BUCK-TICKは“らしさ”と“変革”を武器に新たな始まりを告げる 『スブロサ SUBROSA』クロスレビュー

BUCK-TICK『スブロサ SUBROSA』レビュー

「生きよ」と強く訴えかける懐の深いストーリー(大窪由香)

 11月28日に行われたアルバム『スブロサ SUBROSA』特別先行試聴会の様子を見に、東京 恵比寿ザ・ガーデンルームを訪れた。開始を待つ会場は、とても静かで、緊張感に包まれていた。圧倒的な表現力をもつボーカリスト 櫻井敦司を失ったBUCK-TICKをBUCK-TICKと言えるのかどうか。今井寿と星野英彦のボーカルは? 作詞は? ポジティブの端からネガティブの端まで、期待と不安と好奇心と、さまざまな感情が入り混じる中で試聴会はスタートした。

 宇宙に散らばる光の粒のような音の広がりから始まる「百万那由多ノ塵SCUM」は、アコースティックギターの音色と〈俺たちは独りじゃない〉と歌う今井のボーカルに、星野のギター、樋口豊のベース、ヤガミ・トールのドラムの音が順番に加わっていく。かつて、こんなに柔らかなサウンドで始まるアルバムがあっただろうか。今井と星野がボーカルを取ることを念頭においた曲作りは、そのサウンドに大きな変革をもたらした。

 硬質なEDMに今井のラップが乗るタイトル曲の「スブロサ SUBROSA」、インダストリアルなサウンドに浮遊感のある今井のボーカルがフィットした「夢遊猫 SLEEP WALK」、星野による作詞作曲の「From Now On」はインストの後半から英語詞の歌が入るような面白い構成、ダークなトリップホップの「Rezisto」と、実験味の強い楽曲が並んだ後、アンビエントなインスト曲「神経質な階段」を挟む。先行シングル曲になった「雷神 風神 - レゾナンス #rising」と「冥王星で死ね」は今井と星野によるツインボーカル曲。ヘヴィなサウンドでバンドが前に進むさまを歌った「遊星通信」、星野作詞の「paradeno mori」は過去曲の言葉を使って櫻井へメッセージを送った軽快なダンスチューン。シタールの音色が印象に残るサイケデリックなインスト曲「ストレリチア」、今井作詞・星野作曲というこれまでにない組み合わせで生まれた「絶望という名の君へ」は、星野の甘いボーカルが光るメロディアスナンバー。「TIKI TIKI BOOM」はパーカッシブなビート、「プシュケー - PSYCHE - 」はスリリングなリフと言葉のリフレインが強烈なインパクトを残し、メタリックなトラックに三連符フロウを乗せた「ガブリエルのラッパ」、アンビエントノイズの「海月」と続く。そして「黄昏のハウリング」は今井が低音ボイスを聴かせる哀愁漂うミディアムナンバーだ。

 死を見つめて生を思う櫻井と、生を見つめて死を思う今井が、両極にいながら同じ方を向いているのがBUCK-TICKにおける死生観で、2人の作詞の分量によって、アルバムごとにその色合いは変化してきた。今井の作詞が1曲のみで、ほか11曲の作詞を櫻井が手掛けた前作『異空 -IZORA-』(2023年)は死の匂いが濃い作品だったが、今井が12曲の作詞をした今作では、強烈なまでに「生きよ」と訴えかけてくる。

 たとえ〈傷つけて生く〉(「Rezisto」)ことになっても、たとえ〈雨に撃たれ〉ても〈生き抜くことだ〉(「雷神 風神 - レゾナンス #rising」)と言う。〈俺たちは独りじゃない〉(「百万那由多ノ塵SCUM」)と、この先の未来を共に歩く〈明るい未来の確信犯〉(「スブロサ SUBROSA」)たちに語りかける。そして、星野の歌詞もその背中を押してくれるのだ、〈It’s all right/Don’t Worry〉(「From Now On」)と。もちろんそこには、日本武道館(『バクチク現象-2023-』)で“第二期BUCK-TICK”の始まりを告げたヤガミの揺るがない意志と、ゆっくりとファンの心に歩みをそろえる樋口の思いも寄り添っている。だからこそ『スブロサ SUBROSA』は、ポジティブの端からネガティブの端まで、今のBUCK-TICKに対するすべての感情を包み込んでくれる懐の深いアルバムだと思っている。誰ひとり置いていかないように。なぜならば彼らもまた、〈絶望という名の君を強く抱いて〉(「絶望という名の君へ」)、〈歌うように〉〈哭いている〉(「黄昏のハウリング」)のだから。都合よく歌詞を引っ張ってきてストーリーを作りあげてしまったが、私自身はこんなふうに感じている。

