ASIAN KUNG-FU GENERATIONを彩ってきた“衝動と成熟” 4人のフェイバリットソングから辿る20年史

アジカンの20年を彩ってきた衝動と成熟

伊地知潔が選ぶフェイバリットソング

――伊地知さんのフェイバリットはどの曲ですか?

伊地知:Disc1だと「触れたい 確かめたい」。レコーディングは初めてロンドンのRAK Studiosでやったんですけど、その前に『Wonder Future』(2015年)でFoo Fightersのスタジオ(Studio 606)でレコーディングをして、すごい衝撃を受けたんですよね。僕はそこのドラムセットを買ってしまったくらい感動したんですけど、その感動とはまた別の感動があるスタジオだったんです。RAK Studiosは築100年くらい経っているんじゃないかと思うくらいの木造の建物で。

後藤:いや、内装は木だけど、石だよね?

伊地知:石と木か。

――オーガニックなんですね。

伊地知:部屋ごと鳴るんですよ。だけど、派手じゃないんです。丸くなるから。こういう音作りが好きなんだな、だからああいう音が録れるんだなってすごく感動して、なんかこの歳になったからこそわかる音色だったんですよね。あと、そのロンドンRECはコロナ禍前に行ったんですけど、コロナ禍前に録ったものにゴッチが「触れたい 確かめたい」というタイトルをつけたのが予言じみていて、ちょっとぞわっとするというか。

ASIAN KUNG-FU GENERATION 『触れたい 確かめたい(feat.塩塚モエカ)』Lyric Video

――その後、触れちゃいけない時代になったと(リリースは2020年10月)。

伊地知:はい。まさにその時代、その時期を予言したような不思議な曲ですし、この曲は羊文学の(塩塚)モエカさんがフィーチャリングで参加したデュエットソングなので、ぜひ聴いてもらいたいです。

――「感動した」とおっしゃいましたが、海外のレコーディングのどこに一番違いを感じましたか。

伊地知:楽器の状態が全然違うんです。LAではシャッターを開けたら楽器があるみたいなところにドラムセットがバンと置いてあったんですけど、乾いてて、ジメジメしてないんですよね。楽器なので乾燥してた方がいいんです。乾燥している状態のまま育っていってビンテージになるというか、いい楽器というのはワインと一緒で“育つ”んですよね。

後藤:乾いてると音が速いですね。パーン! って行くみたいな。でも、僕が一番違うと感じたのは文化かな。LAに行った時は、マジでドラムやギターを録る時の楽器チームやエンジニアの盛り上がり方が違っていて。ベースの時なんて本当にみんな漫画読んでたり、いなくなっちゃったりしましたから。

喜多:悲しい話だけどね(笑)。

後藤:最初、ベースアンプがどこにあるかもわかんなかったよね。

山田:スピーカーどこで鳴ってんだ? って。

後藤:そうそう、マシンルームのね、倉庫の奥のうるさい(冷却)ファンを置いとくような部屋に置いてあったよね。嘘でしょ? って。そりゃルートしか弾かないよって思ったもん。

伊地知潔(撮影= 寺内暁)
伊地知潔

――でも、ギターとドラムは気合いが入るってことですか?

後藤:だって、その後ギターの番になったらみんな戻ってきて、最高! みたいな。4キロ(ヘルツ)上げろ! ウオー! みたいな。もうEQ(イコライゼーション)の数値で話し始めちゃって。全然違うじゃんみたいな。

――そういうものなんですね(笑)。

後藤:すごかったですよ。ドラムの音もラージスピーカーで聴くから、うるさくねえのかなと思ってたら、コンソールのところに山盛りで耳栓が転がってたもんね。やっぱうるせえんだと思って(笑)。で、イギリスもベースは結構ぞんざいな扱いだったよね。なんか変な木の吸音材で囲ってました。

――全体として豪快な印象ですね。細かいところを気にするより、勢いがあるというか。

後藤:そうそう。なんかそういうのを大事にしてるのかもしれないですね。それが音楽に対する考え方なんじゃないかなって思いました。日本人はディティールにフォーカスしすぎる感じがあって、スタジオの働き方としてそういう文化になっちゃってるというか。普段の暮らし方とか、メンタリティも関係してると思うんですけど、海外に行くとそういうものから解放されるからすごく大らかになれますね。

――最後に伊地知さんのDisc2のフェイバリットは何ですか?

