『セーラームーン』が教えてくれた、強くかっこいい女性の生き方 “戦隊物”少女漫画のラディカルな魅力

『セーラームーン』が教えてくれた、強くかっこいい女性の生き方 “戦隊物”少女漫画のラディカルな魅力

 セーラー型のコスチュームを身にまとい、戦う少女たち。その凛々しくも美しい姿は、途方もなく鮮烈だった。キラキラとした物語は、プリズムのように少女の多面的な姿を映し出してゆく。女の子が可愛いだけでなく、強くもかっこよくもなれる存在であることを、セーラームーンは私たちに教えてくれた――。

 90年代の日本に社会現象を巻き起こし、近年はグローバルにファンを獲得してさらなる広がりを見せる『美少女戦士セーラームーン』(以下『セーラームーン』)。武内直子によるマンガは講談社の『なかよし』で1992年2月号から連載開始、テレビアニメもほぼ同時の1992年3月より放映。泣き虫でごく普通の中学生・月野うさぎがセーラームーンに変身して戦う物語は好評を博し、マンガ・テレビアニメともに第5部まで制作された。

火野レイ(左)、天王はるか(右)

 多くのファンが知るように、『セーラームーン』の原作マンガと90年代に放映されたテレビアニメでは、内容や作風が大きく異なる。より子ども視聴者を意識したテレビアニメでは、ギャグをふんだんに取り入れたコミカルな表現を前面に押し出し、セーラー戦士の友情と絆に主軸を置いた物語が描かれた。原作ではクールな火野レイの性格をギャグに寄せ、両性具有だった天王はるかをアニメでは男装の麗人にするなど、主要キャラの設定にも改変が見られる。ストーリーも原作とは異なる場面が少なくなく、マンガとアニメはそれぞれ独自の路線を打ち出すことで、メディアミックス作品として成功を収めた。

 今回は武内直子の作家性がより色濃く刻まれたマンガ版を取り上げ、原作ならではの魅力と、その表現にみる先進性を振り返っていきたい。なお、現時点で最も入手しやすい新装版のコミックスを参照し、話を進めてゆく。

 テレビアニメではセーラー戦士の友情が大きく取り上げられたが、マンガは月野うさぎとタキシード仮面こと地場衛の、前世から続く宿命の恋がストーリーを貫く柱となる。ロマンスを重視する一方で、『セーラームーン』には少年・青年向け作品のエッセンスも取り入れられており、従来の少女マンガには見られない新鮮な読後感をもたらした。

 最も有名なのは、戦隊物からの影響であろう。特撮戦隊物を好む武内は、『秘密戦隊ゴレンジャー』などを参考に、少女向け作品に初めてチームプレイを持ち込んだ。それまでの魔法少女ものは主人公が一人で敵に立ち向かったが、複数人で力を合わせて戦うスタイルが『セーラームーン』で初めて登場し、以後このジャンルの流れを変えてゆく。マンガの第48話カラーイラストでは、セーラー戦士が10人ずらりと並んだ姿が描かれたが、戦隊物らしい魅力が凝縮されたヴィジュアルとして印象深い。甘さを排した構図と強いまなざしの立ち姿は、どこまでも凛々しく神々しい。

 雑誌『ぱふ』1994年5月号に掲載されたインタビューで、武内は好きな作品を挙げているが、少年向けバイクマンガ(『バリバリ伝説』『ふたり鷹』『ペリカンロード』)や、聖悠紀のSFマンガ『超人ロック』、美少女コミック『プチアップル・パイ』や、かがみあきらなど、少年・青年向け作品への言及が目立つ。「私、かがみあきら先生の大ファンだったんです。“可愛い女の子とメカニック”というのが凄く新鮮で好きでした」と語るように、少女マンガに男の子っぽい要素を取り入れたのも、『セーラームーン』の特徴といえよう。

 武内は理系出身で、小さい頃から模型やプラモデル、天体望遠鏡が好きだったという。そんな作者の趣味を反映して、『セーラームーン』に登場するアイテムにはどこか理科的な匂いが漂う。宇宙をモチーフにしたセーラー戦士や、ゾイサイトやクンツァイトなど鉱物に由来する敵の名前など、随所にマニアックな理科趣味が反映されているのも90年代の少女マンガとしては珍しかった。セーラー戦士が身にまとう装身具や、うさぎと衛を繋ぐアイテムとして登場した星型のムーンフェイズ懐中時計など、作中に登場する小道具はメカニカルで美しい。大人っぽく繊細な絵柄で描き出された、硬質でコスミックな世界観は、アニメとは異なるマンガ版ならではの魅力を生み出している。

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