LINEノベルは新たな小説創作の場となるか? 「令和小説大賞」受賞作に見る、狙いと展望

LINEノベルは新たな創作の場となるか?

LINEノベルの狙いと今後を推測する

 第1回目の受賞作の傾向を見ると、新鮮なものというより順当なものを選んだのかな、という印象を受ける。言葉を選ばずいえば、無難というか、小粒というか。もちろん、4400作品以上の応募があったとはいえ、まだ第1回。応募者側にも様子見する人が多く、良い作品がそれほど集まらなかったのかもしれない。

 このラインナップでサービスのグロースにどれくらいつながるかは、正直心許ない気がする(改稿によって見違えるように尖った大型作品になるかもしれないし、個人的にはそれを期待しているものの)。

 すぐ「小説家になろう」(以下、「なろう」)などと比較してLINEノベルはダメだとか勝てていないとかいう声も多いのだが、筆者はその判断は時期尚早だと考えている。

 「LINEノベル」のカラーが見えてくる、決まってくるのはおそらく新人賞を何回か続けていくうちに、だろうし、LINEノベル発での独自の売れ筋も数年経たないと見えてこないだろう。

 同様に、新人賞応募作をはじめとする投稿作品が本になり、人気作品がLINEマンガでマンガ化され、実写化・アニメ化されていくにはまだこれから数年で時間がかかる。

 小説作品はマンガ化・映像化されないとなかなかIPの認知が広まっていかないのが日本のコンテンツ市場の特徴である。逆に言えば、LINEノベル発でマンガ化、映像化される流れがあと5年、10年単位で確立されていけば安泰になる。「なろう」と比べて云々するのはそうなってからの話だ。「今この時点」で比較したところで、新興サービスに分が悪いのは当たり前の話である。

 最近、LINEは、映画化作品の原作小説を映画公開前からLINEノベルで配信をはじめ、LINEマンガではコミカライズを行い、LINEライブでその映画の出演者が出る生放送番組を配信する、というプロモーションを展開している。おそらくこうした試みを何度も重ねて経験値を積み、自社発作品がいざ映像化されたときにもっとも効果が出るしくみを構築している途上なのだと思われる(個人的にはオリジナル記事を配信するウェブメディアにもっと力を入れてほしいのだが)。

 「なろう」にも「カクヨム」(KADOKAWA)にも「アルファポリス」にもできない、LINE独自の強みはこういうところを伸ばした先に生まれてくるはずだ。Yahoo!と合併すればECまわりでさらにIP展開の幅が広がる。

 小説サイト/サービスの動向・興亡は小説だけ見ていてもわからないし、中長期的にどんな戦略を描いて、どうマイルストーンを打っていくのかということから判断しなければならない。

 令和小説大賞は新人賞の応募開始時にだいぶブチあげた感じだったこともあって個人的には受賞作を読んで若干肩すかしを食らったものの、書籍化・映像化で作品的にも商業的にも化けることを期待して待ちたいと思う。

■飯田一史
取材・調査・執筆業。出版社にてカルチャー誌、小説の編集者を経て独立。コンテンツビジネスや出版産業、ネット文化、最近は児童書市場や読書推進施策に関心がある。著作に『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの? マンガアプリ以降のマンガビジネス大転換時代』『ウェブ小説の衝撃』など。出版業界紙「新文化」にて「子どもの本が売れる理由 知られざるFACT」(https://www.shinbunka.co.jp/rensai/kodomonohonlog.htm)、小説誌「小説すばる」にウェブ小説時評「書を捨てよ、ウェブへ出よう」連載中。グロービスMBA。

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