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遺品整理人はなぜ、ミニチュアで孤独死の現場を再現したのか? 『時が止まった部屋』が伝える現実

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 「両親との同居を望んでいる人とは絶対に結婚できないよね」――近頃、婚活中の友人たちからそんな言葉をよく聞く。結婚を機に相手の両親と共に暮らし、最期を看取るという昭和時代の風習は私たちアラサー世代の中ではもはや、常識ではない。それどころか、周囲の話を聞いていると、自分の両親とさえも同居したくないと考えている人も多いように感じる。

 実際、筆者も結婚時に相手の両親へ同居は難しい旨を伝えた。そして、その後は自身の両親にも四六時中気を使いたくないと思い、二世帯住宅ではなく自分の実家の敷地内に注文住宅を建てた。近くにいるのに、お互いの生活状況も健康状態も知らない距離感。それが、とても気楽に思えていたのだ。

 だが、『時が止まった部屋:遺品整理人がミニチュアで伝える孤独死の話』(小島美羽/原書房)を手に取り、孤独死の現状を知ると、少し背筋が寒くなる。なぜなら、快適だと思っている現状は些細なきっかけで孤独死に繋がるかもしれないと思わされたからだ。

 孤独死というと、高齢者の社会問題というイメージが強いだろう。実際、東京都福祉保健局東京都監察医務院による「東京都23区内における一人暮らしで65歳以上の人の自宅での死亡数」は年々増加しており、調査を開始した平成15年には1451人だったのが、平成27年には3127人だった。

 しかし、独立行政法人都市再生機構統計が発表した「単身住居者で死亡から相当期間経過後に発見された件数」を知ると、孤独死は若い世代にとっても決して無関係な問題ではないのだと思わされてならない。平成27年に単身者で死亡から相当期間経過後に発見された179件のうち43件は65歳未満だったからだ。

 孤独死は年齢関係なく、誰にでも起こりえる問題。だからこそ、死の迎え方を健康なうちから考え、対策を行う必要がある。本書は他人事ではなく、当事者として孤独死という、ひとつの死に方を考えさせられる一冊なのだ。

自分の死の「先」を考える勇気を

 著者の小島さんは、年間で370件以上もの依頼現場で故人を弔いながら部屋を片付ける遺品整理人。その傍らで孤独死が起きた部屋を、故人のプライバシーへの配慮からデフォルメしつつもリアルにミニチュアで再現し、多くの人に死と向き合うきっかけを与えている。

 小島さんがミニチュアを作り始めたのは、今から3年前のこと。年に1回、東京ビッグサイトで開催される、葬祭業界の専門展示会「エンディング産業展」にて、孤独死をより身近に感じてほしいと考えたことがきっかけだった。

 それまで小島さんはイベントで作業光景の写真を用いながら、自分たちの仕事や孤独死の問題を来場者に説明していたという。しかし、写真ではどうしても生々しくなってしまったり故人の遺族に悲しい記憶を思い起こさせてしまったりすると感じていた。

 また、日本の報道では孤独死の現場写真にモザイクがかけられ、核心をついた部分が隠されてしまっていることに危機感を抱いたそう。これでは孤独死がいつまでも他人事のように考えられ続けてしまう……。そう思い、ミニチュアで現場の状況を精巧に表現し、警告しようと決意した。

 小島さんが現在までに制作したミニチュアは9点。作品には血液や体液、遺品がリアルに再現されているため、現場の悲惨さや故人の想いがダイレクトに伝わってくる。本書に掲載されているミニチュア作品の中で最も印象に残ったのが、ペットを飼っていた人の孤独死現場だ。

 動物の存在を心の支えとし、誰とも関われない孤独を紛らわしている方は多いように思う。筆者もそのひとりで、離婚後は3匹の愛猫にずいぶんと支えられた。また、世の中には「アニマルホーダー」と呼ばれ、自分の手に負えないほど異常な数の動物を集め、飼育してしまう人もいると聞く。そうした家で孤独死が起きてしまうと現場はなお悲惨だ。

 動物の糞尿にまみれた部屋の中には飼い主がペットに食べられたと思しき痕跡や、飢えと渇きに苦しみながら息絶えた動物たちの姿がある。

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 運よく生きながらえたとしても、飼い主がいないペットの行き先は遺族の判断に委ねられるため、殺処分になってしまうケースも少なくない。

 こうした事実を知ると、孤独死は自分ひとりの問題ではないように思えてくる。これはペットを飼育している人だけでなく、幼い子どもを育てている方にも通ずることかもしれない。明日、自分が生きていられる保証はどこにもない。だからこそ、私たちは生きているこの瞬間に、残されたものが苦しむことがないよう、自分の死の「先」まで考えておかねばならないのだ。

      

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