『鬼滅の刃』鬼舞辻無惨はジャンプ史に残るボスキャラだ DIO、カーズ、シックスに連なる“悪の系譜”を読む

『鬼滅の刃』鬼舞辻無惨はジャンプ史に残るボスキャラだ DIO、カーズ、シックスに連なる“悪の系譜”を読む

悪鬼殺し(Demon Slayer)の物語

 人類史上、最大のキャラクターが「キリスト」だとすれば、それに続くナンバー2のキャラクターは「悪魔」である……。漫画原作者、小池一夫はそんなことを語っている。(『大阪芸術大学 大学漫画』vol.1「小池一夫の誌上キャラクター原論」第1回)敵対者が邪悪で強大であるほど、それに打ち勝つヒーローの存在は輝くだろう。だから物語のヒーロー(主人公)は、個性的で、強く記憶に残る「ボスキャラ」を必要とする。

 『鬼滅の刃』という物語も例外ではない。「鬼舞辻無惨」というボスキャラは、ジャンプ史に残るレベルの魅力で読者を惹き付け……、主人公たちからの「敵意」を徹底して引き寄せている。また、こうも言えるだろう。私たちは、「勧善懲悪」「正義の味方」といった言葉を聞くと、無邪気すぎると感じて、まず疑ってしまう時代に生きている。

鬼滅の刃(英語版)

 だが『鬼滅の刃』は「デーモンスレイヤー」(悪魔を殺す者・兵器)という、ダイレクトすぎる英語版タイトルにも表れているように、「鬼を滅ぼす」ことが主題で、「無惨以外にも通用する正義」を語らない。正義はなくとも、「この世に存在してはいけない悪」は『鬼滅の刃』に存在する!

 無惨はすべての「元凶」であり、彼がいなければ鬼殺隊が存続する意味もなくなる。「同情の余地のない悪」であり、彼が悪を行う理由は「千年以上生きてもまだ長生きしたい」ことと、「昼間に行動が制限されることが屈辱」だという、肥大したエゴイズムにすぎない。

 彼には、共感できる仲間もいない。読者がよく「ブラック企業の社長」「ネットにいる話の通じない人」に例えてネタ扱いするが、悪事の大きさ、強さに比べてその本性は「小物」「クズ」と呼んでも足りないほどで、自分以外に対して常に腹を立てている。同胞である他の鬼たちも悪事を行うが、ほとんど無惨のために歪められた「犠牲者」と言うこともできて、『鬼滅の刃』の「悪」は、無惨ただ一人に集約されていくのだ。

 そして主人公である竈門炭治郎は、「鬼を必ず滅ぼす」という敵意と、「鬼も可哀想な人間だ」という慈愛を両立させたヒーローとして鬼と戦い続けてきた。鬼の多くは、どれだけ残忍であっても同情を誘う過去の記憶を隠している。彼らが炭治郎から慈愛を向けられることで、無惨の徹底した「同情のできなさ」も強調されるのだ。

「悪」を模索してきたジャンプ作家の系譜

 作者の吾峠呼世晴は、好きな漫画の筆頭に『ジョジョの奇妙な冒険』を挙げるジョジョ好きとしても知られている。実際、鬼舞辻無惨の自己中心ぶりには、ジョジョシリーズをまたぐボスキャラである「DIO(ディオ)」や、第二部のボスキャラ「カーズ」を連想する人も多いだろう。(関連記事:『鬼滅の刃』のルーツは『ジョジョ』にあり? https://realsound.jp/book/2020/01/post-476587.html

 ジョジョの歴代ボスを罵倒するセリフは、なかなか激しくて記憶に残りやすい。「ゲロ以下のにおいがプンプンする悪(ワル)」「この世のどんな悪よりもドス黒い性格」「吐き気をもよおす邪悪」などなど、かなりの言われ放題だ。その生みの親である荒木飛呂彦は、DIOほど残酷で自分を優先するボスキャラを「当時珍しい存在だったかもしれない」と振り返っている(『kotoba』2020年春号)。DIOが登場したのは80年代後半だが、実は鳥山明が『DRAGON BALL』で「ピッコロ大魔王」を描くよりも少し早かった。

 歴史上、「DIOほどの悪」がどう珍しいのかは、よく分からない。ただ、魅力的な敵対者には「対等な宿敵やライバル」、「壮大な目的のある理想主義者」などもいて、「倒すことが正義」と言い切れないのは確かだ。すると、「容赦なく命を奪うことが許されるのか?」という疑問も生まれてしまう。 

 また、和月伸宏は『るろうに剣心』の連載後期、「読者が心の底からぶっ倒したいと思う、救いようのない敵」を描こうとしたが、自分としては上手くいかなかったと振り返っていた(『剣心華伝』和月伸宏インタビュー)。逆に得意な作家として、鳥山明と、『ONE PIECE』の尾田栄一郎を挙げるのだが、その尾田が「敵の倒し方」をどう考えていたかも注目したい。

 (『るろうに剣心』後期に出版されていた)『ONE PIECE』4巻で、「ルフィが敵を殺さない理由」を読者に説明している。そこで「ルフィは敵の信念を砕いている」のであり、それは海賊にとって死の痛みに等しく、「殺す殺さないは二の次」だと言うのだ。それは同じ海賊として対等な「信念と信念のぶつかり合い」であり、言ってみれば「ガキ大将同士の誇りを懸けたケンカ」のように捉えていることが分かる。

 つまり、信念のない敵に「魅力的な個性」を与えるのは難しく、ただ不快でカッコよくもない悪党を強大な敵に据えても、ヒーローの魅力は引き立てられない。このバランスの難しさに、ジャンプ作家は向き合ってきたと言える。

 象徴的なのは、松井優征が『魔人探偵脳噛ネウロ』のラスボス「シックス」に名付けた「絶対悪」という強い概念だろう。相対的にぶつかり合う信念でもない、「絶対に肯定できない悪」は漫画で表現できるのか? という作者の挑戦がそこにはあった。

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