戸田真琴、AV女優という仕事を選んだ真意は? エッセイに綴られた、孤独の中の愛

AV女優・戸田真琴が綴る仕事と孤独

 渋谷センター街の入り口にある大盛堂書店で書店員を務める山本亮が、今注目の新人作家の作品をおすすめする連載。第4回である今回は、戸田真琴『人を心から愛したことがないのだと気づいてしまっても』を紹介。戸田はAV女優として活躍する傍ら、エッセイを執筆。3月に発売された本作は、2作目の単行本となる。(編集部)

連載第1回:『熊本くんの本棚』『結婚の奴』
連載第2回:『犬のかたちをしているもの』『タイガー理髪店心中』『箱とキツネと、パイナップル』
連載第3回:『金木犀とメテオラ』

 書店の店頭には様々な世代の書き手によるエッセイ、コミックエッセイがずらりと棚を占めている。そこでは有名無名問わず、誰にでも等しくスタートラインが引かれているのがわかる。

前作『あなたの孤独は美しい』(竹書房)

 AV女優や文章家、映画監督としても活躍する戸田真琴が去年の暮れに刊行した初エッセイ集『あなたの孤独は美しい』を読んで、これほど真面目に“生き方”を追求している人が世間に存在しているのかと驚いた。今までの来し方、家族や周囲の人達を含めて分かり合えない「孤独」と、自分の行動や普段考えていることに対し思考を深め、突き詰めながらも淡々と描く巧みな文章と世界観を堪能した。そんな戸田の新刊『人を心から愛したことがないのだと気づいてしまっても』も前作に引き続きエッセイだ。今作では、自身が仕事をする上での考えを中心に記している。

 なぜAV女優という仕事を選んだのか。著者は「消費」というキーワードを挙げて仕事について綴っている。「女性」としてカテゴライズされて日常を送っていると、他者からの視線や感情によって消費される、という拭うことのできない違和感。それならば〈いっそ、限界まで値踏みされてみよう。徹底的に“消費”されてみよう〉と決意し、AV女優という仕事を選ぶ。その選択に人はどういう見方をするのか、もちろん様々だろう。しかし、著者は分かり合えない相手も無下にしない。

 様々なジャンルで活躍するタレントを輩出している講談社主催のオーディション『ミスiD』。著者はそこに「AV女優・戸田真琴」として応募するのだが、二次面接での自己紹介に著者の人格と想いが凝縮されている。この場面だけでもぜひ読んで頂きたいが、最後こう結ぶのが印象的だ。

あなたがあなたを嫌いにならないなら、私、なんでもします。

 好ましくない相手に「あなたとは合わない」と言うのは簡単だ。だが時間を経て振り返ってみると大事な何かを見落としていたかもしれない。距離を縮める、遠ざける、いっそ懐に入ってみるなど、人との間を保つ手段は色々ある。著者はそれを理解した上で、相手をジャッジしてしまう怖さと傲慢さに対する戒めを常に持っているのではないだろうか。

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