連載「lit!」第142回:レディー・ガガ、チャペル・ローン、JENNIE……エキサイティングなグローバルポップを象徴する5作

Selena Gomez, benny blanco, Gracie Abrams「Call Me When You Break Up」

 昨年末にリリースされた「That’s So True」がキャリア史上最大のヒットを記録し、これまでの“良質なシンガーソングライター”の枠を超えて一躍ブレイクアーティストの仲間入りを果たしたグレイシー・エイブラムス。今年の『Lollapalooza』にもTyler, the Creatorやサブリナ・カーペンター、TWICEらと並んでヘッドライナーとしての出演が決定するなど、今後のさらなる飛躍にも注目だが、そんな彼女に早速声をかけたのが、約5年ぶりとなる最新アルバム『I Said I Love You First』(3月21日リリース)を制作中のセレーナ・ゴメスだった。

 すっかり現在のポップシーンを代表するカップルとなったセレーナ・ゴメスとベニー・ブランコだが、その幸福感は作品にもはっきりと表れており、これまでの作品ではどこか悲しんでいたり、もがいているような印象が大きかったのに対して、本楽曲では(スマホの自撮りでカジュアルに撮影されたようなMVも相まって)非常にカジュアルで親密なムードで満ち溢れている。楽曲のテーマは「恋人と別れたばかりの友人に優しく手を差し伸べる」というものだが、過去のセレーナであればきっと「友人側」の視点を描いていたに違いない。だが、今の彼女はそうした状況から抜け出し、今度は自身がサポートする側になったのである。一方、楽曲の「友人側」の視点を描いているグレイシー・エイブラムスも自身のストーリーテラーとしての魅力を遺憾なく発揮しており、一つのヴァースの中で揺れ動く感情の起伏を見事に表現している。

Selena Gomez, benny blanco, Gracie Abrams - Call Me When You Break Up (Official Video)

Fuerza Regida「Por Esos Ojos」

 カントリーの躍進や、今年の『コーチェラ』のラインナップにも象徴されるように、どこか回帰のムードが漂う現在のポップシーンだが、サブスクリプションサービスの台頭とともにメインストリームでの存在感を確固たるものにしたラテンポップの勢いはまだまだ健在。なかでも、先日カリフォルニアで開催された『Rolling Loud』(世界最大級のヒップホップフェスティバル)の最終日のヘッドライナーをPeso Plumaが飾ったように、コリード・トゥンバード(メキシコの伝統的な音楽であるコリドスに、トラップやレゲトンなどの現代的な音楽からの影響を反映したサブジャンル)の勢いは凄まじく、同シーンの中でも特に若い世代から絶大な支持を集めるバンドであるFuerza Regidaの最新曲も、そうしたシーンの熱狂や魅力を象徴する見事な仕上がりだ。

 今年の1月に開催されたパリファッションウィークのKidSuperのショーに登場したJOP(Vo)によって初披露された同楽曲だが、その時点で大いにファンを魅了していた情感に満ちたボーカルはもちろん、その魅力をしっかりと引き立てる緻密なサウンドプロダクションが実に素晴らしい。弦楽器のみで楽曲全体のリズムを構築しつつ、アタック感の強いベースラインが絶妙なアクセントを加える音像や、感情の揺れをそのまま捉えたかのようなトリッキーな拍子は、初見では「えっ、これでヒップホップみたいに踊れるの?」と思うほどにシンプルに削ぎ落とされたものでありながら、聴けば聴くほどに身体に馴染んでいく。昨年にはアメリカで大規模なアリーナツアーを成功させるほどの人気を誇るFuerza Redidaだが、派手な演出に頼ることなく、(本楽曲が示すように)あくまで伝統的な楽器編成と確かな演奏技術で何万人もの観客を沸かせている姿を見ると、グローバルミュージックの面白さを改めて実感させられるのだ。

Fuerza Regida - POR ESOS OJOS (VIDEO OFICIAL)
※1:https://www.billboard.com/artist/imogen-heap/chart-history/hsi/

 

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