ASIAN KUNG-FU GENERATIONを彩ってきた“衝動と成熟” 4人のフェイバリットソングから辿る20年史

アジカンの20年を彩ってきた衝動と成熟

山田貴洋が選ぶフェイバリットソング

――山田さんはどの曲に思い入れがありますか?

山田:Disc1は「エンパシー」。つい最近南米でもライブでやったんですけど、演奏しててすごくいい曲だなって思います。長年ライブのサポートをしてくれたシモリョー(下村亮介/the chef cooks me)にプロデュースしてもらった曲で、他の曲とはちょっとタッチが違って聴こえるし、アレンジはめちゃくちゃ細かいことをやっているんですけど、1曲を通して聴くとそのせせこましさは一切感じなくて。ヒロアカの映画(『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ワールド ヒーローズ ミッション』)の主題歌なんですけど、これが最後に流れた時にはめちゃくちゃ感動的に聴こえるし、改めていい曲だなって思いますね。

ASIAN KUNG-FU GENERATION 『エンパシー』Music Video

――「エンパシー」は歌詞もいいですよね。後藤さんの心象がよく出た曲なのかなと思います。

後藤:なんかエンパシーって言葉いいなと思って。今の時代、相手の立場も含めて想い合うことが大事というか。共感って重要視されてるんだけど、一方で共感できないことに対する嫌悪感みたいなのもみんな持ってて。でも、本当はそれって良くなくて、その先に理解がある。だから相手の立場に立って考えるという、シンパシーよりもエンパシーって何歩も進んだ言葉だなと思って、それについて歌いたいと思ったのがきっかけでしたね。

山田貴洋(撮影= 寺内暁)
山田貴洋

――山田さんはDisc2ではどうですか?

山田:どうしようかね。

後藤:どうしようかね(笑)?

山田:いや、全部ね、思い入れがあるからさ。

後藤:やめてよね、居酒屋でお通し選ぶみたいな感じ。

一同:(笑)。

後藤:鶏皮ポン酢もいいのにな、みたいな。そういうのないよ。

山田:(笑)。フェイバリットという観点じゃないかもしれないですけど、「未来の破片」に辿り着くというのが、今改めていいなって気がしました。

ASIAN KUNG-FU GENERATION 『未来の破片』

――確かにいいタイトルですね。

山田:実はこれが1stシングル曲に抜擢されるとは思ってなかったんですよ。カップリングになっている「エントランス」のような、明るさも備わってる曲になるんじゃないかなと思っていましたね。でも、やっぱりこれが1stシングル曲だったからこそというか、「遥か彼方」とはまた別のベクトルで今のアジカンに繋がってるところがあるのかなって思います。『君繋』の「フラッシュバック」、「未来の破片」という並びが、ASIAN KUNG-FU GENERATIONのメジャーデビューをインパクトづけたようなところもある気がしますし、そういう意味でも大事な曲ですね。それが最後に収録されているというのも、このシングルコレクションの意味のような気がします。

後藤正文が選ぶフェイバリットソング

――後藤さんはどうですか?

後藤:難しい質問ですね。特にDisc1は最近の曲が多いから、本当に全部好きなんですけど……そうだな、強いて挙げるならば「荒野を歩け」です。これはめちゃくちゃさらっと作ったけど、めちゃくちゃいい曲だなと。アメリカンパワーポップみたいなもの、そういうオルタナティブなロックからの影響をどう消化していくかという上で、フラットに自分たちらしさを見つけられたような感触がある曲ですね。もちろんド直球にWeezerからの影響とかはあるバンドだと思うんですけど、その系譜の中でも、ちゃんと自分たちらしさを見つけられてるし、いいメロディといい歌詞だなって思います。

ASIAN KUNG-FU GENERATION 『荒野を歩け』

――アジカンらしさって、具体的にどういうところにあると思いますか?

後藤:それって自分たちではなかなか言語化するのが難しいんですけど。案外ね、ギターサウンドはアジカンの音だ、とかわかったりするんですよ。以前ラジオを聴いてた時に、草野マサムネさんが椎名林檎さんの「正しい街」を歌い出したことがあって。それが「正しい街」だと気づかずにスピッツの曲だと思って聴いていたんですけど、そのギターがめっちゃアジカンじゃんと思ったんですよ。なんかもう、僭越ながらスピッツにも影響与えちゃったか、みたいな。

一同:(笑)。

後藤:偉そうにもね、一瞬そう思っちゃったんだけど、よくよく考えたらこれ建さんが呼ばれたやつじゃない? と思って。

喜多:theウラシマ’Sというバンドで演奏したんです。

後藤:林檎さんのトリビュート(トリビュートアルバム『アダムとイヴの林檎』)で、マサムネさんがボーカルで、ベースの亀田(誠治)さんに呼んでいただいて建さんがギターを弾いた曲なんです。でも、俺はそれを聴いた時、椎名さんの曲なのにアジカンっぽいギターだなって思ったんですよね……恐ろしい。

喜多:恐ろしいよね(笑)。

後藤:こういうことってあるんだなって。ちょっとショックでした、建さんだとわかっちゃったのが。だからギターサウンドのシグネチャーが、実は一番あるかもしれないと思います。

後藤正文(撮影= 寺内暁)
後藤正文

――喜多さんは自分のギターがアジカンを背負っているような気持ちはありますか?

