ASIAN KUNG-FU GENERATION、「宿縁」で上げる新たな未来への狼煙 『サーフ ブンガク カマクラ』続編の意義も

アジカン、新たな未来への狼煙

 2002年に「遥か彼方」が『NARUTO -ナルト-』のオープニングテーマに起用されて以来、たびたびコラボレーションを重ねてきたASIAN KUNG-FU GENERATIONと『NARUTO』シリーズ。その歴史は20年を迎え、『NARUTO』の物語はうずまきナルトの息子・ボルトが主人公の『BORUTO-ボルト- NARUTO NEXT GENERATIONS』に引き継がれたが、アジカンとの関係性は終わらないようだ。

 アジカンの2023年第一弾となるシングル表題曲「宿縁」は同作アニメの2023年1月クールのオープニングテーマとして書き下ろされた、ストレートで力強い、同バンドの新たなスタンダードだ。近年は音楽的にどんどん深化をしてきている彼らだが、『BORUTO』というきっかけを得てもう一度アジカンのど真ん中に切り込んでいくような「宿縁」は、ここからアジカンの新たな未来が始まっていく狼煙なのかもしれない。

 そういう意味ではカップリングも印象的だ。シングル3曲目に収録された「日坂ダウンヒル」はかねてから後藤正文(Vo/Gt)が制作を公言していた『サーフ ブンガク カマクラ』の続編となる1曲。同作収録曲同様シンプルなパワーポップで、こちらもまたバンドとして再びフレッシュネスを取り戻そうとしているアジカンの姿を感じさせる楽曲になっている。そう、今のアジカンはフレッシュなのだ。『サーフ ブンガク カマクラ』がそうであったように、今年、新たなターニングポイントを迎えるのかもしれない4人へのインタビューをお届けする。(小川智宏)

「宿縁」に入れ込んだFoo Fighters感

――新曲「宿縁」はアニメ『BORUTO-ボルト- NARUTO NEXT GENERATIONS』のオープニングテーマということで、アジカンと『NARUTO』シリーズとは「遥か彼方」以来20年にわたる関わりということになりますね。

後藤正文(以下、後藤):そうですね。いいのかな、俺らでと思いますけどね(笑)。若い人が観ていて……でもアニメはもはや全世代的な話か。

ASIAN KUNG-FU GENERATION(後藤正文)
後藤正文

――それこそ最初に『NARUTO』を観ていた世代は20歳年を取っているということですからね。

後藤:だから、こうして縁をいただけるのはありがたいなともちろん思いますけど、複雑な気持ちもあったりしますよね。自分たちもキャリアを積み重ねてきているから、どういう顔をしてやるかっていうのは、難しいところがありますよね。まあ、どう思われているかとは別に一生懸命演奏するだけですけど。『NARUTO』のおかげで世界中、いろいろな国に僕らを知ってもらうきっかけも与えてもらったし、ありがたいと思います。

――この「宿縁」はどういうイメージで作っていったんですか?

後藤:わりとこういう仕事ってはっきりオーダーがあるので、それを踏まえた上で今の自分たちのモードやカラーをどう入れていくかをみんなとは一番よく話し合いますね。オーダーとしては「疾走してください」みたいなことなんですよ。もっと端的にいうと「『リライト』みたいな曲を作ってほしい」なんです、我々に来る仕事の8割は(笑)。

喜多建介(以下、喜多):そんな言われ方はしないですけどね(笑)。

後藤:でも俺たちにオファーが来るときは企画会議のホワイトボードには一旦「リライト」って書かれているんですよ、きっと。

ASIAN KUNG-FU GENERATION
喜多建介

――(笑)。「リライト」がそれぐらいアジカンの名刺、金字塔っていうことですよね。

後藤:だからそういうところから、どうやって作品の意図をも組み込んで、それを広めたい人たちの気持ちも汲みつつ、自分たちらしさを出すか。なかなか難しい仕事といったらあれですけど、フリーハンドで作っていいですよっていうときとはまた違う集中力を求められる印象なんです。

――それこそ「リライト」にみんなが感じる“アジカンらしさ”と、今のアジカンが表現している“アジカンらしさ”のギャップみたいなものを感じることもあるんですか?

