恩田陸が明かす、20年ぶりの続編『ドミノ in 上海』執筆秘話 「広げた風呂敷を畳むことができるか不安でした」

恩田陸が語る、20年ぶりの続編

「ありえるかも⁉」と思える非日常のドライブ感


――25人+3匹を動かすのも大変だとは思うんですが、それぞれの背景を考えるのも大変だったのでは。たとえば前作にも登場した、元暴走族の健児。千葉でデリバリーのピザ屋を営んでいた彼が、上海でデリバリーの寿司屋をたちあげ成功している様子はかなりリアリティがありました。

恩田:中国の、とくに都市部は外食文化で、ほとんど自炊しないんですよ。だから、家で食べるにしてもテイクアウトするか出前をとるだろうなと思った。どこの国にも必ず中華街ができるように、基本的に中国の方々は故郷の料理ばかりを食べるので、上海に行ったときはどこもかしこも中華料理屋ばかりで驚いたんですけど、それでもマクドナルドなどのチェーン店はあるし、寿司のデリバリーをしたら儲かるんじゃないか……と、けっこう現実的に考えました。上海では一時、食品偽装が問題になって、日本の食品が大量に輸入されていましたしね。健児もきっと、もっと成功したいと考えたとき、千葉のピザ屋では行き詰まりを感じるだろうなと思いましたし。

――中国で寿司をつくるのではなく、高度な冷凍技術を導入して日本から輸入するのもなるほどと思いました。

恩田:むかし、クルーズ船に乗ったときに出されたお寿司が、日本から冷凍して持ち込んだものだったんですよ。握りたてみたいな鮮度で、言われなきゃ全然わからなかった。これは使えるな、と思って覚えていたんです。ほかにも、アートフェアの描写がありますけれど、根津美術館が建築費を調達するために中国時計を売ったら予想よりも高く売れたという記事を読んだことがあって。美術市場の付加価値も広がっているだろうな、と思ったことが生きています。

――そこで、前作に画廊勤務として登場した美江さんも絡んできた、と。

恩田:そうですね。前作でその設定はとくにフィーチャーされてませんでしたけど、おかげで彼女も登場させることができました。前作でコンビ(?)だった正博のことは、忘れていました(笑)。

――こちらも前作から続いて登場する保険会社勤務のOL、和美・優子・えり子もそうですが、ドミノシリーズは女性が強いですよね。とくに、健児と結婚して会社をやめたえり子は、その洞察眼と行動力が物語のカギにもなってきます。

恩田:会社員時代の先輩方がみんなたくましかったので、そのイメージが強いかもしれません。対して、3人に虐げられていた森川くんですが、彼も会社をやめ、上海で立派に成功していて……。適材適所って大事だなあ、と書いていて思いました。前作は、合わない場所に身を置かせて申し訳なかった(笑)。物語の本筋とは関係ないですけど、カメオ出演みたいな形で彼も登場させられてよかったです。キャラクターのそういうちょっとしたエピソードを書いているときがいちばん楽しくて、小説を書いているなあって実感できるので。

――そういう、地に足の着いた人物造形から生まれるリアリティがあるからこそ、物語が非現実にジャンプしても、どこか「ありえるかも……」と楽しめるんだと思います。厳厳みたいに賢くて、人間を出し抜くパンダがいてもおかしくないな、とか。

恩田:彼のように、漢詩を読めるパンダはいないと思いますけどね(笑)。

――風水師と、神官の娘と、山伏の子孫が集結して、超常現象に立ち向かうことも(笑)。

恩田:ああ、でも、風水師には会ったんですよ。簡単な風水講座を受けたんですけど、私の顔をじーっと見て、「あなた〇年に仕事を変えたでしょ?」って。それが、私が独立した年だったんです。どうしてそんなことがわかるんだろうってびっくりしちゃって。最初は疑っていた通訳の方も、最後のほうは「私はどうですか?」って前のめりで聞いていたくらい。その印象が強烈だったので、今回、登場させることにしました。そんな感じであちこちからネタを引っ張ってきて、書きながら考えていった感じですね。決めずに書く、というのはいつものことですけれど、型にはめなかったからこそ出せたドライブ感はあったかな、と思います。

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