BUCK-TICKは“らしさ”と“変革”を武器に新たな始まりを告げる 『スブロサ SUBROSA』クロスレビュー

BUCK-TICK『スブロサ SUBROSA』レビュー

 新体制となったBUCK-TICKから、17曲入りの大作アルバム『スブロサ SUBROSA』が届けられた。絶えず斬新な音楽的挑戦を繰り広げてきた彼らは、大きな悲しみを乗り越えた先で、一体どんな音を鳴らし、どんな歌を届けたのか。音楽ライターの冬将軍氏、大窪由香氏が、それぞれの視点から『スブロサ SUBROSA』を紐解いていく。(編集部)

新生BUCK-TICK 止まらない挑戦の歩み

2024年、BUCK-TICK新体制の歩みが始まった。その狼煙を上げたのが、〈FLY HIGH !! 昇天/Rising!! H…

前衛的な姿勢と飽くなき探究を続ける“変わらない”バンドの在り方(冬将軍)

 おおらかなメロディを歌いあげる今井寿の歌から徐々にメンバーの音が重なっていく。まさに新しいBUCK-TICKの始まりを告げるオープニング曲「百万那由多ノ塵SCUM」に胸が熱くなる。

 絶対的なフロントマンであり、唯一無二のボーカリスト 櫻井敦司の居ない新しいBUCK-TICK。4人でバンドを続ける覚悟がありありと伝わるアルバム……ではないように思えた。あくまでこれまでの延長線上にあり、変わらぬバンドの在り方を示していく。『スブロサ SUBROSA』はそんなアルバムであると感じた。インストゥルメンタルを含めた17曲というボリュームは今井を軸とした4人の創作意欲の結果であり、そこに気負いを感じることはない。もちろん、櫻井の歌がないので聴き心地はこれまでとは異なるものの、アルバムを初めて聴き終えた率直な感想は、いつも通りのBUCK-TICKだった。

 いつも通りというのは、BUCK-TICKというバンドが常にファンを良い意味で裏切ってきたことを含めてのもの。想像の斜め上を行く音楽性、不可思議なサウンド、風変わりな詞と奇想天外なメロディ……。楽曲がリリースされるたびに驚かされっぱなしだった。多くのファンはそうした彼らの前衛的な姿勢と飽くなき音楽探究に魅せられ続けてきたのである。それは本作でも変わらない。

 まず本作を聴いて誰もが驚いたのはボーカルだろう。ダークでインダストリアルなヒップホップチューン「スブロサ SUBROSA」、シンセベースのうねりが妖しくトリップホップな世界を染め上げる「Rezisto」。無機質な音像の中に飄々とした今井のボーカルが不気味に囁くスタイルは、長年聴き慣れたものだ。しかしながら、先行シングル曲「雷神 風神 - レゾナンス #rising」では、今井と星野英彦のツインボーカルで攻めてきた。今井はLucyで、Kiyoshi(hide with spread beaver, MADBEAVERS, machine)と、風神雷神図の如く、ツインギター&ツインボーカルバンドとして活動してきたわけだが、それをBUCK-TICKに持ち込むとは……「その手があったか」と思わず膝を打った。

BUCK-TICK / 雷神 風神 - レゾナンス MUSIC VIDEO

 今井がメインボーカルを取ることは想定内であったが、ツインボーカルしかり、星野がメインボーカルを取るとは思ってもいなかった。無国籍な祝祭感が溢れながらも、シンセベースとシーケンスが無機的なグルーヴへ昇華していく「paradeno mori」、フォーキーな響きと歌謡性のあるメロディが調和する「絶望という名の君へ」など、星野の甘い歌声がアルバムの明るさと拡がりを大きく印象づけている。

 本作にはアンビエントな「神経質な階段」、シタールの音色が異国情緒を漂わす「ストレリチア」、スペーシーな「海月」といった3曲のインストが収録されているが、もっと多くなると予想していた者も少なくはないはずだ。しかしながら、インストはあくまでインターバル的な役割であり、作曲者自ら歌う曲が大半を占めている。先述の今井の不気味さ漂うボーカルは想定していたものだが、「百万那由多ノ塵SCUM」でのっけから悠々と歌いあげる今井には驚かざるを得なく、ラストナンバー「黄昏のハウリング」でのダークさを醸すメロディを今井が艶やかに歌うことなんて想像もしていなかったことだ。

 そう、BUCK-TICKに稀代のメロディメイカーが2人もいるのだ。音楽性やサウンドがいくらマニアライクになろうと、常に歌モノのロックをやってきたのがBUCK-TICKだった。オルタナティブロックやインダストリアル、テクノなど様々な音楽要素は取り入れながらも、常にキャッチーなメロディを持った日本語の歌モノロックをやってきたバンドだ。“魔王”の異名を持った櫻井敦司という強烈なボーカリストの影に隠れていたが、BUCK-TICKのメロディはいつだって普遍的なものであったのだと、あらためて気づかされた。

 サウンド面ではケミカルな香りが作品を彩る。アルバム全体を通してシーケンスやシンセベースのサウンドが印象的だ。「雷神 風神 - レゾナンス」のMVで今井が手にしているのはZtar(ジター)というMIDIギターだ。かつて「迦陵頻伽 kalavinka」(1997年)で弾いていたものの最新型。本作では「海月」で使用されている。Ztarをシングル曲のMVで手にしていることが、本作のサウンドを象徴しているような気がしてならない。ちなみに「スブロサ SUBROSA」にはギターが入っておらず、「Rezisto」はドラムレスで全編が打ち込みである。

 「Rezisto」やミステリアスな空気感を醸す「プシュケー - PSYCHE -」など、野太い樋口豊のベースは、シンセベースと一体化するように楽曲の中低音域を支える。「スブロサ SUBROSA」のように反復するフレーズでもひたすら丸々1曲分弾くのはBUCK-TICKならではのものだが、そうした人力による無機質なベースラインもまた本作の聴きどころだ。そしてヤガミ・トールのドラムは、アフロビートで攻め立てる「冥王星で死ね」、トライバルなリズムの「TIKI TIKI BOOM」、跳ねたリフを扇動する「遊星通信」をはじめとしたバンド感のあるビートを司る反面で、「From Now On」の淡々としたリズム、「夢遊猫 SLEEP WALK」のメタルパーカッションとの絡み、リヒャルト・ワーグナーの楽劇テイストが香る「ガブリエルのラッパ」のシステマチックに構築されていくリズムの重なりも、精確なヤガミのリズムだからこその説得力だ。

 総じて、BUCK-TICKらしい前衛的で貪欲な音楽性とサウンドを感じるアルバムである。BUCK-TICKはスタジオ作品とライブは別モノであるという作り方を昔からしている。無論、それは本作も同様であり、この17曲がライブでどういう深化を見せることになるのか、もっと言えば、新しいBUCK-TICKが今後どういった進化を遂げていくのか、楽しみで仕方がない。(冬将軍)

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