悪役令嬢もの人気作「はめふら」の魅力は主人公の“人タラシ”にあり? 『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』評
前世で野生児だった主人公は、カタリナになっても、その性格のまま突っ走る。はっきりいって“おバカ”な彼女は、ひとり脳内会議をしても、とんちんかんな結論しか出てこない。鈍感系かつ勘違い系のカタリナは、貴族令嬢らしくない言動ばかりするのだ。でも、それが周囲の人々に、よき影響を与える。そして彼女は、男性のみならず女性も惚れさせてしまうのだ。
ジオルドを始めとする美男美女は、みんなカタリナに恋愛感情を向ける。ところがカタリナが向けるのは、親愛の感情だ(なにしろ、鈍感系かつ勘違い系だから)。本作の美点は、ここにある。過度に恋愛方向に傾くことなく、カタリナを中心にして、みんなでワイワイしながら、さまざまな騒動に立ち向かう、明るく楽しい世界になっているのである。
それにしても、どんな問題や困難も全力で突破するカタリナは、やはり魅力的な主人公だ。物語は現在、学園から魔法省に移り、キャラクターも増えて、ますます賑やかになっている。この愉快なコミュニティを、いつまでも見ていたいものだ。
ところで本作は、コミカライズもされている。絵を担当しているのは、小説のイラストを担当しているひだかなみだ。作品のビジュアル・イメージを決定するのはイラストレーターだが、必ずしもコミカライズに最適な人材というわけではない。なぜならイラストと漫画は、まったくの別物だからだ。だが本作に関しては大成功であった。ひだかなみのコミカライズは、作品をよく咀嚼しており、理想的なコミカライズになっている。このようなイラストレーター兼漫画家を得たのは、作品にとって幸運であった。
さらに放送の開始されたアニメも、第一話を見た限りでは出来がいい。強い運を引き寄せるのも、作品の実力か。マルチメディア展開で広がっていく物語世界を、これからも堪能したいものである。
■細谷正充
1963年、埼玉県生まれ。文芸評論家。歴史時代小説、ミステリーなどのエンターテインメント作品を中心に、書評、解説を数多く執筆している。アンソロジーの編者としての著書も多い。主な編著書に『歴史・時代小説の快楽 読まなきゃ死ねない全100作ガイド』『井伊の赤備え 徳川四天王筆頭史譚』『名刀伝』『名刀伝(二)』『名城伝』などがある。
■書籍情報
『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』(一迅社文庫アイリス)1〜8巻
<最新9巻が2020年4月20日に発売予定>
著者:山口悟
イラスト:ひだかなみ
出版社:一迅社
価格:各 本体638円+税
http://www.ichijinsha.co.jp/special/iris/otomegame/