巻き込まれ体質の暗殺者が孤立無援で暴れまわる! 『暗殺者グレイマン』シリーズの面白さ
もうひとつのグレイマンシリーズの魅力が、近代的な装備を身につけた、暴力を生業にしている男たちの描写が巧みな点である。最新作『暗殺者の追跡』から、ちょっと引用してみたい。
「ウィンドブレーカーとカーゴパンツを着た筋肉隆々の禿頭の男が、私設車道の持ち場から、ときどき女のようすを見守っていた。男は腰のユーティリティベルトに、ベレッタ・セミオートマティック・ピストル、手錠、〈メース〉、無線機をつけていた。その向こうの森で、ライフルを胸に吊るしたべつの男が、ぶらぶらと歩いていた」
「全員がロシア人で、いかつい顔をして、タトゥーを入れ、胸と背中を抗弾ベストで覆っていた。だぶだぶのレインコートを上に着ていたが、あまりうまく隠せていなかった。馬鹿でかいバックパックには、ライフルを隠してある。ほとんどがカラシニコフだったが、何人かは、それに代わる武器を持っていた」
どうですか。この、いかにも「ちゃんとした訓練を受けたガタイがよくていかつい男たちが、不穏な暴力の気配を漂わせている」感! ほとんど固有名詞の連打だけなのに、むせかえるようなモダン・ウォーフェア性を立ち上らせている点にはシビれてしまう。グレイマンシリーズにはザコ敵として暴力の世界に身を置くこの手の男たちがぞろぞろと登場するのだが、そいつらがどのような装備と武器を身につけているのか、どのような体格かを描写するだけで、ちゃんと訓練を受けた精兵なのかそれともただのチンピラなのかを表現してしまう。この感じは、グレイマンシリーズの楽しいところである。
グレイマンさんは主人公だから、彼の描写に文字数が割かれるのは当然だ。しかし、それ以外のモブ特殊部隊や十把一絡げに出てくるスペツナズ、武装勢力の兵士たちや金で雇われた地元のヤクザなどなどなど、不穏な男たちの描写にこそ作者であるマーク・グリーニーの力量が宿っているように思う。
というわけで、暴力の世界に身を置くいかつい男たちを向こうに回し、人情派工作員グレイマンさんが力無き者のために体を張るグレイマンシリーズは、アクション映画やバイオレンス映画のファンにこそ読んでもらいたい小説だ。どれも一回読み出したら読むのをやめられなくなるので、時間と体力に余裕のあるときに試してみていただきたい。
■しげる
ライター。岐阜県出身。プラモデル、ミリタリー、オモチャ、映画、アメコミ、鉄砲がたくさん出てくる小説などを愛好しています。