恩田陸が明かす、20年ぶりの続編『ドミノ in 上海』執筆秘話 「広げた風呂敷を畳むことができるか不安でした」
1992年、『六番目の小夜子』でのデビュー以来、数々のベストセラーとメディア化作品を執筆してきた恩田陸が、2001年の作品『ドミノ』の続編『ドミノin上海』をおよそ20年ぶりにリリースした。舞台を東京から上海に移し、25人+3匹の登場人物がドミノ倒しのように物語を繰り広げていく、568ページに及ぶ大作だ。
今回は恩田陸本人に、20年ぶりに帰ってきた『ドミノ』の舞台を上海にした理由から、キャラクターのモデル、そして最近ハマっている音楽まで、執筆にまつわる様々なことについて語ってもらった。(編集部)【インタビューの最後にサイン入り書籍プレゼント企画あり】
20年の時を経て『ドミノ』が帰ってきた!
ーータイトルどおり、今度の舞台は上海ですが……ラストがあんなふうになるとは想像できず、600ページ近くあるのに一気読みでした。
恩田:作者自身も、想像していませんでしたから(笑)。前作を書き終えて「次を書くとしたらどこが舞台だろう?」と考えて、思いついたのが上海だったんです。当時は今以上にイケイケの場所というイメージが強くて、じゃあ、ということで取材にも行ったんですが、そこから書き始めるのに時間がかかり、新聞連載の作品を優先することになってさらに時間がかかり……というわけで、ようやく連載開始できたのが2008年。完成までにこんなに月日がかかってしまいました。
――前作でも登場したホラー映画監督フィリップ・クレイヴンの溺愛するイグアナのダリオが、誤って調理されてしまうところから物語は始まりますが、前作からのファンとしては衝撃でした。「え⁉ ダリオが死んじゃった⁉」と。
恩田:すみません、いきなり殺しちゃって……。最初に、フィリップがお悔やみを言われている姿が思い浮かんで、なんでだろう?と考えたとき、ああダリオが死んじゃったのかなと。中国の料理人なら、イグアナを見たら腕が鳴るかも、っていう感じで大皿に載せてしまいました。そこから始まる序章に登場する人たちがメインで物語は動いてくんだろうとは思っていたんですが、そこから先のことは正直、あまり考えてなかったです。いきあたりばったりで書いているうち、どんどん話がふくらんで、登場人物も増えてしまった。
――結果、25人+3匹に。幽霊になったダリオと、ハードボイルドで悪賢いパンダ・厳厳(ガンガン)。そして、動物園から脱走した厳厳を追うミニチュアダックスフンドの燦燦(サンサン)。とくに厳厳の描写は、恩田さん自身も筆が乗ったんだろうな、と思うくらい生き生きとしていて楽しかったです。
恩田:私の心のふるさと的存在でしたね。詰まったときは、厳厳の描写を入れると話がうまく転がりだす、ということが多かったんです。人間はみんな、基本的に個性が強いというか我が強いというか、なかなかこちらの思いどおりにはならないんですよ。あっちに行ってほしいのに、こいつ意外と疑り深くて動かないな、とか。
――それぞれに思惑がありますしね。悲しみに暮れるクレイヴンのせいで、映画の撮影が進まない。状況を打開すべく呼ばれた風水師。一方で、〈蝙蝠〉と呼ばれる秘宝をめぐって犯罪組織と警察の攻防があり、そこに日本からやってきた観光客のOLや、ダリオを調理した青龍飯店(ホテル)料理長など、みんなが巻き込まれていく……。
恩田:主軸となる〈蝙蝠〉の伏線をどう張っていくのか、というのも書きながら考えていたので、広げた風呂敷をちゃんと畳むことができるだろうかと連載中はずっと不安でした。でもそれも厳厳に救われたというか、終盤で青龍飯店に集まったみんなの前で、彼が〈蝙蝠〉を〇〇〇〇〇くれたおかげで「ああ、やっと終われる」と思ったんですよね。
――バラバラに動いていたはずの登場人物たちが一堂に集結するところは、前作同様、この作品の山場ですよね。読んでいて、いちばん興奮する場面です。
恩田:もともと『ドミノ』は、ポール・トーマス・アンダーソン監督の『マグノリア』という映画を観たのがきっかけで書き始めたんです。あの作品も無関係のひとたちを描いた群像劇なんですが、きっとラストでどこかに集結し、物語が繋がるんだろうと思っていたのに、ほぼ無関係のまま終わってしまった。私だったらそうはしないな、と思ったので、前作も今作も“一堂に集める”というのは外せない場面でした。まさか、集まったあとにまたみんなでホテルを出ていっちゃうとは、私も思いませんでしたけど、これだけの長さになった物語を締めくくるには、もっと広い場所じゃなきゃいけなかったということですね。