浦沢直樹『あさドラ!』は“あまちゃん×シン・ゴジラ×いだてん”? 無茶な物語を成立させる卓越した構成力

浦沢直樹『朝ドラ』の卓越した構成力

 ビッグコミックスピリッツで不定期連載されている浦沢直樹の『連続漫画小説 あさドラ!』(小学館)は、2020年の東京から物語が始まる。

 「ご覧ください東京が……」「首都東京が火の海です!!」「もう我々になす術がないのでしょうか……!!」というアナウンスが流れる中、怪獣らしき存在が街を襲い、人々は逃げ惑う。そして、「このままでは新国立競技場が………!!」「東京オリンピックが………!!」というアナウンスと並行して「この物語は戦後から現代にかけて、可憐にたくましく生きた……」「名もなき女性の、一代記である。」というナレーションが入る。

 言うまでもなく本作のタイトルは、NHKで放送されている朝ドラ(連続テレビ小説)をもじったものだ。朝ドラは一人の女性の一代記を描いたものが多く、冒頭のナレーションはいかにも朝ドラという感じだが、同時に冒頭のアナウンスは、怪獣映画『ゴジラ』の第一作(1954年)を思わせる。

 ここで怪獣(らしき存在)が現れるのが「東京オリンピックを目前に控えた2020年の東京」だというのが、今となっては予見的なものに感じるが「もしも東京オリンピックの年のゴジラが現れたら?」という「ifの歴史」を、朝ドラ形式で描いたら? というアイデアから、この漫画はスタートしたのかもしれない。

 その後、物語の舞台は1959年の名古屋港へと遡り、主人公の少女・浅田アサが登場する。伊勢湾台風が迫る中、泥棒を見つけて追いかけたアサは医者の娘だと間違えられて逆に誘拐される。誘拐したのは、かつて“空の勇者”と呼ばれた飛行機乗りのおっちゃん・春日。アサと話すうちに犯罪に手を染めたことを反省した春日は自首しようと思うが、一夜空けて外に出ると町は水没していた。被災した人々に食料を送るため、アサは春日と共に飛行機に乗ることになり、意識を失った春日の代わりに飛行機を運転することになったアサは、そこでパイロットとしての才能に目覚める。

 朝ドラのパターンをなぞるかに見えた『あさドラ!』だが、冒頭からド派手なシーンの連続である。これは日常描写によって物語を積み重ねていく朝ドラとは真逆のアプローチで、このあたり「漫画で朝ドラをやるなら、これくらい派手にできるぞ」という浦沢の宣言に見える。

 やがて舞台は、東京オリンピックを間近に控えた1964年に移る。17歳になったアサは、行方不明となった両親の代わりに二人の弟と一人の妹の世話をしながら、株式会社ASAのパイロットとして春日の元で働いていた。ある日、春日の元に実相寺実というかつての上司が訪れる。実相寺は春日に相模湾で撮影された写真を見せる。それは水没した町でアサが目撃した巨大生物の尻尾だった。

 物語はアサの成長を描く女性の一代記であると同時に、謎の巨大生物をめぐるサスペンスドラマでもある。南海の密林で巨大生物が巨大樹を引っ掻いたと思しき爪痕を見た現地の男は「アサ……」とつぶやくーー最新刊の第3巻は相模湾沖に現れた巨大生物の姿が描かれたところで、次巻へと続くのだが、まるで怪獣映画のような引きである。

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