リアルサウンド連載「From Editors」第97回:成人向け『ガンニバル』? 『ディストピア~移住先は不貞の島でした』を紹介

 「From Editors」はリアルサウンド音楽の編集部員が、“最近心を動かされたもの”を取り上げる企画。音楽に限らず、幅広いカルチャーをピックアップしていく。

エロ×サイコスリラーで局所的に人気を博した『ディストピア』

 『ガンニバル』シーズン2が面白い。『ミッドサマー』や『グリーン・インフェルノ』しかり、知らない街や集落を訪れて、主人公が独特な風習に巻き込まれていくような作品は本当に好きです。その流れで、少し前に局所的に話題になっていた、成人向け『ガンニバル』と言えなくもない漫画『ディストピア~移住先は不貞の島でした』(杉野アキユキ著)を紹介します。

 『ディストピア』は、東京に暮らす3人家族が奥さんの仕事の事情で根度羅島(ねどらとう)という島に移住するところから物語が始まります。『ガンニバル』同様に気さくで優しい町民に良くしてもらう主人公一家。しかし、実は島の本当の姿は子孫繁栄のためにはなんでもするカルト島だった……というエロ・サイコスリラー・サスペンス・エンターテイメントになっています。“子孫繁栄”は『ガンニバル』と一緒!

 WEBサイトを見ていると流れてくる、バナー漫画として徐々に認知を広げた『ディストピア』。正直、この漫画は好き嫌いがはっきり分かれます。過激な性描写とゴア表現のオンパレード、ネトラレが横行する展開には、「気持ち悪い」「無理」「吐きそう」など、口コミを見ても辛口な意見も目立ちます。しかし、低評価が多いとそれはそれで逆に気になるのも人間のさが。私は「バキ童チャンネル」のぐんぴぃさんが熱弁していたのを見て知りましたが、そういった一部界隈では高く評価されています。

 日本のアニメ・漫画はコンプライアンスの網の目を掻い潜り……というか治外法権的にノンモラルな作品が日々作られています。作品の良し悪し、倫理観の有り無しは置いておいて、個人的にはそういう無秩序な感じが日本のアニメ・漫画の好きなところでもあります。

 ただ最近は地上波テレビでさえ『子宮恋愛』(読売テレビ)のような、タイトルからしていい意味で倫理観が欠如したような作品が作られていますが、これも需要があるからこその供給なのでしょう。実際『ディストピア』も、『ガンニバル』のようなサイコスリラーサスペンスと『子宮恋愛』のような倫理観の崩壊をハイブリットしたような作風が刺さったのか、累計250万ダウンロードを超えるほどの人気っぷりです。

 こういった変態性をエンタメにする力は、日本の右に出る国はないでしょう。グローバルにおいても「KIMONO」や「MANGA」と同様に、「HENTAI」というそのままの言葉で日本のエンタメの一つとして注目されています。今はまだ秘密裏に楽しまれるジャンルかもしれませんが、抑圧されればされるほど、隠された感情は爆発するもの。コンプライアンス重視の時代を経て、振り子のように「HENTAI」に脚光が当たる時がくるかもしれません。その時こそ『ディストピア~移住先は不貞の島でした』が真の評価を受ける時なのではないでしょうか。

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