S.A.R. メジャー1st EP『202』を経て見据えるビジョン santaとEnoが語る、音楽家としての野心

S.A.R.『202』を経て見据えるビジョン

 santa(Vo)、Attie(Gt)、Imu Sam(Gt/MC)、Eno(Ba)、may_chang(Dr)、Taro(Key)の6名で構成されるバンド、S.A.R.。ヒップホップやソウル、ファンクといったジャンルから色濃い影響を受けつつも、そのサウンドは誰とも似ていない完全なオリジナルスタイル。そんな彼らが、5曲入りのEP『202』を発表した。細部まで趣向が凝らされた太く分厚いサウンドをうねるように彩るsantaのボーカルとImu Samのラップ。バンドの成長を伝えると同時に、強烈な“ナマ感”を漂わせる仕上がりだ。今回は、メンバーの中からsantaとEnoに話を聞いた。(渡辺志保)※Attieは体調不良により取材不参加。

メジャー1st EP『202』完成 “奥行き”の背景にあるもの

S.A.R.インタビュー写真(撮影=加古伸弥)
santa
S.A.R.インタビュー写真(撮影=加古伸弥)
Eno

ーー前回は1stアルバム『Verse of the Kool』のタイミングでインタビューさせてもらったんですけど、そこから1年くらいしか経っていないんですよね。皆さんの活動を見ていると、ワンマンライブのスケールも大きくなっているし、急成長している感じがあります。この1年、どんなふうに過ごしてきましたか?

santa:環境は結構変わったんですけど、スタンス自体はあんまり変わってなくて。今回のEP『202』の制作も、最初は「EP作ろう!」っていう感じでもなく、自然と曲ができていったんですよね。

Eno:基本は変わらず、仲良く音楽やっていきたいなっていう感じのまま制作していきました。

ーーフェスやイベントの現場などで、他のアーティストと接触する機会も増えたんじゃないですか?

santa:確かに他のアーティストと絡む機会も増えたけど、自分は結構人見知りで(笑)。打ち上げとかもお酒を2杯くらい飲んで帰っちゃうタイプなんです。メンバーのマスミくん(Imu Sam)はそういう、他のアーティストたちとの付き合いをすごく上手くやってるんですけど、他のメンバーは割と不適合者っていうか……。

Eno:でも、いろいろな現場でライブをやったり、他のアーティストのライブを観たりする経験が、音楽の“深み”にも繋がってる気がします。

S.A.R.インタビュー写真(撮影=加古伸弥)
S.A.R.インタビュー写真(撮影=加古伸弥)
S.A.R.インタビュー写真(撮影=加古伸弥)
Imu Sam
may_chang
Taro
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Imu Sam
may_chang
Taro
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ーーこれまでは英語詞のみでしたけど、『202』にはsantaさんの歌詞に日本語が使われている箇所もある。特に「juice」はフロウも秀逸だし、S.A.R.の音楽に日本語が入ってくる、ということも大きな変化だなと感じました。

santa:ちょっと大衆を意識した部分はあるかもしれません(笑)。というのは冗談で、自然に出てきた言葉をそのまま使ってる感じです。もともと、前回のアルバムを作っていた時も「英語でしか歌っちゃいけない」ってことを自分に課していたわけじゃなくて、あくまで自然と出てきた言葉を使おう、というスタンスだったんです。今回はスケジュールの関係もあったり、(リリックを)書かずにレコーディングしてみようという試みもあったり、いろんな方法を試した上で、自然に出てきた言葉でそのままやってみた、という感じです。

ーーsantaさんの歌い方とか抑揚のつけ方、感情の込め方もこの1年でさらにステップアップしたのでは? とも感じました。「Side by Side」のコーラス部分も、ネオソウル系のアーティストかなと思うくらい、ソウルフルに歌っているなと思ったし。

santa:そうだといいんですけど。これからも頑張りたいです。

ーー「Back to Wild」で〈My raw soul, 要らないモノ VVS/Who wants to be a mannequin 愚かヒューマンレース〉と歌っているところも潔いというか。というのも、普段、若いラッパーの方に話を聞いていると、みんな“VVS(最高品質のダイヤモンド)が欲しい”とか”VVSを手に入れた”ということに終始しがちだから。そことは違うsantaさんのリリックが印象的でした。この曲は鍵盤のフレーズもクールだし、個人的には一番好きなビート感でした。

