堀江由衣、完全無欠のエンターテインメント 色褪せることのない少女を宿した可憐な歌声

堀江由衣(撮影=草刈雅之)

 それはもう、まさに“全部盛り”のようなライブだった――。1月5日、堀江由衣が大宮ソニックシティ 大ホールにて開催された『堀江由衣 LIVE TOUR 2024-2025 文学少女倶楽部Ⅲ~The Walking YUI~』埼玉公演2日目のステージを目にして、筆者の脳裏に最初に浮かんだのがこの感想だ。本稿では、昨夏リリースのアルバム『文学少女の歌集Ⅲ-文学少女と夜明けのバス停-』を軸に、映像も駆使しつつ細部までこだわり抜いて作り上げた物語仕立てのライブの模様をお届けしていく。

 開演前には堀江のライブではおなじみのキャラクター・エコーちゃんやクマスターが“熊田先生”として「Stand Up!」などのペンライト色替え講座を開催。“劇団ほりえ”の劇団員(観客の呼称)の気持ちも向上させ、公演中の統一感の土壌を作るのに一役買う。

 そして、夏の朝の街並みを映したオープニング映像が流れ始め、堀江とともに文学少女帯(バンドメンバー)と踊りっ娘倶楽部(ダンサー)も“文学少女倶楽部”の部員として出演。最後に堀江が、持ってきたレモンを掲げたところで映像が終わると「Love me Wonder」のイントロが流れ、逆光のなか、堀江が2階ステージに登場。可憐かつ透明感のある歌声を、ブルーのペンライトの海へと響かせていく。さらに、レモンを手にしながらダンサーとのコンビネーションもばっちりなパフォーマンスを繰り広げると、「ほっちゃーん!」の大歓声が場内を包むなか、そのまま「光の海へ」がスタート。サビ前では1拍ずつタイミングをズラしたストップモーションなどでも魅せつつ、フレッシュな歌声とステージングを展開し、一体感をもって盛り上がる劇団ほりえの面々とともにライブを作り上げていく。

堀江由衣(撮影=草刈雅之)

 MCではこのライブを「文学少女倶楽部の夏合宿」とあらためて説明し、「楽しい夏合宿にしていきましょう!」の言葉で締めくくると、タイトルどおりに楽しさを連鎖させていくためのナンバー「笑顔の連鎖」へ。やや歌声を甘めに振り、アッパーながらもこの曲が持つあたたかみを現出させて客席に笑顔を咲かせると、「Romantic Flight」ではダンサーが降壇しひとりでのパフォーマンスに。ここではステージ上を移動しつつ、2階席なども含めて視線を交わし、間奏部分では額に手を当て客席の奥まで覗き込むような素振りも見せた。さらに柔らかな歌声を響かせ、物語の幕開けを飾ってみせた。

 ここからは、幕間映像とともにストーリーが進行。まずは熊田先生が化学部の怪しげな薬を飲んでしまい、事件の予感が漂うなか、2階ステージの階段に座った堀江がスポットライトを浴びて「水色と8月」を歌唱。夕暮れ空を背負いながら響かせる歌声のなかにある清涼感が、このミドルバラードにおいては切なさを増幅させるように作用する。続く映像でも降り出した雨などが不穏な雰囲気を醸し出す一方で、楽曲自体はまたも夏らしいナンバー「夏の約束」へ。ハイテンポながら、切なさを宿したナンバーを爽やかに歌っていく。

堀江由衣(撮影=草刈雅之)

 幕間映像では合宿の食事用に“クーマーイーツ”を頼み、堀江が熊田先生の隠していたハチミツを拝借したところで、熊田先生のようなおばけに遭遇。お裾分けに持ってきたレモンに熊田先生が怯えるなど物語のカギとなる要素も滲ませたところで、ポップかつガーリーな衣装にチェンジして「Dance Meets Girls」を披露。曲にマッチした甘めな歌声とダンサブルなパフォーマンスを見せていき、続くややメロウなシティポップ調のナンバー「君とさよなら」でもダンスを交えて、夜に近づく世界を表しつつダンスポップゾーンを構築。楽曲の切なさも感じさせながら、間奏部分では堀江もダンサーと同じ振りを踊り、グルーヴィーなサウンドに乗せて魅せてくれた。

 曲明けの映像では、クーマーイーツによって届けられたカレーの具材セットを校庭で焚き火をして調理する流れに。ここで実際にステージ上にも焚き火が現れると、アコースティックゾーンのスタート。まずは歌詞やセリフにカレー作りの工程やレモンといったこの日ならではの要素を盛り込んだ「小さじ一杯の勇気」を柔らかく温かく歌って、楽曲の魅力を引き出しながら物語のなかの一要素としても表現。続く「Good morning」では、背景に満天の星空を映し出しつつ、やや暗めになった照明やステージでゆらめく炎が、まるでキャンプで仲間とカレーを楽しむような光景を構築。劇団員たちが歌唱を担当するパートでは、会場中がひとつの焚き火を囲み一体になるかのような雰囲気を生み出すと、パフォーマンス後には堀江もその歌声に感謝を伝えていた。

