連載「lit!」第136回:セクシーレッド&ブルーノ・マーズの衝撃作からバッド・バニーら男性スターによる怒涛のリリースまで
ビリー・アイリッシュからサブリナ・カーペンターまで、2024年の洋楽シーンが女性スター祭りであったことは、『第67回グラミー賞』のラインナップを見てのとおり。一転、年明けの2025年1月には、男性スターたちによる怒涛のリリースが世を騒がせた。女性の場合、ブルーノ・マーズとの衝撃ラップから業界に反旗を翻した元アイドルまで、尖った若手が新フェーズを切り拓いている。
Sexyy Red & Bruno Mars「Fat Juicy & Wet」
今、絶好調なブルーノ・マーズ。レディー・ガガとのロックバラード「Die With A Smile」はSpotify史上最速で10億回再生を樹立し、BLACKPINKロゼとの宴会ソング「APT.」は洋楽としては10年以上ぶりのビルボードジャパン総合ソング·チャート“JAPAN Hot 100”ナンバーワンヒットに届いた(※1)。
そんなブルーノの最新コラボが、ガガとロゼもカメオ出演しているセクシーレッドとの「Fat Juicy & Wet」……なのだが、2025年早々に物議をかもした。露骨な表現が売りのラッパーと盛り上がるド級のセクシーソングなのだ。あまりに大胆さで衝撃を呼んだが、じつは、こうしたおちゃらけはキャリア初期の十八番でもある。
懐かしいサウンドをモダンなアンセムにしあげる器用さも健在。昨今ケンドリック・ラマーとのコラボでわかしているDJマスタードを代表とするヒップホップジャンル、ラチェットを見事に乗りこなしている。
Bad Bunny「BAILE INoLVIDABLE」
2025年最初のビッグリリースは、世界を股にかけるラテンスター、バッド・バニーの6thアルバム『DeBÍ TiRAR MáS FOToS』。「もっと写真を撮っておくべきだった」と命名されただけあり、バニーの故郷プエルトリコの音楽がノスタルジックにフォーカスされている。
世界的には「お祭り音楽」として人気が強いラテンだが、本作を聴けば、その優雅さに驚かされることだろう。トロンボーンが響く現代サルサ「BAILE INoLVIDABLE」の「人生とは、いつか終わるパーティー 君は僕にとって忘れられないダンスだ」といったフレーズを筆頭に、歌詞の美しさも余韻を残す。
同時に、アメリカ合衆国の自治的・未編入領域である母国の複雑な歴史と政治にも斬り込んでいる。バニーお気に入りのボレロ「TURiSTA」はダブルミーニング。深い関係を築けなかった相手との別れの歌であり、プエルトリコの美味しいところだけ楽しんで複雑さを見ようとはせずに帰っていく観光客についての歌だ。
JADE「IT girl」
男性スターの新作が目立つ1月だが、未来を照らす女性アーティストの挑戦作も見逃せない。「今UKポップでもっともエキサイティング」と評されるジェイドは、2010年代最大級のガールズグループ、Little Mixの元メンバー。
昨年のソロデビュー曲「Angel of My Dreams」からして、刺激的な問題作だった。ミュージックビデオにおいて、元プロデューサーの問題行為らしきものや、すぐ新しいアイドルに移り変わってタレントを捨てていく音楽業界の残酷さを表現していったのだ。
同作の“妹”とたとえられた新曲「IT girl」では、ショービズの権力者たちに「私は操り人形じゃない」と強気に突きつけている。作曲にも長けたジェイドの才能とは、ポップの華やかな魅力を大切にしつつ、その限界に挑戦するかのような作風であろう。今回は、K-POPを思わせる曲調・歌唱変更をインダストリアルビートで行っていき、まるで「一人ガールズグループ」かのような迫力を成立させている。






















