『僕のヒーローアカデミア』危うい魅力の根源とは? 26巻で描かれるヴィランたちの苦悩や葛藤
堀越耕平の『僕のヒーローアカデミア』(集英社、以下『ヒロアカ』)は『週刊少年ジャンプ』で連載されているヒーロー漫画だ。舞台は世界人口の約8割が“個性”と呼ばれる特異体質を持っている超人社会。主人公の緑谷出久(デク)は無個性でヒーローの資質がなかったが「平和の象徴」と呼ばれるナンバー1ヒーロー・オールマイトからワン・フォー・オールという個性を継承しヒーロー育成の名門校である雄英高校に入学。ヒーローを目指しながら、個性を悪用するヴィラン(悪党)と戦うことになる。
アメリカン・コミックスのヒーロー漫画とジャンプのバトル漫画のテイストをうまく融合した本作はジャンプで人気を獲得。アニメ映画の最新作『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ヒーローズ:ライジング』はヒーロー漫画の本家・北米でも公開されて日本アニメ映画の歴代興収の8位を記録し、国内外で大きな反響を読んでいる。
本作は、良質な少年漫画としてヒーローたちの成長を丁寧に描いてきた。今後もデクが個性の使い方を覚えてパワーアップしていく姿が楽しみだが、同時に最近の『ヒロアカ』は、時に少年漫画としてのバランスを壊しかねない危うい魅力を漂わせはじめている。
以下、ネタバレあり。
最新巻となる26巻ではデクが同級生の爆豪勝己と轟焦凍と共に、オールマイトが引退した後、世界ナンバー1のヒーローとなった焦凍の父・エンデヴァー(轟炎司)の事務所でインターンとして働く姿が描かれた。
少年漫画としての見どころは人気投票ベスト3の常連であるデクと爆豪と焦凍の三人がチームを組む姿だが、焦点が当てられるのは父として苦悩するエンデヴァーの姿だ。オールマイトの引退によって、望まない形でナンバー1ヒーローとなったエンデヴァーは、今までにない社会的責任を背負うことになり、その渦中で自分のせいで崩壊した家族と再び向き合い償おうとする。
焦凍は、忌み嫌った父から遺伝したもう一つの力(炎の個性)の使い方を学ぶことでエンデヴァーと和解しつつあったが、兄・夏雄は彼を許そうとはしなかった。エンデヴァーの姿には、家庭を顧みずに仕事に没頭していた中年サラリーマンのような悲哀があり、こういった大人の人間ドラマを少年漫画の中に組み込む展開には驚かされる。デクたち少年少女だけでなく、エンデヴァーのようなお父さんの成長まで描ける懐の広さは『ヒロアカ』の魅力と言えるだろう。様々な年齢、様々な立場の人々の葛藤が多角的に描かれるのは本作の特徴だ。
最初は傲慢な父親に見えたエンデヴァーも話数が進むと深く掘り下げられ、読者にとって親しみやすい存在へと変わっていったのだが、現在もっとも力が入っているのがヴィランたちの物語だ。