BUCK-TICK、5人のパレードは続く 櫻井敦司急逝後初ライブ『バクチク現象-2023-』徹底レポ

『バクチク現象-2023-』徹底レポ

 2023年12月29日、BUCK-TICKは「バクチク現象」の名の下に日本武道館公演を行った。その日はボーカリスト 櫻井敦司が急逝してから初めてのライブ。それは一つの節目であると同時に、BUCK-TICKというバンドが進み続けることを宣言する日でもあった。デビュー20周年の2007年に自ら主宰したイベントを『ON PARADE』と名づけて以来「パレード」というワードはBUCK-TICKにとって特別な意味を持つようになってきたが、この夜からさらに重要なものとなった。

「BUCK-TICKはずっと5人です」(樋口豊)

「ファンの皆さんがいるのでこれからもBUCK-TICKを継続させていただきたいと思います」(ヤガミ・トール)

「新しい一歩を踏み出すことができました。パレードはこれからも続きます、この5人で」(星野英彦)

「来年BUCK-TICKは新曲を作ってアルバムを作ります。最新が最高のBUCK-TICKなんで、期待しててください」(今井寿)

 アンコールで一人ひとりの口から伝えられたメッセージは、櫻井敦司とファンとともに進み続ける覚悟を力強く宣言するものだった。

今井寿

 櫻井の急逝が知らされた10月24日には決定していた12月29日の日本武道館公演『THE DAY IN QUESTION 2023』。中止かと誰もが思っていたところに『バクチク現象-2023-』として改めての開催が告知された。インディーズで活動していた頃ライブに冠したタイトルを今ふたたび使う意味は何だろう。それはこの日のライブを通して重く強く伝わってきた。

 The Beatlesが残された音源から新作を発表し、Queenはアダム・ランバートをボーカルに迎え来日公演も行う。X JAPANのhideのためのライブはアーカイブ映像と音源を使って開催されてきている。バンドを続ける方法はある、とは思うもののBUCK-TICKはどうするのか、不明なまま不安を抱えて当日を迎えたファンにとって、このライブは未来を見せてくれるものになった。

 開演前のステージには、セットらしいものは何もなくただ楽器が置かれている。ステージ後方を広く開けているのは映像を使うからだろうと想像はついたが、センターにあるべきマイクがないことは、わかっていても辛い。唯一、ステージに櫻井が愛用した仮面や燭台などの小道具がいつもの場所に置いてあった。

 オープニングSE「THEME OF B-T」が流れると、スクリーンには35年前の『バクチク現象』のステッカーやそれが貼られた映像、歴代BUCK-TICKのロゴなどがフラッシュバック的に映される。やがてヤガミ、樋口、星野、今井がステージに現れると、いつも櫻井が現れるステージ中央後方に彼のシルエットが浮かび上がった。そして今井が「さあ、始めようぜ! BUCK-TICKだ!」と叫んで「疾風のブレードランナー」に突入すると、張りのある櫻井の歌声が聴こえてきた。そうか、そういうことか。4人の演奏とデータのコラボだ。櫻井の存在と不在を同時に受け入れるのがこのライブなのだ。今井はステージを左右に動き、星野は歩きながら腕を振り上げオーディエンスを煽る。ヤガミは赤いジャケットの背中に「バクチク現象」の文字を背負っている。樋口は笑顔でベースを弾きながら体を揺らす。このライブを楽しんでほしい、そんな気持ちが彼らから伝わってきた。

ヤガミ・トール

 「上げていこーぜ」と今井が声をかけた「独壇場Beauty -R.I.P.-」では、後方スクリーンが5分割され4人の映像が挟むセンターだけが黒いスペースに。そしてダンサブルなナンバーに場内のハンドクラップが重なる。今井と星野が力強いコーラスを重ね、ラストは櫻井のフェイクと応酬してみせる。そして今井が「乗り遅れんなよ!」と声をかけ「Go-Go B-T TRAIN」へ。機関車の車輪のように腕を回す櫻井の様々なライブでの映像が流れ、蒸気機関車の汽笛のような音に合わせてスモークが吹き出す。櫻井の歌に合わせてオーディエンスが腕を振り、まるでいつものライブのような熱気が生まれていく。涙をぬぐいながらも以前と同じように楽しむことが大切なのだと誰もが思っているようだった。

 大きな拍手の中で今井がギターで猫の鳴き声を奏でながら「ニャオス、楽しんでください」と前振りをした「GUSTAVE」。猫を愛した櫻井が猫のように動きながら歌う映像が愛おしい。オーディエンスは曲に合わせて猫の手を繰り出し、どこかのライブで歌った櫻井の歌に合わせて今井たちがコーラスする。3分割のスクリーンでカラーの櫻井を挟むリアルタイムのメンバーの映像はモノクロで、現実かこれまでの映像か戸惑う。どちらもリアルであってほしい。と思っていたら今井が叫んだ「ス・ス・メ・ミ・ラ・イ・ダ!」。今井がボーカルを取る「FUTURE SONG -未来が通る-」は彼の今の思いそのままだ。〈蹴散らせ 引くな怯むな 進め 未来だ〉。櫻井のパートに合わせて星野が歌うと二人は一つになった。

樋口豊

 拍手が続く中、櫻井の「雨にも負けず風にも負けず、行こう」との声に続いたのは「Boogie Woogie」。櫻井の蠱惑的な歌に今井のテルミンが絡む。これに続いた「愛しのロック・スター」は、櫻井と親しかったISSAY(DER ZIBET)と1995年のアルバム『Six/Nine』でデュエットした曲で、8月に急逝したISSAYとの最後のステージになった2022年のヤガミ還暦ライブの映像が使われていた。思わせぶりに歌う二人の映像はなんとも美しく、今もどこかで手に手を取って歌っているのではないかと思いたくなる。いつまでも鳴り止まないかと思うほどの拍手が二人に送られた。これに続いた「さくら」は櫻井が愛する母の死に際して詞を書いた曲。桜の花が散る様を見せる映像が会場の天井まで広がっていき、力強い演奏に合わせステージでは満月と重なる。これにもまた終わりのない拍手が送られた。

 硬質なギターソロから始まった「Lullaby-III」。櫻井が愛用した燭台がステージに持ち込まれ、樋口のアップライトベースが響き、櫻井の歌に合わせて祝祭的な空気を盛り上げる。揺らめく炎はまるでそこに櫻井がいるかのように思わせた。「ROMANCE」ではバレリーナと共演した櫻井の映像も使われ、エスニックなギターで始まった「Django!!! -眩惑のジャンゴ-」は『ムーラン・ルージュ』を連想させる背景になって、櫻井が好んだ退廃的で幻想的な世界が描き出された。「見ろよイカロス あれは太陽だ」と囁く櫻井の声で始まった「太陽とイカロス」は太陽のようなライトとギリシア建築風の柱の背景に伸びやかな曲が広がっていった。〈悲シクハ無イ コレデ自由ダ〉とは今の私たちが感じるべきことなのだろう。〈涙ガ ボロボロ ボロ 零レタ〉としてもいいのだ。

星野英彦

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