『僕のヒーローアカデミア』はヴィランの物語も壮絶だ 総力戦はいよいよ予測不能な領域へ

『ヒロアカ』描かれるヴィランたちの魅力

 もちろんヴィランがいくつもの犯罪行為を重ねる悪党で、彼らのせいで死者が多数出ていることは頭ではわかっているのだが、それでも同情してしまうのは、ここまで作者が彼らのバックボーンを、ヒーローたちと同じくらい丁寧に描いてきたからだろう。

 特にトゥワイスは「二倍」の能力で増やした自分の分身がお互いに殺し合うという壮絶な経験をしたことで精神を病んでおり、その挫折を抱えているからこそ仲間を大切にしようとするイイ奴である。

 饒舌に自分の気持ちを喋りまくる姿や、マスクの造形を見るに、アメコミヒーローのデッドプールにインスパイアされたキャラクターだと思うのだが、自分の弱さを剥き出しにして必死で戦う姿には妙な愛嬌があり、おそらく大人の読者ほど、彼のことが好きだったのではないかと思う。

 そんなトゥワイスがホークスとの戦いで命を落とし、仲間の荼毘が敵討ちをする姿をみていると、一体どっちがヒーローなのかわからなくなってくるのだが、おそらく堀越耕平はヒーローとヴィラン、双方に感情移入して描いているのだろう。

 その結果、物語の向かう先がわからないのが今の『ヒロアカ』の面白さであり、不穏さだ。最終的にはデクたちヒーローを肯定する物語に着地すると思うのだが、しばらくこの混沌とした状況が続きそうである。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■書籍情報
『僕のヒーローアカデミア』(ジャンプコミックス)既刊27巻
著者:堀越耕平
出版社:集英社
https://www.shonenjump.com/j/rensai/myhero.html

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