名物書店員がすすめる「“今”注目の新人作家」第4回
戸田真琴、AV女優という仕事を選んだ真意は? エッセイに綴られた、孤独の中の愛
著者は、今まで宣伝や自分の考えを発信していたTwitterアカウントを閉鎖したという(厳密に言えば彼女のスタッフによる宣伝アカウントは存在している)。誰にでも簡単にできることではないが、あえてその選択をした理由として、本書の中で〈本当の宝物はシェアしない〉と語っている。そこで「孤独」という言葉が再び立ち現れる。孤独とは周囲から隔たれた厚い壁ではなく、今までの人生や自分自身を見つめることだ。そしてその中にこそ愛があるのだと著者は考え、また同時に月並みな言い方だが、愛を深く考える術を持っているのではないかとも感じるのだ。
生きていくということはひたすら快楽を求めることではなく、それぞれにとっての本当の愛を考えること。そんな著者の声が聞こえてくる。周囲に流されず自分を大切にして欲しいというのが、この本を通じて著者から届くメッセージだ。このメッセージを、TwitterやnoteなどSNSではなく、簡単に削除訂正できない緊張感のある「紙」という舞台で読めることが嬉しい。
本書を読み、彼女の人生や想いをなぞることで、新たな気づきと道が広がった気がした。これから生きていく中で、孤独に相手の幸せを願うのはわがままだろうか。戸田真琴の試みはまだまだ続いていく。
■山本亮
埼玉県出身。渋谷区大盛堂書店に勤務し、文芸書などを担当している。書店員歴は20年越え。1ヶ月に約20冊の書籍を読んでいる。会ってみたい人(物故者)は川島雄三、チャールズ・ブロンソン。
■書籍情報
『人を心から愛したことがないのだと気づいてしまっても』
著者:戸田真琴
出版社:角川書店
定価:本体1,500円+税
<発売中>
https://www.kadokawa.co.jp/product/321904000020/