日本でも大麻に関する議論は始まるか? 『真面目にマリファナの話をしよう』が訴えるもの
最後のレイヤーは、難病を抱える人らにとっての必要性だ。投薬治療で回復が困難な人々は、鎮痛薬としてマリファナを求めた。さらに医学的研究が進むとエイズ、がん、緑内障、多発性硬化症などの病気に対して、進行を遅らせ、治癒する効能が発見されている。「もしあなたが患者だったら」という著者の問題提起は非常に考えさせられる。事実、痛みと死の恐怖の最中でクオリティー・オブ・ライフを向上させるために使いたいという訴えかけが、医療大麻解禁への理解につながった。
医療マリファナの解禁は、1996年にカリフォルニア州の住民投票が全米の第1例目となる。すると新たな動きが活発化する。そう、資本主義のダイナミクスだ。このパートでは、商魂たくましく、斬新なマリファナビジネスを発案し医療・合法マリファナを生業とする人々を、著者が合衆国全土を飛び回り取材を重ねている。大麻栽培者は当然として、顧客のお好みのマリファナを勧める大麻バーテンダー、マリファナ料理を提供するレストラン、そして大麻栽培者を目指すための学校……。コロラド州で穀物農業・タバコ産業に続き、第6番目に位置するまでに発達しているマリファナ産業の巨大さを、ぜひ実際に読んで確認してもらいたい。
「各国、各文化にそれぞれのルールや法律がある、ということは理解できる。ただそのルールが敷かれたときに存在していた理解や前提が間違っていたとしたら? そのときわからなかった新しい事実が科学的に証明されているのだとしたら? それでも一度作ったルールを守り続けることに意味はあるのだろうか?」
という、一見すると強烈な問いをもって本書は締めくくられる。この問いは解禁を強固に訴えるのではない。むしろ、いまの日本には答えるための判断材料すらメディアではタブー視され、問いに向かい合うことすら出来ない状況を描いている。
書名のように日本で「真面目にマリファナの話を」することは果たしてできるだろうか? 賛成派、反対派問わず、不正確なイメージに基づいた議論ほど不真面目な態度はないはずだ。韓国、タイといったアジアでも医療大麻が解禁される今、日本も真面目にマリファナの話をする必要に迫られるのは時間の問題かもしれない。膨大な資料と、緻密な取材で構成された本書は、真面目に話をしようとするあなたをきっと助けてくれるはずだ。
■秋山ナオト
エロ雑誌&書籍の編集者です。『ライムスター宇多丸も唸った人生を変える最強の「自己低発」 低み』を構成&ライティング。『マーベル映画究極批評』(てらさわホーク)、『名探偵コナンと平成』(さやわか)、『暗黒ディズニー入門』(高橋ヨシキ)などを編集しました。ツイッター:@Squids_squib
『真面目にマリファナの話をしよう』
佐久間裕美子 著
価格:1,500円+税
判型:四六版
公式サイト:https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163910741