堀江由衣(撮影=草刈雅之)

 さて、ここからは一旦コールアンドレスポンスのコーナー。血液型など定番のものはもちろん、「メインバンク」や「バンドで担当するならやってみたい楽器」などのユニークな分類も交えて、劇団員からのコールを呼び起こしていく。こうして声出しが完了したところで始まった「スクランブル」は、アコースティックで始まったにもかかわらず、サビの〈ぐるぐる回る〉のフレーズをはじめ、大きなコールが上がりまくり。1番のサビ明けの間奏で堀江がステージを離れ、バンドセッション中に文学少女帯が楽器をアコースティックから通常のものに持ち替えると、2コーラス目冒頭ではなんと堀江が2階の客席通路に登場! 高まりに高まった劇団員と視線を交わし、手を振り合いながら、端から端へと歌い歩いていった。そして踊りっ娘倶楽部のダンスタイムを経て、大きなコールに呼ばれた堀江がメインステージに帰還。熱気のなか最後まで歌いきり、ジャンプエンドで曲を締めくくる。

 と、突然その余韻を切り裂くかのような雷鳴が轟き、ゾンビ化した熊田先生と生徒が登場。このシリアスな雰囲気にピッタリな「インモラリスト」が、冒頭のセリフを熊田先生につぶやかれて歌唱開始。移動式のパーテーションやそこに仕込まれた扉を使って逃走劇を描写しつつ、はかなさと冷たさ、決意を感じる芯のある歌声で物語を彩っていく。そんなパフォーマンスと物語の急展開とが、さながらミュージカルのように良好な噛み合い方をしていた。そして「なんで学校にゾンビがいるのー!?」と堀江がステージから走り去ると、職員室に逃げ込むという幕間映像へと続く。そこへ追いかけてきた熊田先生が机に置いたカレーを持って姿を消すと、化学部からの電話でクマゾンビ化する薬を熊田先生が飲んだ話とレモンと朝日がクマゾンビの弱点だという話を聞き、雷鳴に続いて「遠雷」からライブ再開。シリアスなナンバーを凛とした空気を伴いながら歌っていき、その雰囲気をまとったまま「Love Destiny」へ。さすがは人気曲、イントロが流れた瞬間場内は歓声で沸き返る。すさまじいコールを従えつつ、透明感を持った歌声に加えて、この曲では切なさを乗せて魅了してくれた。

堀江由衣(撮影=草刈雅之)

 歌唱後、幕間映像で文学少女倶楽部の面々が朝まで逃げ切るよう意気を上げたところで、「True truly love」からラストスパート開始。映像の世界観を引き継ぎ、逃走しているかのようにそろそろとした動きでステージ上を移動しながら、ハイテンポなナンバーを通じてボルテージをさらに上げていく堀江。2番のサビではレモンに見立てたサインボールを客席へと投げてまたも劇団員たちを沸かせると、シリアスさのあるナンバー「innocent note」へ。ここでは歌声に、サウンドにマッチする力強さも込めていき、間奏ではステージ上にある旗を振って掲げ、このサバイバルの先頭に立たんとするかのような姿を見せると、映像にゾンビも映されるなか「ヒカリ」が始まる。ここではクマゾンビの弱点・レモン水を仕込んだ水鉄砲を手にしながら、振り付けのなかで水鉄砲を構えたり、それを客席側に向ける部分も盛り込み、逃走中のシリアスさを表現。背負った映像にも部員たちの奮闘が映し出され、クライマックス感をもたらす。

堀江由衣(撮影=草刈雅之)

 曲の終盤、その部員たちが絶体絶命の危機に追い詰められていき……といったところで朝日が差し込み、ゾンビたちが消え、「夜明けのバス停」がスタート。なんとか無事迎えられた新しい朝のすがすがしさをサウンドと歌声で描写。物語と絡めて〈いつも通りに戻っていく。〉という歌詞にWミーニングを持たせる点も含めて、選曲の妙も光る。こうして静かで穏やかな朝を迎えると、「Stand Up!」でその先の新たなはじまりを描き、再びポジティブな空気で場内を高めていく。歌声にも明るさを持たせた堀江が、爽やかに澄み渡る世界を構築すれば、「CHILDISH♡LOVE♡WORLD」で大団円へ。のっけからすさまじいコールが響き渡るなか、歌声にもパフォーマンスにも、この曲ならではのラブリーさを乗せまくって魅了していく。高まりきった劇団員からのすさまじい熱量の愛が渦巻くなか、時にはイヤモニを外してそれを受け止めつつ、“座長”としてきらびやかにステージのセンターを務める堀江。その堂々たる姿に、思わず見入ってしまった。最高潮を場内にもたらして本編を終えたのだった。

堀江由衣(撮影=草刈雅之)

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