伊地知:「君という花」ですね。僕は後から加入しているんですけど、アジカンにいる理由って、ちょっとしたアクセントを楽曲に加えることだったので、ドラムパターンは当時から結構任せてくれてたんです。この曲はたまたま4つ打ちの裏ハットというダンスビートを思いついたんですけど、ギターロックで裏打ちのハット、ディスコビートみたいなのを叩くって当時はあまりなかったみたいで。それも気づかずレコーディングまで行くんですけど、リリースしてから発明だったといろんな人に言っていただいて。その後KANA-BOONとかチャットモンチーも似たような感じのビートをやってましたけど、たぶん日本人はこういうのが大好きなんだな、というのを後で知った曲でしたね。

ASIAN KUNG-FU GENERATION 『君という花』

――ツボを見つけちゃったんですね。

伊地知:でも、その後はあまり使わずにいくというのがアジカンっぽいんですけどね。1回やったことはもうあんまりやりたくないっていう。

後藤:「ブルートレイン」とか、キックが四分で入ってる曲ありますけど、アプローチをガラッと変えたもんね。流行ったらやるのが嫌になっちゃうという。

――今はどうですか? こういうビートをまた作りたいと思います?

後藤:潔は、やってもいいんじゃない? って最近言ってました。

伊地知:また別のアプローチで、ダンスビートをやるのもいいなって思います。

ASIAN KUNG-FU GENERATION(撮影= 寺内暁)

「惨たらしい風景や小さい悩みに抗いたい気持ち」

――シングルコレクションがリリースされた後、どんな曲を作っていきたいですか。

後藤:どうだろうな……でも、本当にクソだなって思うことが多いから。社会情勢というか、それは海の向こうも含めてね。

――惨たらしい時代だと思います。

後藤:惨たらしい風景も目に入ってくるし、生活の中でもみんな小さい悩みをいっぱい抱えているじゃないですか。税金高いとか、そういうのも含めてね。なんか少しでもそういう空気に抗いたい気持ちがあるというか、音楽って自分の生きる希望でもあるし、そういうバイブスを持ったものを作りたいです。こんなにクソだけど、その中でも生きるに値するような魅力をみんなが自分の生に見出せるような、生きてるってことを感じられるような表現にしたい。そういうエネルギーについて考えているのかもしれないです。だから楽曲の内容はどうあれ、みんなにポジティブなバイブスを与えられるような表現を4人で作りたい気持ちが今はありますね。

――頼もしいですね、アジカンがそう言ってくれると。

後藤:なんかもう今更ね、「僕はクソだ」みたいな歌とかは歌えない。やっぱり大人は大人の歌を作らなきゃ、みたいな気持ちにはなってきてますね。そうやって抗ってみせなかったら、表現って何なんだみたいな気持ちがある。表現ってある種、そういう世の中のクソなところに対する反逆だし、告発だし、そういう性質があると信じているから。ただ、抗いはするけど、それはネガティブな空気に対してであって、基本的にはみんなに“Be Alright”みたいなことを言いたいから、そういう表現でありたいですね。

ASIAN KUNG-FU GENERATION『Single Collection』ジャケット
『Single Collection』

■リリース情報
『Single Collection』
2024年7月31日(水)発売
購入:https://kmu.lnk.to/amrLDc

【CD】
初回生産限定盤[2CD+付属品]:6,300円(税込)
通常盤[2CD]:3,850円(税込)

<収録曲> ※初回・通常ともにCD共通
Disc1 (CD)
01. 遥か彼方 (2024 ver.)
02. 宿縁
03. 出町柳パラレルユニバース
04. エンパシー
05. 触れたい 確かめたい
06. ダイアローグ
07. 解放区
08. Dororo
09. ボーイズ&ガールズ
10. 荒野を歩け
11. ブラッドサーキュレーター
12. Re:Re:
13. Right Now
14. Easter / 復活祭
15. 今を生きて
16. それでは、また明日
17. 踵で愛を打ち鳴らせ

Disc2 (CD)
01. マーチングバンド
02. 迷子犬と雨のビート
03. ソラニン
04. 新世紀のラブソング
05. 藤沢ルーザー
06. 転がる岩、君に朝が降る
07. アフターダーク
08. 或る街の群青
09. ワールドアパート
10. ブルートレイン
11. 君の街まで
12. リライト
13. ループ&ループ
14. サイレン
15. 君という花
16. 未来の破片

<初回生産限定盤>
・豪華スペシャルパッケージ仕様
・全シングルジャケットカード(31枚) 付属
・ASIAN KUNG-FU GENERATION×中村佑介 スペシャル対談ブックレット 付属

『Anniversary Special Live “ファン感謝祭2024”』特設サイト

ASIAN KUNG-FU GENERATION オフィシャルホームページ

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