本の“装丁”にはどんな演出が施されている? 現役装丁デザイナーが著したお仕事小説『すべては装丁内』

『すべては装丁内』著者は装丁デザイナー

装丁が本の中身も輝かせる

 装丁デザイナーがどんなことを考えてデザインを作っていくのかも本書はわかりやすく教えてくれる。

 「ただきれいに文字を置いているだけ」くらいの認識だった可能子は、烏口の取材に同行してその認識を改める。著者の地元を巡り、どんな場所で詩が生まれたのかの感覚を掴み、最適なキーカラーを探る。さらには大御所イラストレーターが仕上げたイラスト詩の共通点を見出し、両者の原風景と思われる風景写真を撮影し、本文の素材に生かしていく。

 SNSで発表された詩を書籍にまとめるからには、SNSで読んだ時とは異なる読書体験を与える必要がある。そこで烏口は、大胆に1つの詩だけで1ページを構成して余白を効果的に用いたり、連続したイメージを喚起させる詩を1ページにまとめたり、風景写真の上に詩を置くなど、様々な方法で本を「演出」してゆく。

 表紙のデザインも、「文字を乗せない」というイラストレーターの指定の裏にある意図と想いを汲み取り、逆にできることは何かを考え、作り上げていく。そして、しっくりくるデザインを作るだけでなく、あえて引っかかりを作り、店頭やウェブで並べられた時のインパクトも考慮する。

 「これは間違いなく―著者や装画と同じ、創作に枠に入るものだ(P120)」と可能子は感嘆する。著者やイラストレーターの創作物を生かすも殺すも装丁次第、本への深い理解と広い想像力が求められる仕事なのだ。

著者は現役装丁デザイナー

 著者の木緒なちは、作家でありながらグラフィックデザイナーとしてブックデザインも手掛けている。本書の装丁にまつわるリアリティある言葉は、自身の体験や心の奥底で感じたことから出てきているのだろう。あとがきにも「烏口が語るブックデザイン、そして本への想いは、一切ウソは書いておりません(P250)」と力強く記している。もちろん、本書の装丁も自身で手掛けている。

 本書を読むと、本の楽しみ方が広がる。お気に入りの本の装丁をもう一度よく見て、デザイナーがどんな意図を込めたのかを想像してみてほしい。そうすることで、一度読んだ本の新たな魅力を発見できるだろう。そして、今よりももっと本を好きになれるはずだ。

■杉本穂高
神奈川県厚木市のミニシアター「アミューあつぎ映画.comシネマ」の元支配人。ブログ:「Film Goes With Net」書いてます。他ハフィントン・ポストなどでも映画評を執筆中。

■書籍情報
『すべては装丁内』(LINE文庫)
著者:木緒なち
イラスト:三嶋くろね
出版社:LINE
価格:693円(税込)
http://novel-blog.line.me/archives/18817261.html

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