『ジョジョ』や『幽遊白書』で確立された異能バトルの進化系 “不死”と“不運”で戦う『アンデッドアンラック』の新しさ
戸塚慶文の『アンデッドアンラック』(集英社)はタイトルのとおり「不死」(アンデット)のアンディと「不運」(アンラック)な出雲風子の物語だ。
8歳の時に出雲風子は、海外出張に旅立つ両親に抱きしめてもらい飛行場で見送る。しかしその後、エンジントラブルが起きて機体が爆発。両親を含めた270人が命を落とす。自分の肌に直接に触れた人間に不幸が訪れることを知った風子は肌を隠し人との接触を避けて生きてきたが、10年後、ついに耐えられなくなり飛び降り自殺をしようとする。そこに額にカードを刺した半裸の男が現れる。男は風子の持っていた包丁を自ら胸に刺し、風子にじかに触る。すると足元が崩れて線路に落下し電車に激突。また人を巻き込んでしまったと思う風子。しかし男は生首だけになって風子を追いかけてくる。
すぐに体を再生し「俺は不死(アンデッド)だ」と言う(名前を覚えていない)男を風子はアンディと呼び、一緒に行動することに。2人の力を危険視する対未確認現象統制組織・ユニオンの刺客と戦いながら、風子の力を研究するアンディ。やがて風子の「不運」には、ある法則性があることを発見する。
現在、『週刊少年ジャンプ』で連載されている『アンデッドアンラック』は第1巻まで発売されているのだが、この1巻が実に良く出来ている。
まず第1話で出雲風子の「不運」を見せた後で「不死」の男・アンディのキャラクターを紹介すると同時に、敵となるユニオンの黒服たちとの対決を描く。そして第2話で2人と同じ力を持つ「否定者」が登場し否定者同士のバトルを展開する。同時に、ユニオンに所属する否定者10人の特殊チームに入れば、追跡の対象外となることがわかり、そのためには「10人の否定者から座席を2つ奪わないといけない」という条件が提示される。つまりアンディと風子は2人の否定者を倒さないといけなくなるのだ。
パワードスーツを着た「体の自由を奪う」否定者を倒した2人は、ロシアのバイカル湖付近にいる否定者の元へと向かう。戦う否定者は過去にアンディと因縁のある女・ジーナ。物の形の変化を否定する「不変」の力を操るジーナに対し、アンディと風子は戦いを挑むのだが、テンポが良く設定をまったく出し惜しみしていない。
舞台が世界規模に広がり、移動にクルーザーやジェット機を使うのも映画『007』シリーズのような派手さがあっていいのだが、何より素晴らしいのは否定者の能力が理詰めで作られていること。
「不死」を逆手にとって体がバラバラになることを厭わないアンディの戦い方も凄いが、何より風子の「不運」の法則性が徐々にわかってくるのが面白い。皮膚が接触する時間と範囲、触る相手に対する感情によって発生する「不運」は変化しており、その法則性を逆手にとって2人が戦う姿を見ていると、これは新しいバトル漫画だと実感する。
特殊能力者同士の異能バトルは、90年代に荒木飛呂彦が『ジョジョの奇妙な冒険』で“スタンド”と呼ばれる可視化された超能力による戦いを描いて以降、冨樫義博の『幽遊白書』や『HUNTER×HUNTER』といった後続のジャンプ漫画に影響を与え、やがて、上遠野浩平の『ブギーポップは笑わない』(電撃文庫)や西尾維新の『戯言シリーズ』(講談社)といったライトノベルやミステリーにも影響が広がっていく。