松井玲奈、高山一実、大木亜希子、姫乃たま……アイドルの文章に共通する“熱”とは?

松井玲奈、高山一実、大木亜希子、姫乃たま……アイドルの文章に共通する“熱”とは?

 『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』(2019年)と題された本が、ちょっと話題になっている。著者の大木亜希子は、AKB48グループの1つだったSDN48に加入し、2011年にはNHK紅白歌合戦に出場した。2012年のグループ解散後はタレント活動を続けつつ、ニュースサイト「しらべぇ」に入社しライター業をスタート。だが、仕事や恋活、またSNSで見栄をはることのストレスのためか、パニック症状に陥ってしまう。その回復手段が、姉にすすめられた50代男性とのルームシェアだった。

 体験をベースにした私小説だという。書名通りのけったいなシチュエーションである。恋人でも親戚でもない中年男が、干渉せず多少距離をおいて自分を見ていてくれる。それに癒されつつ、彼女はフリーランスライターとしての活動を軌道に乗せていく。

 紅白出場とはいえ大人数の端にいて映ったといえるレベルではなかったし、SDN48の活動期間は短かった。大木は、アイドルとして成功したとはいえない。その意味で『人生に詰んだ元アイドルは~』は、高山一実の小説『トラペジウム』(2018年)と対照的な位置にある。

 乃木坂46の主要メンバーとして活躍中の高山の同作はヒットした。アイドル志望の高1少女がグループ結成を計画し、業界に見出してもらおうと画策する話だ。その強い思いを、身勝手な部分まで書いて興味を引いた。

 乃木坂46もSDN48も秋元康プロデュースである。その秋元が1985年に小泉今日子「なんてったってアイドル」の作詞をしていたことを思い出す。同曲はアイドルの華やかな日常が題材だった。「アイドルはやめられない」と本人がぬけぬけと歌うのが当時は珍しく、インパクトがあった。だが、それは大人が与えたセリフで、自身の言葉ではなかった。

 一方、1980年代半ばまでソロのアイドルが普通だったのに対し、その後はグループが主流となって大人数化し、インディーズや地方での結成も増えた。今では膨大な数のアイドルが活動し、ネットの普及で情報が飛び交っている。運営から言葉を与えられるだけでなく、自分で文章を書くアイドルも多くなった。

 高山の『トラペジウム』では、自分だけのデビューではなくプロデューサー的にグループを結成する計画が語られる。成功したアイドルが、アイドル志望者の抱く夢想を書いたのだ。一方、大木は『人生に詰んだ元アイドルは~』の前に『アイドル、やめました。 AKB48のセカンドキャリア』(2019年)を刊行していた。それは、保育士、アパレル、ラジオ局社員、バーテンダー、声優など、次の人生を歩み始めた元メンバーに取材したもの。同書にはアイドル以後の現実がある。

 曲、ビデオ、ドラマで物語を演じ、人前で自分を劇化するのがアイドルだし、メディアで話題にされてあれこれ書かれる立場だ。ゆえに言葉で表現し脚色する「文芸」とアイドルは、もともと親和性がある。AKB48、乃木坂46のメンバーをカバーのモデルに起用した文庫キャンペーンが過去にあったが、本の外側に使われるだけでなく、中身を書くアイドル経験者が相次いでも不思議ではない。

 SKE48の人気メンバーで2015年に卒業した松井玲奈は、2019年に短編小説集『カモフラージュ』を発表した。収録6作はいずれも「食」がモチーフだが、恋愛からホラーまで内容は幅広い。上京して憧れのメイド喫茶で働き始めたが、体形のために追いつめられる「いとうちゃん」。3人組YouTuberが、本音を喋ってしまうといわれる鍋を食す生配信で仲間割れする「リアルタイム・インテンション」。なかでもこれら2作には、仲間と活動する姿を多くの他人に見られるアイドル活動の経験が、どこか反映されていると感じられる。

 また、「いとうちゃん」と先の『人生に詰んだ元アイドルは~』はどちらも主人公が肥満を指摘されショックを受けるが、本人の受けとめかたは違う。読み比べるのも一興だろう。

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