Eno:この曲は、ヒップホップのサンプリングカルチャーをかなり濃縮したというか「最高にヒップホップだろ」と思いながら作った曲なんです。そこに、ポップスらしさや時代感なんかを色々足していて、タイトルのコンセプトも含め、多層的な構造で作っていきました。

S.A.R. - juice【Official Music Video】
S.A.R. - Side by Side【Official Music Video】
S.A.R. - Back to Wild【Official Music Video】

ーー個人的には、そこに“奥行き”を感じました。前作『Verse of the Kool』のフレッシュさから、今作ではちょっと大人びた空気もあって。

Eno:ありがとうございます。

santa:もうちょっと、深みを出したいんですけど。

Eno:1stアルバムの時は、“音楽を作る”ってことだけが目標だったんです。でもやっぱり、音楽を作るという行為に対して、そこよりも多くのことを考える必要がある、ということに気がついて。それこそ、コンセプトをしっかり設計することの方がよっぽど重要だというふうに思った、というか。だから、今回、制作面ではかなり実験を重ねましたし、曲の構造はそんなに変わってないんですけど、コンセプトやメッセージの重さは増したかもしれないです。

santa:この作品を経て、自分の音楽との向き合い方とか、個人のアプローチやスタンスを考え直さないとなって、色々と思うことがあったんです。より、音楽のことが好きになったと感じますね。

“家”でしかできない空気感が反映された『202』

S.A.R.インタビュー写真(撮影=加古伸弥)

ーー『202』というタイトルも気になってたんですけど、これは……?

santa:僕らが宅録をやっている場所ーーうちのドラマー、may_changの部屋番号が“202号室”なんです。宅録で制作したから、それを象徴する番号にしました。

Eno:今回、曲作りはほぼ宅録なんですよ。1曲だけShing02さんとはスタジオで録ったんですが、それ以外は全部、家でやりました。トラックを作って、みんなで“せーの”でジャムセッションをして、それを曲にまとめていく、みたいな手法で作っていったんです。

ーーアレンジは全て、Enoさんが手掛けている。あらかじめ、「こんな音に仕上げたい」という明確な完成図やレファレンスのようなものがあった?

Eno:言葉で説明するのは難しいんですけど、音楽そのものはそんなにこだわっていないんです。一つずつ「ここはどうしよう?」と思いながらアレンジをするわけではなくて、それぞれの音が邪魔をせず、“意味”に向かっていればいい、という感覚です。その“意味”に向かって、音を合わせていって、仕上げていく。伝えたいことに対して、ノイズがないように、音が邪魔しないようにしていくというか。

santa:僕たちメンバーは好きにやって、それをEnoが最終的にアレンジしてくれるんですよ。

Eno:「好きにやって」と言いつつ、削ったりもして、無責任な感じだよね(笑)。前回までは、レーベルが用意してくれた日本でもトップレベル級のいいスタジオを使わせてもらったんですけど、そこに違和感を覚えていたんです。「そういうことじゃねえ」みたいな。その時点で、「次は宅録にしよう」と思っていたんです。自分の好きな音楽も結構そういう感じでレコーディングしていたし。スタジオにはスタジオの制約があるんですよね。誰もがいいと思う機材が揃っているわけなんですけど、逆にそういう部分に制限を感じていたというか。結局、自分のパソコンで好きなようにやっていく方がいいのかな、という感じもあります。

S.A.R.インタビュー写真(撮影=加古伸弥)

S.A.R.インタビュー写真(撮影=加古伸弥)

santa:やっぱり家でしかできない空気感も、作品に直接反映されている印象がありますね。家でジャムで合わせて超いいヴァイブスになっている曲も、スタジオで録り直すと「あんまり……」となることもあったんです。僕たちは元々は宅録でスタートしているので、スタジオでの作業を重ねていく中でも「そっち(宅録)の方がいいんじゃね?」と思うこともあったし。

Eno:とはいえ、どっちも良し悪しだなって今回のEPで思ったんですよ。だから、次からはもっとハイブリッドになっていくと思います。

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