不倫の代償はこんなに重い……証拠集め、弁護士、慰謝料までリアルに描く『サレタガワのブルー』

不倫の代償を描く『サレタガワのブルー』

どうして『失楽園』は炎上しなかったのか?

 そんなわけで、『サレタガワのブルー』を読んでいると、妻子持ち男がする不倫に対して怒りが湧き、嫌悪感が増してくる。

 逆に90年代後半に話題になった渡辺淳一の小説『失楽園』は不倫する側の話なのになぜ社会的に許容されていたのかが疑問になってくる。あれは不倫する男が妻子ありと言っても子どもがすでに社会人になって結婚している年齢だから「子育て中の母親の苦労を知れ!!!」的な怒りが起こらなかったのだろうか。あるいは読者が中高年男性だったから気にもされなかったのか……。

 ともあれこうして不倫ものを2作並べると、時代の変化を感じることができる。

 ここ20年余りで不倫に対する世間の視線が厳しくなり、社会的な制裁が強まっているのは、「された側」の苦痛に対する配慮、同情心の高まりがあるのだろう。

 もし既婚者であれば、もし万が一されたときの対策を学ぶのに、あるいは不倫している人であればバレたときに何が起こるのかのシミュレーションとして最適な一作だ。

■飯田一史
取材・調査・執筆業。出版社にてカルチャー誌、小説の編集者を経て独立。コンテンツビジネスや出版産業、ネット文化、最近は児童書市場や読書推進施策に関心がある。著作に『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの? マンガアプリ以降のマンガビジネス大転換時代』『ウェブ小説の衝撃』など。出版業界紙「新文化」にて「子どもの本が売れる理由 知られざるFACT」(https://www.shinbunka.co.jp/rensai/kodomonohonlog.htm)、小説誌「小説すばる」にウェブ小説時評「書を捨てよ、ウェブへ出よう」連載中。グロービスMBA。

■参考情報
『サレタガワのブルー』試し読みはこちら

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