 この試聴会では、6名のムービーディレクターによるオリジナル映像がついていて、全17曲70分超えと大ボリュームの作品だが、各楽曲の個性の強さと、その世界観を深める映像の面白さ、3曲のインスト曲による場面転換により、あっという間に聴き終えたという印象だ。ラストの「黄昏のハウリング」が終わった後、会場には自然と拍手が湧き起こった。『スブロサ SUBROSA』は“秘密は薔薇の下で”という意味を持つが、この会場で共有した秘密はぜひとも声高に叫びたい。そんな気持ちになったのは私だけではなかっただろう。『スブロサ SUBROSA』は確かにBUCK-TICKだった。(大窪由香)

BUCK-TICK『スブロサ SUBROSA』CDジャケット写真
『スブロサ SUBROSA』

◾️アルバム情報
『スブロサ SUBROSA』
2024年12月4日(水)発売
配信:https://buck-tick.lnk.to/SUBROSA

<収録曲>
1. 百万那由多ノ塵SCUM
2. スブロサ SUBROSA
3. 夢遊猫 SLEEP WALK
4. From Now On
5. Rezisto
6. 神経質な階段
7. 雷神 風神 - レゾナンス #rising
8. 冥王星で死ね
9. 遊星通信
10. paradeno mori
11. ストレリチア
12. 絶望という名の君へ
13. TIKI TIKI BOOM
14. プシュケー - PSYCHE -
15. ガブリエルのラッパ
16. 海月
17. 黄昏のハウリング

<品番・価格>
・完全生産限定盤A(SHM-CD+Blu-ray)VIZL-2394/¥6,050(税込)
・完全生産限定盤B(SHM-CD+DVD)VIZL-2395/¥5,500(税込)
ボーナスディスクが付属したスペシャルパッケージ仕様
Blu-ray/DVDには『スブロサ SUBROSA』INTERVIEW収録
・通常盤(SHM-CD)VICL-70283/¥3,300(税込)

アルバム『スブロサ SUBROSA』特設サイト

『雷神 風神 - レゾナンス』

◾️シングル情報
『雷神 風神 - レゾナンス』
2024年11月20日(水)発売
配信:https://buck-tick.lnk.to/RaijinFujin_Resonance

<収録曲>
1. 雷神 風神 - レゾナンス
2. 雷神 風神 - レゾナンス(パソコン音楽クラブ Remix)
<品番・価格>
・完全生産限定盤A(SHM-CD+Blu-ray)VIZL-2392/¥2,640(税込)
・完全生産限定盤B(SHM-CD+DVD)VIZL-2393/¥2,090(税込)
ボーナスディスクが付属したスペシャルパッケージ仕様
BUCK-TICKロゴステッカー封入
Blu-ray/DVDには「雷神 風神 - レゾナンス」MUSIC VIDEO収録
・通常盤(SHM-CD)VICL-79010/¥1,320(税込)
BUCK-TICKロゴステッカー封入(初回生産分)

◾️ライブ情報
2024年12月29日(日)
『ナイショの薔薇の下』@日本武道館
OPEN 17:00 / START 18:00
全席指定 / 注釈付ステージサイド指定席 / 2階後方立見(立ち位置指定):¥11,000(税込)
※チケットSOLD OUT

公演特設サイト

◾️全国ツアー情報
『BUCK-TICK TOUR 2025 スブロサ SUBROSA』
<日程>
2025年4月12日(土)宮城:仙台GIGS
2025年4月13日(日)新潟:新潟LOTS
2025年4月19日(土)大阪:Zepp Osaka Bayside
2025年4月20日(日)愛知:Zepp Nagoya
2025年4月26日(土)広島:広島CLUB QUATTRO
2025年4月27日(日)福岡:Zepp Fukuoka
2025年4月29日(火祝)香川:高松festhalle
2025年5月11日(日)北海道:Zepp Sapporo
2025年5月16日(金)東京:Zepp Haneda
2025年5月17日(土)東京:Zepp Haneda
2025年5月24日(土)東京:豊洲PIT
2025年5月25日(日)東京:豊洲PIT
<チケット>
一般発売:2025年3月15日(土)
1F立見・2F後方立見:¥9,900(税込)/2F指定:¥11,000(税込)
※ドリンク代別
※新潟、広島、香川、東京・豊洲PITは立見のみ

◾️招待ライブ情報
<日程>
2025年3月23日(日)
<会場>
東京都内某所
<参加方法>
シングル『雷神 風神 - レゾナンス』とアルバム『スブロサ SUBROSA』の両作品を購入いただいた方の中から抽選でご招待

BUCK-TICK 公式サイト

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