乃木坂46×西加奈子「サムのこと」は4期生たちの歩む道程まで照らす ドラマ版の再解釈を読む

乃木坂46×西加奈子「サムのこと」レビュー

 これらのエピソードは原作にはなく、ドラマ版オリジナルの設定から導かれたエピソードである。しかし、サムの不躾な振る舞いを通してメンバーそれぞれの人生の葛藤が照射されてゆくことや、無遠慮なはずのサムの佇まいが不思議と仲間たちの心持ちを軽くしてゆくことなど、サムという存在が周囲の人々に対して与える効果は原作の勘所を確かに捉えている。

 物語全体の中心に位置しながら、遠藤演じるサムはどこまでもその本体が見えない存在としてある。しかし原作を踏まえてアレンジされた最終第4話のクライマックスは、サムという人物の輪郭を初めてはっきりと感じさせる。ここに現れるサムの意志は、ドラマ版のみが描き出した基調である。

 そして全4話のなかで最も小説版に忠実な言葉で語り継がれる最後の台詞は、サムの人物像が明確になったのちであるだけに、原作とは風合いの異なる晴れやかさをもつ。それはまた、登場人物たちを演じる乃木坂46の4期生たちが同期として歩む道程を照らすものでもあり、さらにいえばアイドルとしてのキャリアのみならず、彼女たちの人生全体を見通す射程をも持っている。フィクションの役柄と演者の生とがかすかに交錯するその共鳴にこそ、ドラマ版「サムのこと」のオリジナリティはある。西加奈子の原作で描かれる、先行きが未確定でありながら自らの現在をどこか飄々と受け止める人物たちの姿も愛おしいが、サムと仲間たちとの間の対照関係を継承しながら若いキャストたちの生を映し出すドラマ版の再解釈もまた、得難い余韻をたたえている。

■香月孝史(Twitter
ライター。『宝塚イズム』などで執筆。著書に『「アイドル」の読み方: 混乱する「語り」を問う』(青弓社ライブラリー)がある。

■番組概要
『サムのこと』(全4話各話約20分)
dTVにて、3月20日(金)、21日(土)、27日(金)、28日(土)配信
出演:遠藤さくら、早川聖来、田村真佑、掛橋沙耶香、金川紗耶、筒井あやめ、矢久保美緒ほか
原作:『サムのこと 猿に会う』西加奈子(小学館文庫)
監督:森淳一
脚本:三嶋龍朗
チーフプロデューサー:上田徳浩
プロデュース:鈴木健太郎、備前島幹人
プロデューサー:龍貴大、西ヶ谷寿一、横山蘭平
協力:秋元康
(c)西加奈子・小学館/エイベックス通信放送

『猿に会う』 (全4話各話約20分)
出演:賀喜遥香、清宮レイ、柴田柚菜、北川悠理ほか
原作:『サムのこと 猿に会う』西加奈子(小学館文庫)
監督:高橋栄樹
脚本:穐山茉由
チーフプロデューサー:上田徳浩
プロデュース:鈴木健太郎、備前島幹人
プロデューサー:龍貴大、西ヶ谷寿一、横山蘭平
協力:秋元康
(c)西加奈子・小学館/エイベックス通信放送
公式サイト:https://nogizaka46.dtv.jp
公式Twitter:https://twitter.com/dtv_nogizaka46

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