アニソン20年の軌跡:シーンの変遷を辿る(2)水樹奈々、初日本武道館公演から20年 “声優史上初”の功績と今後の可能性
20年前の2005年1月2日、声優史上2人目となる日本武道館公演を成功させた女性声優がいる。今やその名前を知らない人はいない、声優界の歌姫・水樹奈々である。水樹といえば、高いレベルで声優と歌手活動を両立させ、現在の声優アーティストの形を確立させた立役者の一人であり、今なお声優業界、そして邦楽の第一線で活躍し続けるレジェンドでもある。今回の連載企画第2回では、今年歌手活動25年目を迎える水樹奈々の音楽活動の“記録”や“功績”に焦点を当て、その軌跡を振り返ることで、アニソンや声優アーティストシーンにどのような影響を与えたのかを紐解いていく。
まず、記録という点で一番わかりやすいオリコンチャートについて見ていこう。初めての日本武道館公演を終え、2005年10月にリリースされた12枚目のシングル『ETERNAL BLAZE』にて、林原めぐみが持っていた声優アーティストの当時の最高順位3位を更新する、自己最高位の2位を記録(※1)。その5年3カ月後の2010年1月には、21枚目のシングル『PHANTOM MINDS』にて初の1位を獲得する(※2)。また、アルバムの週間チャートでも2009年6月リリースの7枚目のアルバム『ULTIMATE DIAMOND』で1位を獲得しており、声優史上初のシングルとアルバム双方での首位獲得という快挙を成し遂げたのであった。
2010年代以降は声優や作品関連のユニットがオリコンチャートの上位を獲得すること自体は最早日常となっているが、水樹が驚異的なのはそれが10年以上にわたって継続している点である。現在に至るまで、シングルチャートでは最高位3位以内が21回、アルバムチャートではベスト盤を含めて3位以内が11回と、他の声優アーティストを圧倒的に引き離す大記録なのはもちろんのこと、邦楽のトップアーティストと比べても遜色ない記録を打ち立てているのは驚嘆に値するほかない。
ライブ活動に関する功績や記録も数多く存在する。中でも最もインパクトの強い出来事が、声優史上初となった東京ドームでの単独ライブであることは言うまでもないだろう。2009年に西武ドーム(現ベルーナドーム)で声優史上初のドームライブ『NANA MIZUKI LIVE DIAMOND 2009 supported by アニメロミックス』を行った彼女は、その勢いのままに2011年に単独2Daysでの東京ドーム公演『NANA MIZUKI LIVE CASTLE 2011』を成功させる。2日間で約8万人を動員したこのライブは他の声優/アニソン業界の関係者からも応援されていたことが知られており、たとえばアニソンレーベルのランティスは水樹のライブ開催近辺の日程で自社のイベントを行わないよう配慮していたことが後年の業界関係者のインタビューで明らかになっている(※3)。
その5年後の2016年4月には二度目の東京ドーム公演『NANA MIZUKI LIVE GALAXY 2016』を開催。この1週前には『ラブライブ!』のμ’sのファイナルライブが東京ドームで行われており、奇しくもアニソン関連のライブが東京ドームで2週連続で開催されたことで、業界の盛り上がりが世間的にも鮮明になったのであった。
また、水樹は“声優史上初”を冠するライブの記録が非常に多い。たとえば2022年には47都道府県でのライブ開催地制覇を達成しているほか、ZOZOマリンスタジアム(2012年、2019年)、横浜スタジアム(2014年)といった屋外球場でのライブは、声優グループなどを含めてもいまだ彼女しか成し得ていない偉業である。中でも今後も当分破られないであろう会場でのライブが、2016年に行われた『NANA MIZUKI LIVE PARK 2016』という阪神甲子園球場でのライブだ。
熱狂的な阪神タイガースファンとして知られる彼女がその聖地で歌唱したという特別感はもちろんなのだが、そもそも甲子園球場での声優のライブが開催されること自体がかなり特殊という事情がある。甲子園球場はプロ野球や高校野球での試合開催、そしてオフシーズンでの芝生養生の影響もあって、音楽ライブはドーム形態の球場に比べると開催される本数は少ない。さらに、過去にはTUBEが長期間にわたって甲子園ライブを定期的に行っており、その活動が同球場にとっての夏の風物詩として定着していたが、2015年にそのライブシリーズを一区切りにすると発表したことで、新たなアーティストが甲子園でライブを行う機会が広がった。また、3万人規模という集客の難関があるものの、2016年に東京ドームでライブをした水樹ならクリアできる。ライブ本数の少なさや集客にかかわる問題をクリアした上で、奇跡的なタイミングで実現したのが、この甲子園球場でのライブだったのだ。この公演は途中豪雨によるハプニングすらも演出となるような印象的なステージだったこともあり、現在でもファンの間では語り草となっている。