今年の顔、もっと評価されるべき、ニューカマー、個人的推し……ライター4名が選ぶ2024年ベストアニソン
2024年を振り返ると、今年もアニメソングが音楽シーン全体の流行を牽引し、ジャンルの垣根を越えてリスナーの心を掴んだ一年だったように思う。TVアニメ『マッシュル-MASHLE- 神覚者候補選抜試験編』OPテーマであるCreepy Nutsの「Bling-Bang-Bang-Born」が今年一年を通してあらゆる音楽チャートを席巻し、LiSA「炎」(2020年)、Aimer「残響散歌」(2022年)やYOASOBI「アイドル」(2023年)といった近年のヒット曲に続き、アニソンの存在感を示した。この潮流は2025年以降もさらなる拡大を見せるだろう。
今回リアルサウンドでは、えびさわなち氏、河瀬タツヤ氏、北野創氏、冨田明宏氏(50音順)に、「今年の“顔”となったアニソン」「もっと評価されるべき楽曲」「ニューカマー楽曲」「個人的推し楽曲」という4つのトピックに対してそれぞれの推薦楽曲をセレクトしてもらった。読者の皆さんも上記トピック4曲をセレクトし、2024年のアニソンシーンを振り返ってみてはいかがだろうか。(編集部)
今年の“顔”となったアニソン
Creepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」
アニメ『マッシュル-MASHLE- 神覚者候補選抜試験編』OPテーマ
〈チート、gifted、荒技、wanted〉……今や小さな子供までもが、このマシンガンライムを口から溢れさせながら、砂場で、広場で、歌っているのだから、これが“一世を風靡する”ということなのだと改めて感じさせる。89秒というアニメOP/EDのセオリーの尺に詰め込まれた情報量と躍動するエモーションが凄まじい、稀代のアニメソングだ。Creepy Nutsが紡ぐのは、イントロから怒涛のアーバンヒップホップで畳みかけるアブノーマルファンタジー『マッシュル-MASHLE-』の世界そのものの1曲。日本のみならず世界中を圧倒し、席捲したこの曲こそ「今年の顔のとなったアニソン」で間違いなし!(えびさわ)
Mrs. GREEN APPLE「ライラック」
アニメ『忘却バッテリー』OPテーマ
アニソンという枠だけでなく、邦楽全体を眺めた時に、この2年ほどで日本のバンドの頂点に近い位置にまで駆け上ったMrs. GREEN APPLEの存在は無視できない。その中でもアニメ『忘却バッテリー』のOPテーマとして作られた「ライラック」は、青春の喜びと苦悩をアニソンらしい疾走感を携えながら歌った名曲で、登場人物たちのエピソードと照らし合わせることで、その解像度がさらに上がる仕掛けとなっている。21週連続でBillboard JAPANのストリーミングチャートで1位を獲得した(※1)という実績は、彼らの人気と楽曲の完成度はもちろんだが、確実にアニメの影響もあったはず。昨今のダンスバズリを狙う施策も面白いが、作品が描写したいことにしっかり寄り添ったクラシカルな手法のアニソンに対しても多くの目を向けてほしい。(河瀬)
トゲナシトゲアリ「雑踏、僕らの街」
アニメ『ガールズバンドクライ』OP主題歌
アニメ『ガールズバンドクライ』の劇中バンド・トゲナシトゲアリが歌う同アニメのOP主題歌。エモコアやボカロ音楽の要素をクロスオーバーさせた急進的なバンドサウンド、自分自身さえも傷つけてしまいそうなほど鋭く繊細に尖った歌詞など、agehasprings制作による現代的なトレンドを踏まえた楽曲の質もさることながら、アニメの声優が実際にバンド活動を行っているのが肝。特にリアルバンドによる2ndワンマンライブは、アニメの最終話の舞台となった聖地・川崎CLUB CITTA'で開催され、アニメの名シーンを再現する演出が通常のバンドのライブでは体感できない感動を生み出していた。また、劇場版の公開やリリース/ライブ展開のあった『ぼっち・ざ・ろっく!』『BanG Dream! It's MyGO!!!!!』とともに顕在化した“ガールズバンドアニメ”ブームの象徴としても、トゲトゲは今年の顔として挙げたい。(北野)
シカ部「シカ色デイズ」
アニメ『しかのこのこのここしたんたん』OPテーマ
