『鬼滅の刃』ノベライズの成功に見る、ジャンプ流メディアミックス 2019年末のベストセラーを考察
週間ベストセラー【総合ランキング】(12月24日トーハン調べ)
1位 乃木坂46写真集『乃木撮 VOL.02 乃木坂46』講談社
2位 田中みな実1st写真集『Sicerely yours…』宝島社
3位 『反日種族主義 日韓危機の根源』文藝春秋
4位 『ポケットモンスター ソード・シールド 公式ガイドブック 完全ストーリー攻略+ガラル図鑑』オーバーラップ
5位 『DVDでよくわかる! 120歳まで生きるロングブレス』幻冬舎
6位 『はじめてのやせ筋トレ』KADOKAWA
7位 『鬼滅の刃 片羽の蝶』集英社
8位 『鬼滅の刃 しあわせの花』集英社
9位 『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』新潮社
10位 『一切なりゆき 樹木希林のことば』文藝春秋
2019年最後のトーハン週間ベストセラーの7位と8位はマンガ『鬼滅の刃』のノベライズ『片羽の蝶』(19年10月発売)と『しあわせの花』(19年2月発売)だった。
『鬼滅の刃』は2016年から「週刊少年ジャンプ」で連載開始。2019年4月から9月まで連続2クールで放映されたufotable制作によるTVアニメが非常に丁寧なつくりで話題を集め、原作人気も爆発、マンガの類型発行部数は2019年11月末時点で2500万部を突破、同年12月4日発売の第18巻は初版100万部超え。オリコン年間コミックランキング2019では期間内売上が1205.8万部で第1位となった。ノベライズも2019年2月時点で2巻合わせて70万部突破とレーベルであるJUMP j BOOKS史上最速の売れ行きを見せている(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000107.000011454.html?fbclid=IwAR0LzlW0ox1I5evRyt7demubkSajv8xBQ9Z00B_q56QlTSgxwN72PV4SRDU)。
『片羽の蝶』は本編では描かれていない、鬼と呼ばれる敵を討つ“鬼滅隊”の幹部である「柱」たちを中心的に描いた短編集。『しあわせの花』に続き、原作コミックス巻末のおまけ「中高一貫!!キメツ学園物語」(本編の舞台は大正時代だが現代の学園に各キャラがいたら……という内容のスピンオフ)を小説化したものも収録されている。
人気マンガのノベライズなのだから売れて当然だろうと思う人もいるかもしれないが、そもそもいまどきアニメや映画、マンガのノベライズが数十万部も売れるという事態はまれである。新海誠の『君の名は。』の小説版を監督自身が書いて100万部突破、といった例外的なものもあるにはあるが、JUMP j BOOKSほどコンスタントにマンガのノベライズでヒットを出しているレーベルはほかにない。
特に部数が跳ねるようになったのは2005年の『D.Gray-man reverse』(原作:星野桂、著:城崎火也)以降のことである。ここから、それ以前よりもさらに小説編集部とマンガ編集部の連携が緊密になり、原作では描ききれなかったがマンガ家自身が持っているアイデアなどを小説版で描き、コミックスと見まがうかのような装丁になった。よりファンアイテムとしての要素が強まったのである。(詳しくは筆者がj BOOKS編集部に行ったインタビュー「マンガのノベライズが300万部!? 集英社ジャンプジェイブックスが破格のレーベルである理由」https://news.yahoo.co.jp/byline/iidaichishi/20161216-00065549/を参照)
『鬼滅』のノベライズもそうしたj BOOKSのノウハウが存分につぎ込まれているがゆえに、ここまで部数が出ていると考えるべきだ。
カバーや挿絵は原作者の吾峠呼世晴が手がける、「公式」感ある装丁。おそらくは『片羽の蝶』で描かれるエピソードも主には吾峠がアイデアを出し、矢島綾が小説として肉付けしたのではないかと思われる。