XGを世界へと導いた手腕に寄せられる賛辞 JAKOPS(SIMON)が『MTV VMAJ』Best Producer賞に輝いた3つの理由

XGプロデューサーJAKOPS(SIMON)の手腕

 XGが3月19日に開催された『MTV VMAJ』で「Best Visual Effects」「Performance of the Year」の2冠を受賞した。それと同時に注目を集めたのが、同アワードで史上1人目の「Best Producer」に輝いたXGのエグゼクティブ・プロデューサー JAKOPS(SIMON)だ。彼のプロデュースワークは、国を横断して音楽市場に大きな影響を与えている。そこで、SIMONの今回の受賞理由を探っていきたい。

 1つ目の要因は、「デビュー前から世界でのポジショニングを具体的に捉えたマーケティング戦略」だ。SIMON本人が「自分が考えるグループは絶対に世界的に見てもイケてるものになるという確信があった」(※1)と語るように、日本人アーティストとしては異例の世界35都市47公演のワールドツアーを実施し、さらにはデビューから3年でXGをCoachellaのセカンドヘッドライナーにまで仕上げた彼の目には、新人発掘に取り掛かった7、8年も前から「今狙うべき世界市場」への道筋が見えていた。例えば、XGがシーンに登場した当初、世に放たれた以下の動画を覚えているだろうか。

XG MOVE #1
XG MOVE #3

 #1では黒いマスクで顔半分を覆い、#3ではマスクを外して自信と貫禄たっぷりの表情で、統率された軍団のように圧巻のダンスパフォーマンスをドロップ。国籍も年齢も不明の7人のガールズの存在は、瞬く間に世界の人々の目を惹きつけた。そして、視聴した者に「何だこのグループは」とこれまでにない衝撃を与え、SNS上でも急速にトレンドを席巻した。これが、XGのチャプター0から1への転機であり、SIMONが5年もの時間をかけて育て上げた才能たちの「お披露目」であった。

 顔を隠して登場することで「何者なのか」という興味を掻き立て、世間的属性ではなくパフォーマンスの実力に自然と視線を誘導する。その背景には、「世間一般が考えるステレオタイプな女性像に対して疑問を持っていた」(※2)と語るSIMONの考えがあった。アイドル文化が盛んな日本や韓国などアジア地域では、ステージに立つ存在に対して過度にルックスの良さを求める偶像崇拝的な風潮が存在する。身勝手にカテゴライズされ、「美しいか否か」を第三者に決めつけられることも往々にしてあるだろう。また、一過性のキャッチーで流行りやすい楽曲が好まれることが少なくない。一方、欧米圏では奇を衒うアイデンティティやファッションなど、制限されない自由な自己表現が当然のように受け入れられ、HIPHOPやR&B、ロック、カントリーといった、カルチャーに根付いた音楽が比較的好まれやすい。この点、XGは当初から「J-POPでもK-POPでもない “X-POP” である」と明言し、固定概念や常識に囚われない立場を確立している。

XG

XG

 音楽面では、ミニマルなHIPHOP/R&Bベースで、エッジの効いたラップが印象的なデビュー曲「Tippy Toes」で、「これまでの固定概念を一蹴し、世界の勢力図を変える」という宣戦布告を行い、2nd Single「MASCARA」では、強烈でダイナミック、かつキャッチーなベースラインにPOP/TRAPもジャンルレスにMixしたトラックで、世界に衝撃を与えた。「SHOOTING STAR」「LEFT RIGHT」では、XGのHIPHOP/R&Bを体現し、多くのグローバルチャートを席巻し、オールラップソングの「WOKE UP」では、YouTubeの急上昇チャートで、ミュージックビデオがアメリカの1位を含む、19の国と地域にランクインするなど、世界でバイラルを起こした。また、規格外のスタイリングやCOCONAのバズカットへの挑戦などを前向きに行う姿勢にも、SIMONの目に映る世界の圧倒的な広さが感じられる。常にコンテンツクオリティを重視し、前例のない試みを繰り出すSIMONが次はどんな戦略でグローバルリスナーを驚かせようとしているのか、脳内を一度覗いてみたいものだ。

XG

 2つ目は、「日本・韓国・欧米の音楽シーンの架け橋としての役割」だ。XGは2024年、「WOKE UP」のリミックス版「WOKE UP REMIXX(PROD BY JAKOPS)」をリリース。これに客演で参加したのが、日本からAKLO、Awich、OZworld、VERBALの4名、韓国からDok2、Jay Park、Paloalto、Takの4名、日韓合わせて8名のラッパーだ。そもそも、JAKOPSというプロデューサーネームの由来は “JA”pan(日本)+ ”KO”rea(韓国)+ “P”roduced by  “S”imon。韓国人の父と日本人の母の間に生まれてアメリカ・シアトルで育つ中で「自分は何人なんだろう」とアイデンティティに悩んだ過去を持ち、その全方向の音楽シーンに対する深い知識と人脈があるSIMONだからこそ、Xtraordinary=並外れた手腕で各方面を繋ぐことができる。実際に語られているエピソードを引用すれば、中学生の頃からVERBAL(m-flo)の音楽性に魅了されたり、Jay Parkとはアーティストグループ出身でシアトル生まれという共通点があったり、プロデューサーとして駆け出しの頃から親交があるPaloaltoやTakが参加していたり、といった形でだ。

XG

 さらに、彼は2000年代初頭からアーティストグループDMTN(ダルメシアン)のメンバーとして活動し、その後、音楽プロデューサーとしてのキャリアを築いてきた、K-POP業界での長い経験の持ち主でもある。したがって、アーティストの感覚とプロデューサーの感覚の両方をバランス良く持ちディレクションすることができる。こうした多様な背景が、彼自身を無二のプロデューサーとして確立させているのだ。

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