今年世界中で最も聴かれたアニソンは間違いなく「Bling-Bang-Bang-Born」だと思うけれど、2000年代初頭から連綿と受け継がれる“深夜アニメのワルノリ”的共犯関係にあるキャラソン主題歌の魅力がたっぷりと詰まっていて、なおかつ“リズム”と“ダンス”の相乗効果でTikTokをはじめ、SNSでもバズりにバズったこの曲を今年は顔としておきたい。fhánaを脱退した和賀裕希がまさかこの清々しいほどに明快なメロディとリズムで天下を獲るとは思わなかったし、すっかりヒットメーカーとなった作詞家・やぎぬまかなのワードセンスと奏功して生まれた今年の顔的アニソン。これこそ世界に誇るべき、絶対に日本のアニメ文化の中からしか生まれない曲ですよ。(冨田)
もっと評価されるべき曲
SawanoHiroyuki[nZk]:TOMORROW X TOGETHER「LEveL」
アニメ『俺だけレベルアップな件』OPテーマ
SawanoHiroyuki[nZk]がゲストボーカルにTOMORROW X TOGETHERを迎えたエレクトロロックで、ダイナミックなビートと彼らの鋭い歌声が物語のストーリーに強くコネクトする1曲。卓越した表現力とグルーヴ感のあるボーカルが力強く響くナンバーとなっている。本国のみならず海外でも評価の高いTOMORROW X TOGETHERと鬼才・澤野弘之のコラボが熱かった。この曲はぜひライブで聴きたい。この冬にはZEROBASEONEがアニメ『ポケットモンスター』のOPテーマを歌うなど、ここからまだまだK-POPアーティスト×日本のアニメ作品というコラボが浸透することに期待したい。(えびさわ)
sajou no hana「淡く微か」
アニメ『やり直し令嬢は竜帝陛下を攻略中』OPテーマ
メインキャラクターの尊さ溢れる関係性を綴った歌詞をエモーショナルに歌い上げるsanaの歌声と、渡辺翔のスッと入ってくるメロディと緩急、そして煌めくようなギターサウンドが印象的な伊根のアレンジ。すべての要素が高いレベルでまとまった、爽やかな疾走感が素晴らしいロックナンバーで、コミカルなアニメのOP映像もインパクトが抜群だ。渡辺翔、キタニタツヤ、sanaのスリーピースバンドスタイルからsanaを中心とした音楽プロジェクトとなったsajou no hanaだが、アレンジに外部のクリエイターを招聘するようになったことで楽曲の柔軟性が増し、むしろ可能性が広がったようにも感じられる。次はどんな音楽が繰り出されるのか、楽しみで仕方がない。(河瀬)
吉乃「なに笑ろとんねん」
アニメ『来世は他人がいい』ED主題歌
吉乃はAdoと同じクラウドナイン所属の歌い手で、2024年秋クールに2作品のアニメのタイアップ曲を同時に担当してメジャーデビュー。ナナホシ管弦楽団が提供した「ODD NUMBER」(アニメ『ひとりぼっちの異世界攻略』OP主題歌)も彼女の特徴であるがなり系の歌声を駆使したアップチューンでおすすめだが、アニメ『来世は他人がいい』のED主題歌となる本楽曲は、ジャズやラテンのフレーバーを散りばめた曲調と妖艶さを帯びた歌声の魅力に加えて、アニメの主人公・染井吉乃とのシンクロっぷりがすごい。まず名前が同じということに驚かされるが(しかも偶然らしい)、極道の家に生まれ育った主人公のキャラクター性を掬い上げた関西弁の歌詞を違和感なく歌い上げる上に、染井吉乃役の声優・上田瞳とも声質が似ているため、“染井吉乃のキャラクターソング”と錯覚してしまうほどだ。ぜひアニメ込みで味わってほしい。(北野)
キタニタツヤ「次回予告」
アニメ『戦隊大失格』OPテーマ
もはや揺るがない評価を獲得しているキタニだが、「次回予告」はもっともーっと評価されていいと思う。『戦隊大失格』の戦隊シリーズに対するメタ的なノリをしっかりと汲みつつ、「次回予告」というタイトルには、変わらずに繰り返される日常と向き合う現代人に向けたシニカルなメッセージが透けている。電気グルーヴ風と言うか、ジャーマンニューウェイヴ経由のテクノサウンドもアイデアとして面白いし、対比として二層構造になっているサビの解放感も素晴らしい。そして子供の掛け声の歌詞では時間経過を表すように、一番では平仮名、二番では漢字で表現されていて実に芸が細かい。改めてじっくり向き合って聴いてほしい1曲です。(冨田)