラも多くいるので、それを主人公にしたスピンオフが量産されているのですが……同じく狂ったようにスピンオフが出ているヤンキー漫画の金字塔『クローズ』は、スピンオフも全てヤンキー漫画になっています。ところが『カイジ』の場合はカイジ構文を駆使したギャグ漫画になっているのです。
まずご紹介したいのが『中間管理録トネガワ』。主人公のトネガワこと利根川幸雄は、本編の悪役・帝愛グループの幹部で、カイジと名勝負を繰り広げた人物です。しかし、本作では上から叱られ、下の揉め事を治めると言った、中間管理職としてのドタバタが描かれます。また回を重ねるごとに自由さを増していき、「本編に登場するゲームのネタを部下たちと考える」「Fuck Youの正しい発音を部下に教える」という舞台裏感のあるネタから、「帝愛のSNSが炎上する」「乗っていた飛行機が墜落しそうになる」「帝愛グループの会長の影武者(通称まさやん)を育てたら、自分を会長だと思い込む狂気の老人になってしまった」など、本編では出来ない……いや、本編も本編で今は凄い展開になっているので、ないとは言い切れないのですが、ともかく本編とは一線を画すギャグ漫画になっております。
これが『1日外出録ハンチョウ』になると、さらに自由さが増します。主人公のハンチョウはカイジが帝愛グループの地下労働所で出会う卑劣漢……なのですが、ここでは仲間たちと楽しい休日を過ごす日常系ギャグ漫画の主人公に。最初は『孤独のグルメ』的な、いわゆる飯テロ系/あるある系の漫画をやっていたのですが、こちらも回を重ねるごとに自由さがエスカレート。「餃子パーティーをしていたら時間がループし始める」「幽体離脱する」など、大ネタをブチかましてくるようになりました。ただ直近は「昼めしを何にするのか?」ネタだったりと、飛び道具と地味回の幅が凄い。ようするに何でもありな状態です。
こうした事が許されるのは、ひとえに福本伸行先生の懐の深さでしょう。自由を許すスタンスがなければ、こんなふうにはなりません。そもそも『カイジ』の実写版も、原作とはかなり異なる部分があります。もっと言うと、実は中国でも『カイジ』は映画化されていて、『カイジ 動物世界』(2018年)の邦題でNetflix配信&レンタル屋に並んでいます。こちらは限定ジャンケンを忠実にやりながらも、何とクリーチャーの登場する超絶アクション映画の快作です。「全然違うやんけ」とクレームがついてもおかしくなさそうですが、これを公認しているのは「面白ければ何でもOKよ」ということなのでしょう。