架空の昭和を描いた『空想東京百景』シリーズ、最新作で令和を舞台にした意味とは?

架空の昭和を描いた『空想東京百景』シリーズ、最新作で令和を舞台にした意味とは?

 「令和」という元号が発表になった時、一字が共通することから「昭和」を思い浮かべた人もいたという。間には30年と少し続いた「平成」があるから、単に字面が似ているだけで、「令和」の景色に「昭和」が重なって見えることはないはずだが、そんな令和元年が始まった2019年5月を起点として始まる、ゆずはらとしゆき著、toi8作画の『メトロポリス探偵社 空想東京百景〈令〉』(LINE文庫)を読み始めると、昭和という時代がそこに浮かんで見える。

 それは、『メトロポリス探偵社 空想東京百景〈令〉』の大元にあたる『空想東京百景』のシリーズが、昭和という時代のアイコンでありガジェットであり、社会であり経済であり風俗であり文化といったものをかき集めて煮詰めたような、高濃度の “昭和らしさ”を持った舞台を仕立て上げていたからだ。

 昭和20年8月10日に東京へと落とされた「3発目の新型爆弾」は、ウランやプルトニウムではなく呪詛(コード)、すなわち無限に連鎖していく死をまき散らして多くの都民を塩の柱に変えた。呪詛は浄化装置によって祓われたが、生き残った人々の一部が魔人となって異能をふるうようになり、赤毛の女に率いられた国際ギャング団や魔銃を持った殺し屋たちの秘密組織、武装化した新興宗教などが登場。それらに対抗するために、東京には探偵たちの組合が作られ、警視庁にできた怪異専門部署〈0課〉とともに戦っていた。

 『空想東京百景』でも『メトロポリス探偵社 空想東京百景〈令〉』でも共通のイントロダクション。そして、『東京空想百景』では、新橋にある古いビルに事務所を構えた男装の少女探偵、矢ノ浦小鳩が助手の矢ノ浦小鳩の作り出すアイテムを使い、国際ギャング団やら魔獣やらを相手に戦いを繰り広げる。途中、ローマのコロッセウムを真似た形の国技館で、日系ロシア人の横綱が薬物によって巨大化し、襲撃してきた巨大ロボットと戦ったり、半身が機械で人工心臓も埋め込まれたサイボーグの女刑事〈01〉が、加速装置を使って東京を突っ走ったりする。

 戦災からの復興を遂げ、急速に発展していく時期の東京の物語でありながら、映画『ALWAYS三丁目の夕日』などに描かれたものとは違う雰囲気は、探偵映画の「七つの顔を持つ男」シリーズや、『鉄人28号』『エイトマン』『ビッグX』といったマンガやアニメーションなどフィクション混ぜ合わせたかのよう。子供も大人も熱中した、スリリングでエキサイティング、そして恐ろしくもある架空の昭和が、もしも現実化していたらというビジョンを見せてくれた。

 ゆずはらとしゆきの文章に加えて、toi8によるマンガともイラストとも言える柔らかさを持ったビジュアルが、風景に命を与えキャラクターに愛らしさを感じさせた。それらを読んだ上で、続く物語となる『メトロポリス探偵社 空想東京百景〈令〉』を読めば、昭和の空気に気持ちが引っ張られるのも仕方がない。

 舞台は大きく変わっている。そもそも時代が飛んでいる。昭和39年の東京オリンピック開催に合わせたかのように、跋扈していた魔人たちが何者かによって食われて存在を消し、東京は普通の大都会へと戻った。ところが、2018年夏に赤毛の魔女と国際ギャング団が復活。これに矢ノ浦千鶴の孫となる19歳の青年探偵、矢ノ浦光鶴とメトロポリス探偵社の探偵たちが立ち向かうことになった。

 そして2019年、令和元年5月を起点に“再開”された物語では、若さを求め続けるアイドル声優たちによって結成されたカルト教団〈永遠の14歳〉に光鶴が捕らえられ、生け贄にされようとしていた場面から始まって、警視庁に復活した〈0課〉の女サイボーグが乱入し、カラス頭の巨人が暴れ回りといった具合に、昭和のフィクションを思い出させるスペクタクルが繰り広げられる。

 どうにか脱出して事務所に戻った光鶴に近づいてきたのは、赤いブレザーの上にトレンチコートをはおり、眼鏡をかけた九葉祀という名の美少女。平成のライトノベルで一大ジャンルとなっているラブコメで定番ともいえるボーイ・ミーツ・ガール展開と、なれ合うような関係を見せる。2人は共に赤毛の魔女に率いられた国際ギャング団に挑む。

 アイドル声優の競争の激しさに関する言及も、ラブコメ要素の挿入も平成を感じさせるもの。祀が振り回すハンマーの魔力で光鶴が吹き飛ばされる描写も、退廃的で幻想的だった『空想東京百景』にはあまりなかった。全身を継ぎ接ぎされたような肢体でクールな物言いをする、甘木鵙という名の長身の少女と言い、光鶴の祖母と同世代のはずなのに、グラビアアイドルのような美貌を持った女性と言い、昭和のフィクションとは縁遠い設定のキャラクターたちも登場する。

 その意味で、『メトロポリス探偵社 空想東京百景〈令〉』には平成という時代の空気感が色濃く漂っている。ただ一方で、光鶴の探偵事務所を新橋の古いビルに起き、彼を黒川紀章が設計した中銀カプセルタワーで寝起きさせ、祀とともにBMWイセッタ300で移動させるといったシチュエーションのセレクトに、平成以前の東京を感じさせ、『空想東京百景』と関連づけようとする意図も感じられる。

 そして、赤毛の魔女の復活、猟奇事件の頻発、異能バトルの勃発によって昭和のスペクタクルが復活する……とまで言い切れるかは読んだ人の感性次第か。10代はもとより20代ですら昭和を知らない今の人に、それらを昭和だと感じる根拠は薄い。NHKの大河ドラマ『いだてん』を見て、連続テレビ小説『なつぞら』を見て、雰囲気だけはつかめていても感覚として“分かる”ようにはなかなかならない。

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