Natsudaidaiとは何者か? 現代版・歌謡曲×ブラックミュージックの追求、“誰かが逃げられる物語”を綴る理由

Natsudaidaiとは何者か?

 2023年夏に本格始動した、シンガー・ヨウとトラックメーカー・Nanaeによるユニット、Natsudaidai。ヨウは、新体制・冨田ラボで北村蕗、Arche、santa(S.A.R.)とともにボーカルを務めることでも話題になっている。まだ世に出ている情報が少ないにもかかわらず、着実に話題を集め始めているNatsudaidaiとは一体何者なのか? それぞれのルーツ、Natsudaidaiなりの“現代版・歌謡曲×ブラックミュージック”の追求の仕方、逃避させてくれるリリックを綴る理由、そして4月2日リリースのEP『CHEW』について話を聞いた。(矢島由佳子)

ユニット・Natsudaidai始動のきっかけ

――Natsudaidaiがインタビュー取材を受けるのは初めてということで、まずは結成の経緯から聞かせてもらえますか?

Nanae:もともと私がNatsudaidaiというプロジェクトを1人でやっていて、自分で歌ってもいたんです。大学時代のことだったんですが、コロナ禍で暇だったし、授業だと先生に「ここをこうしろ」とか言われるので、自由にやりたいなと思って遊びで始めた感じでした。でも別に歌がやりたかったわけではなく、本当は曲作りに集中したくて。「誰か歌ってくれる人いないかな」ってポロっと友達に言ったら「こんな子いるよ」ってギター弾き語りの動画を上げているヨウのInstagramを見せてもらって、すごく上手いなと思ってDMをしました。

――そもそもどういう音楽を作りたいと思って、1人でNatsudaidaiを始めたんですか?

Nanae:日本人としての曲で世界に行けたらなって。日本語の歌で、J-POPであることは忘れずに、でも私が好きなブラックミュージックとかのルーツを大事にする、ということを最初から考えていました。

Natsudaidai(撮影=是永日和)

――そういった音楽性で、理想とするアーティストはいますか?

Nanae:星野源さんです。日本人の心にすっと入ってくるし、お母さんやおばあちゃんに聴かせても「いい歌だね」って言うけど、ジャズとかをやっている人も聴くような音楽で。それってすごいじゃないですか。でもあの独特なグルーヴ感って真似したくてもできないんですよね。SIRUPさん、showmore、ZINさんの周りも、私たちが目指すところに近いなと思います。

――Nanaeさんの理想の音楽を実現するために、ヨウさんのどういった要素にビビッときたんですか?

Nanae:人の心を一気に掴む声だなと思って。でもヨウはJ-POPのカバーを上げていて、今とはジャンルが少し違ったので、最初はNatsudaidaiとして2人でやっていくとは1ミリも思ってなかったんです。ただ“コラボ”や“フィーチャリング”みたいな形で1曲やりませんか、っていう感じで声をかけました。

――そこからなぜ2人でNatsudaidaiをやっていこう、というふうになったんですか?

Nanae:出会ってから1年くらいは、ヨウがSNSに載せるカバー動画を「手伝うよ」っていう感じで、定期的に家に集まってピアノと歌で動画を撮っていたんです。

ヨウ:その1発目の動画がTikTokで80万回くらい再生されて……。

Nanae・ヨウ:「これ、いける〜!?」って(笑)。

Nanae:ちょうどTikTokでトレンドになっていたPUFFYの「愛のしるし」をアレンジして載せたら大きな反響をもらって、そこから楽しくてずっとやってました。そんな中で、学校内でアイドルへの楽曲提供のコンペの話があった時に、応募したくてヨウに仮歌を歌ってもらったらめっちゃハマったんです。結局コンペには落ちたから、その曲を“Natsudaidai feat.ヨウ”という形で出したら、それも周りからの反応がよくて。そこで2人とも可能性を感じて、「じゃあNatsudaidaiとしてやる?」って。

ヨウ:ね、「やるか!」って。本格的にNatsudaidaiとしてやっていこうとなったのが、2023年の夏ですね。

Natsudaidai(撮影=是永日和)

ブラックミュージック、歌謡曲……音楽のルーツに迫る

――Nanaeさんは音大に通われていたんですよね。それぞれのルーツも聞きたいなと思うんですけど、まずNanaeさんはどんな音楽を聴いてきて、いつから曲を作り始めたんですか?

Nanae:ピアノを始めたのは年中の頃で、そこからずっと音楽というものに対して興味があって、「自分の中で“音楽”が一番」という感じで過ごしていました。小さい頃は、お母さんとTSUTAYAに行ってJ-POPランキングの上から借りるという行事があって、それを楽しんでいたくらいJ-POPが大好きで。その時は絢香さんやaikoさんとかを超聴いていて、そういう曲を作ろうと思ったのが小4の時。最初はピアノで弾き語りして、自分で録音してました。ブラックミュージックを知ったのは高校生くらいなんですけど、きっかけは弟がジャズとかを掘り始めたことで。「最近何の曲がいい?」って報告し合う会が定期的にあったんですけど、その中で弟に教えてもらって衝撃を受けたのがSIRUPさんでした。そこからどんどん掘っていく中でディアンジェロに辿り着いて、そこでまた衝撃を受けて。ファンクやR&Bが自分にスッと入ってくる音楽だなと感じるようになってからは、自分の作る曲もブラックミュージックの要素があるものになっていきました。あ、小4の時から「私は音楽でお金持ちになる」という夢はブレなかったですね。

ヨウ:あははは、素敵です(笑)。

Nanae(撮影=是永日和)
Nanae

――小学生の頃、「音楽を作りたい」という衝動を掻き立たせたものは何だったんですか? 音楽を作ることの何が楽しかった?

