『セーラームーン』が教えてくれた、強くかっこいい女性の生き方 “戦隊物”少女漫画のラディカルな魅力

セーラームーンが教えてくれた女性の生き方

 『セーラームーン』はまた、ガールズパワーの描写でも先進的な作品だった。女性が守られる立場に甘んじず、愛する人のために戦うその姿は、従来の姫と王子像を軽々と逆転してみせる。第8話でセーラームーンが「ここは 危険よ 敵は あたしたちがたおす! できるだけ遠くへ にげて!」とタキシード仮面に呼びかけたように、最前線で戦うのはいつもうさぎたちであった。一方のタキシード仮面は、「しっかりしろ! セーラームーン! 君ならできる!」(第6話)や、「迷ったり不安になったときは オレが力になる」「だから 君は迷わずに戦え」(第26話)と、セーラームーンの心の支えになり、励ます役割を担う。

愛野美奈子

 うさぎと共に戦い、彼女を守るのは、王子ではなくセーラー戦士だ。マンガには、セーラー戦士のプリンセスへの想いや、彼女を守りたいと強い意思を見せる場面がたびたび登場する。第52話でセーラースターライツと対峙した愛野美奈子は、「そうよ もうとっくにあたしには 命をささげた たった一人の人がいるわ」と胸中を明かし、火野レイとともに「――そうよ だからあたしたち 男なんかおよびじゃないのよ わるい?」とほほ笑んでみせる。うさぎを守る騎士としての決意があらわれた、原作の名シーン・名セリフとして印象深い。

 『セーラームーン』は主人公の異性愛を主軸に据えながらも、一方ではさまざまな愛のかたちや、同性同士の絆にも光が当てられた。保守的な男女観にとらわれない姿や、多様な愛のあり方を教えてくれた物語は、どこまでもロマンチックでラディカルだ。大人になったからこそ十全に理解できる感情や言葉にあふれ、作品の背後にある思想は今日という時代においてこそ、よりアクチュアルに響いてくる。その奥深い世界の扉をもう一度開き、今こそ再び、セーラームーンに出会いたい。

■嵯峨景子
1979年、北海道生まれ。フリーライター。出版文化を中心に幅広いジャンルの調査や執筆を手がける。著書に『氷室冴子とその時代』や『コバルト文庫で辿る少女小説変遷史』など。
Twitter:@k_saga

■書籍情報
新装版 『美少女戦士セーラームーン』(KCデラックス)1〜12巻完結
著者:武内直子
出版社:株式会社 講談社
定価:各・本体490円(税別)
出版社サイト(1巻)

美少女戦士セーラームーン 25周年プロジェクト公式サイト
http://sailormoon-official.com/

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「書評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる