星野源、『おげんさんといっしょ』が届けた“終わること”の美学 いつかこの日を超える“今”を迎えるまで

 美しく完璧な“ファイナル”だった。

 2017年5月4日に初回が放送された『おげんさんといっしょ』(NHK総合)は、コロナ禍でのパペットを使った『おげんさんと(ほぼ)いっしょ』などを挟みながら、約3年ぶりとなる第7回目(3月27日)の『おげんさんといっしょ ファイナル』をもって大団円を迎えた。

 
 
 
 
 
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 『ファイナル』の放送が発表されると、SNS上では番組が楽しみという声が広がる一方で、ファイナルを惜しみ、寂しがる声が溢れた。そして実際に放送が始まるやいなや、いつものようにSNSのトレンドを席巻。この日、『ファイナル』の後には、NHK BSで『後夜祭』も生放送。さらには、その合間にも『もうすぐ後夜祭』と銘打った生配信も行われたため、実に3時間以上にわたって、ほとんど休みなく『おげんさん』を堪能できたのだ。

 『ファイナル』で最初に歌われたのは、2017年の初回と同じく「SUN」。『後夜祭』で星野は初回の「SUN」の映像について「僕がやりたいことが詰まってる」と言っていたが、初回と同じように狭いキッチンにみんなが入り、(第2回から参加の次男・三浦大知が加わったこと以外)ほぼ同じ構図で、カット割りもなく、ハンドマイクも持たずに歌われた。

 「最高だな、この番組!」

 歌い終わったおげんさんこと星野が満面の笑みでそう漏らすと、ねずみ(宮野真守)も「幸せの絵面だよ」とその光景を形容した。今回の『ファイナル』では、“特別”なことは行われなかった。その代わり、いつも以上にじっくりとファミリー1人1人に『おげんさんといっしょ』についての想いを聞き、それぞれの“装飾”なしのパフォーマンスにしっかりと時間を割いたのだ。おとうさん(高畑充希)が澄んだ歌声でカバーした「Family Song」、雅マモル(宮野真守)の「恋はホップステップジャンプ」で“虚無”になる隆子(藤井隆)、その隆子は俳優・河合優実の背中を押した「ナンダカンダ」を再び髪を振り乱して歌った。そして三浦大知は「飛行船」で、スタジオ全体を使った圧巻としか言いようのないダンスパフォーマンスを見せる。トークとともにそれらを見ていると、自然と番組の名場面の記憶が蘇ってくる、ファイナルに相応しい構成になっていた。

星野源 – Family Song (Official Video)

 最後の曲を歌っているとき、星野は叫んだ。

 「曲は終わる! 番組は終わる! 人はいつか死ぬ! だから、今あるうちに一緒に歌うんだよ! そうだろ世界!」

 その言葉を聞いて想起したのは、〈“今”は過去と未来の先にあるんだ〉と歌う星野の新曲「Eureka」だ。この曲について星野は、メンバーシップサイト『YELLOW MAGAZINE+』のインタビューで次のように語っている。

「自分は自分でしかないんだけど、よく考えると自分で決定できることって本当に少ない。この狂った社会に生きていると、自分で自分を操縦しているつもりが、誰かに操縦されちゃってて、 自分の所有権が他者に渡っちゃってるみたいなこともよくある。そういう状況から、自己を取り戻す歌なんです」

星野源 - Eureka [Official Video]

 そして“自分の歌”であることを強調している。星野は『いのちの車窓から 2』(KADOKAWA)に書かれた「喜劇」(2022年)創作についてのエッセイの中で、それまで「結果的にそうなってしまうならしょうがないが、最初から『自分の歌を作ろう』とは思わない様に気をつけていた」が、その禁じ手を解くことは“新しい要素”ではないかと考え直した、と綴っている。前述のインタビューでも、それをエッセイとして言語化できたことで、「もっと自分の歌をつくろう」と確信したと語っている。“次”の段階へ進むということだろう。思えば『おげんさん』のファイナルが極力“装飾”を廃した構成になっていたのも、そんな理由があるのかもしれない。

 ならば、5月にリリースされるニューアルバム『Gen』は“今”の星野自身が装飾なしに反映されたものになるに違いない。そのタイトルには様々な意味合いがあるようだが、何よりも、自らの名を冠しているのだ(なお、予約購入した場合は、全国ツアー『MAD HOPE』の追加公演チケット先行受付を利用できるシリアルナンバーが配布されるという)。上製本がセットになった『Box Set “Poetry”』(あさぎ色)、映像ディスクが付属する『Box Set “Visual”』(さんご色)も出るようで、そこには『おげんさんがいっしょ』でも見せてきたような、音楽を楽しむ仕掛けが散りばめられているはずだ。

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