Nanae:自分にしかないもの、ほかの人には出せないものが絶対にあるっていう、勝手な自信があったんだと思います。国語の詩を書く授業とか、何枚も先生に提出するタイプで。自分の世界観を表現で伝えたい、そこだけは譲れないと思っていたんだと思います。その中でも特に「誰にも負けないぞ」っていうくらい自信があったのが音楽でした。「絵本や映画にエンディングテーマをつけるなら」という妄想で曲を書いたり、aikoさんの歌詞に違う曲を作ってみたり、いろんな方法でやってましたね。とにかく楽しかった。それが趣味でしたね。

ヨウ:私はその熱量がどこにあったかなと思うと、音楽の歌のテストですね。小学生の頃から、作文とかは嫌々書いて提出していたけど、歌のテストだけは誰にも負けない自信がありました。

――だから今ヨウさんが歌って、Nanaeさんが詞曲を作っているという。出会うべくして出会った2人という感じがしますね。ヨウさんはこれまでどんな音楽を聴いてきて、どうやってこの歌唱力を培ってきたんですか?

ヨウ:もともと家族が音楽好きで、特に4個上の姉と母親が昭和歌謡が大好きだったんです。車でも松田聖子さん、テレサ・テンさん、山口百恵さんとかが流れているし、カラオケに行ってもみんなで昭和歌謡を歌っているような家族でした。姉より上に兄がいるんですけど、兄も歌が好きでずーっと歌っていて。いつからか姉がDREAMS COME TRUEにハマって、家の中でドリカムが流れるようになって、私も自然と「(吉田)美和さんってこんなにかっこよく歌うんだ、こんなに楽しそうに歌うんだ」と思いながら曲を聴いたり映像を観たりしていました。ギターを買ったのは高校生の時で、それは秦基博さんの弾き語りアルバムを好きになって「鱗」を弾きたいと思ったことがきっかけでした。それと同じくらいのタイミングでボイトレに通い始めましたね。

ヨウ(撮影=是永日和)
ヨウ

――ドリカムもまさにブラックミュージックをJ-POPに昇華している人たちで、美和さんの歌を聴き込んでいたことが自然とヨウさんの血肉になってNatsudaidaiに活きてそうですね。Nanaeさんに声をかけられた時は、どういう想いでSNSにカバー動画を上げていたんですか?

ヨウ:ずっと歌が好きだったので、なんとなく「歌手になりたい」っていう気持ちはあったんですけど、漠然としていたんですよね。保育の大学に通いながら、音楽をやりたいと思ってはいるけど、現実を見ていたというか。ちょうど心が揺れていた時にNanaeちゃんに声をかけてもらいました。

Nanae:ヨウの歌謡曲で培ってきた歌の感じはそのままに、Natsudaidaiになってからは私が好きなブラックミュージックの要素も取り入れてくれているので、いい化学反応になっているなと思います。どんどん唯一無二なものになっていけたらなと思いますね。

――星野源さんを真似したくてもできないとおっしゃっていましたけど、ブラックミュージックを基盤にしつつ、日本から生まれる歌を大事にしながら、誰とも違うトライをしようとしている気概をNatsudaidaiからは感じます。私の解釈としては、YMO(Yellow Magic Orchestra)とか、世界で愛されてきた日本発のテクノやエレクトロ系の匂いもあるなと思ったんですけど、いかがですか?

Nanae:それはまさに、2人で話してました。今いろんな新しいことをやっている人たちがたくさんいる中で、どうしたら唯一無二なものができるのか、ということは毎回話していて。ルーツが見えるアーティストでありたいから、昔のいいものを取り入れることは大事にしつつ、でも新しいものを作りたい。そういう中で、YMOという伝説的な日本のアーティストのエッセンスは入れたいなと思っていました。

――日本の音楽が世界に届く可能性が広がっているからこそ、「日本人としてのオリジナリティを大事にしながら、世界中で聴かれる音楽を作りたい」というのは今多くのアーティストが思っていることだと、日々自分がインタビューしていても感じます。「そのために実際何をやるのか?」というのが難しいところですよね。

Nanae:そこが毎回課題ですね。真似しているだけだと突出できないし。大橋純子さん、久保田利伸さんとか、私たちと同じ考えでやろうとしていたんだろうなっていうのが見えるので、それで成功している方たちの音楽は何回聴いても本当に勉強になります。

Natsudaidai(撮影=是永日和)

――EP『CHEW』には大橋純子さんの「シンプル・ラブ」のカバーも入っていますが、これはどういう意図でアレンジしたんですか?

Nanae:これは大変でした……。元の曲がいいし、それを真似しすぎるとただのカバーになっちゃうからNatsudaidaiの要素も入れなきゃっていう、そこの折り合いがすっごく難しくて。歌い方もご本人に寄せるのか、それともヨウでいくのかという塩梅も難しかったですね。

ヨウ:大橋さんって歌がバリバリに上手くて、そこに立ち向かおうとしても絶対に勝てないから、どうやったら自分の中の「シンプル・ラブ」を歌えるのかということをめちゃめちゃ考えました。もちろん、その中で違いは出さないとダメだと思ったので、吸収するところは吸収して、考えるところは自分で考えて、というふうに歌いました。

Nanae:これは私事なんですけど、「シンプル・ラブ」の締め切りの日にペットが亡くなっちゃって。泣きながら作りました。でも「シンプル・ラブ」の曲がよすぎて助けられたのもあったりして……そういう想いも詰まった、忘れられない曲になりました。

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