喜多:それはないですね。なんかアジカンっぽいって言われると、おぉ……ってなっちゃうというか。

後藤:「喜多さんまたあのシャツで来てるよ」みたいな感じだよね(笑)。

喜多:褒めてもらっているというのはわかるんですけど。嬉しい部分と、恥ずかしい部分と、なんかそれに甘んじちゃいけないという気持ちがありますね。

――Disc2からはどうですか?

後藤:「迷子犬と雨のビート」が気に入ってます。これは当時長らく封印していた、“ノエル・ギャラガー握り”というのを解禁した曲です。3フレットの一弦と二弦を押さえたまま、ベース音だけ変えて弾くんです。だからadd9とかsus2が鳴り続けるようなコードを使っている曲なんですけど、それは俺だけじゃなくてね、世界中のヤツらが使ってて……誰だっけ? 潔が好きな「Shape of You」って曲を歌ってる――。

喜多:エド・シーラン?

後藤:そう。エド・シーランもね、ノエル・ギャラガー握りを結構使ってて。だけどそれを『ファンクラブ』(2006年)の時ぐらいから禁じ手にしたんですよ。自分の中でノエル・ギャラガーの影響が強すぎると思って。そういう時期を経て、『マジックディスク』(2010年)からはもうやってもいいだろうと。精神と時の部屋から出てきたみたいな感じで、その握りを復活させて作ったのが「迷子犬と雨のビート」で、これはOasisの雰囲気に似ちゃってもいいと思ったんです。自分の作曲のシグネチャーは獲得できてるはずだって信じて作って、歌詞もちゃんと書けたしホーンも入れて、当時すごく手応えがありました。

――昔からOasisが好きだとインタビューでおっしゃっていましたが、やっぱり影響の大きいバンドだったんですね。

後藤:そうですね。彼らを見て僕は音楽をやりたいと思ったぐらいというか、「Live Forever」を聴いて本当に震えたし、ああいう何も持ってなかった人たちが何者かになってくのにすごく感動した。自分もほとんど手ぶらで、文化資本とかに全く触れずに静岡の田舎からやってきて、それだけで同世代から差をつけられてるみたいな。そこで何ができるかなって悩んだりする中で、マンチェスターのチンピラみたいなヤツらがヨーロッパで一番のバンドになっていくストーリーにすごく勇気をもらったというか。燃え上がるものがありましたね。

――「遥か彼方」の話にもありましたが、初期の曲を聴き直すとハングリーな一面を感じます。

後藤:確かにそれはあるかもしれない。そういう欲がありましたね。ロックバンドたるもの勝たないといけない、みたいな。それはOasisを見ちゃったからというのもあるかもしれないですね。The Stone Rosesとか、Radioheadとかもそうだけど、突き抜けてなんぼというか、アンダーグラウンドヒットじゃなくて、ちゃんとど真ん中ですごいものを作った人たちに憧れちゃったという。

ASIAN KUNG-FU GENERATION(撮影= 寺内暁)

――今はどういうマインドでロックバンドをやっていますか。

後藤:なんかもうそういう時代でもない気がするというかね。今はもっと多様性の時代の気がするから、比べてどうこうというよりは、自分たちにとって豊かなものって何だろう? という。King Gnuとか藤井 風とかVaundyより売れてないからって、へこんだってしょうがないというか、もちろんあんなことできないし、でも彼らも僕らみたいなものは作れないわけで、そういう中で成功に対する考え方が年を取って変わってきました。残り時間も見えてきてるし、どうやったら自分たちが幸せだって思えるかということに重きがあるから。

――なるほど。

後藤:まあ、売れたいというスケベ心はありますけどね。でも、売れることが幸せとイコールではないってことは『ソルファ』の時に味わい尽くしたというか。納得したもので当時売れてたつもりだけどストレスを感じていたところもあって、それについての考え方はいまだに整理できていないけど、どうあれ自分たちがこれで幸せだって思えてないと、またああいうストレスが来た時に耐えられないはずだから。

――身の丈に合ったものを着る、みたいな発想ですか?

後藤:うん、そうそう。呼ばれて行って「ここ俺の居場所じゃないな」ってパーティは世の中にいっぱいあるから。そこに行くのが俺たちのやりたいことじゃないじゃん、みたいな。そうじゃなくて、俺たちは自分たちで素敵なパーティをオーガナイズすればいいんじゃない? って考え方に近い。DIYのアナキストというか、パンクがやってることの方に今は共感する。どうやって自分たちの場所を作っていくか、そして、そこで不幸せなヤツがいないように目を凝らせるかという、今はそういう方に豊かさを感じ始めているのかもしれないです。

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