後藤:そんなにはないですよ。「リライト」も今楽しく演奏してますから。でも「リライト」は「リライト」としてもうあるよね、と思ってはいます。“「リライト」っぽい曲”をバンドとしてはそんなに必要としていないので。なぜならば“「リライト」っぽい曲”を聴きたい人たちの前では「リライト」を演奏したほうが早いから。それで事足りるというか、僕たちも昔の曲をやりたくないとかは一切ないので全然やるし。バンドとしては自分たちの表現の歩みを進めることと、求められた役割を担うっていう、その両輪を果たしてこそだなって思うので。だからギャップがあるというよりは、今自分たちが楽しくやれる疾走感って何だろうみたいな話をして作っていきますね。

――なるほど。今回の「宿縁」という曲は、確かにある種の懐かしさみたいなものも感じますけど、同時にちゃんとアップデートされてる部分もあって、新しいスタンダードがまた出てきたなっていう印象があったんですよね。

後藤:今後ライブでやりたくないような曲は作りたくないですからね。せっかく『BORUTO』でみんなに聴いてもらう機会があるわけだし、ライブでやりたくなるような曲にしようよって話をしたのは覚えてます。海外ツアーに行けば「遥か彼方」に続いてで演奏してほしいと思う人が増えるでしょうし。セットリストをイメージして、ギターのカポタストの位置とかも考えて。そういうのは新しかったかもしれない。

喜多:最初にゴッチのデモがあって、そのあとみんなでプリプロしたときはもうちょっと渋い曲の印象だったんです。そのデモをもとにしつつ、でもゴッチがやっぱりこれじゃいかん、もうちょっとシングル然とさせたほうがいいと思ったタイミングがあったんだと思います。それでゴッチがデモを切り貼りして、『BORUTO』っぽいというか、納得できるシングル曲になったという感じでしたね。

――それはアルバム『プラネットフォークス』からの流れもあったんですか。

後藤:そうですね。、やっぱり気を張らないと渋くなってくるのは必然というか、楽しみを別のところに見つけちゃっていたりするので。でもさすがに『BORUTO』のオープニングテーマをお任せくださいって言っといて、こんな渋いアレンジなくない? みたいな。「テレビでみんなポカンとするわ」って(笑)。

喜多:でも俺からすると渋くしたのもゴッチだし、それじゃいかんって言ったのもゴッチなんですよ(笑)。

後藤:マッチポンプですよね。求められているアジカンと実際のアジカンにギャップはないけど、僕の個人的な趣味とバンドとしてやりたい音楽の距離がないわけじゃないので。なんなら僕はラジオのノイズとか2、30分平気で聴けるような感じなんです。もはや作る音楽がポップミュージックでなくてもいいと思い始めてるくらい。でもそういう趣味を全開にしていくと噛み合わせが悪くなるから、ちゃんとアジカンの中での自分っていうのを捉え直す仕事は必要だと思っているんです。最近はそうやって自分でブレーキが踏めるようになってよかったなと思いますね。今までキヨシ(伊地知潔)が言ってくれる以外には止める術がなかったから。

――その、ブレーキなのかアクセルなのかはわからないですけど、そういうスイッチをこの曲ではガツッと入れている感じがしますよね。

後藤:ありがとうございます。デイヴ・グロールのことを思い出すようにしているんです。

喜多:ギアを上げるときね。

後藤:うん、あの人が担っていることとかを思うと……でもすごく楽しそうに、朗らかにやるじゃないですか。一切邪念がない感じがするっていうか。ああいう佇まいを思い出すと、自分の偏屈さを自分の中から追い出せる。もっと朗らかに、ストレートにロックンロールをやらなきゃダメだなって思えるというか。そういう意味ではロールモデルの1人ですね。

山田貴洋(以下、山田):確かにこの「宿縁」はデイヴ風味があるんですよね。そこが結構グッとくるポイントでもあったりして。でも、ずっとキャリアを経てきて、こういう曲がまだ作れるっていう感慨深さはありますね。

後藤:「デイヴ風味」ってあの空ピッキングしてるとこだけでしょ(笑)。でも確かにあそこはFoo Fighters感あるよね。

山田:だから、そこを意識して入れ込むバンドの空気感が愛おしいというか。

喜多:あれはセッションで決まったもんね。最初はちゃんとしたBメロがあったんですけど、ゴッチが「こっちのほうがいいんじゃない?」って言ってやった記憶がある。

山田:そうやってニヤニヤしながら作ってる感じが、やっていていいなって思いますね。アメリカンロックにしなきゃっていう。

伊地知潔(以下、伊地知):そうやってデイヴ風味が出てくると、僕も(Foo Fightersのドラマーの)テイラー・ホーキンス風味を足したくなるんです。

後藤:でも去年その感じはあったよね。テイラーが亡くなってしまったのもあって(2022年3月に急逝)。

伊地知:そういうのもちょっと入れつつやってましたね。もともと僕は、さっきゴッチがストッパーだって言ってくれましたけど、曲に関してはあまり暗くならずに、突き抜けるポップ感みたいな方向に持っていきたがって、逆にメンバーに止められるみたいなことが多かったんです。でも今回は逆に僕も「いや、これはもうちょっと渋いほうがいいよ」みたいな感じになっちゃって。そうしたらゴッチが方向性を変えてくれたっていう、おもしろい感じで進みましたね。

後藤:確かに逆だったね、役割が。キヨシは自分のポップさを料理にぶち込みすぎちゃっているのかもしれない。

喜多:それでもう残っていないんだ(笑)。

後藤:だって、キヨシがポップじゃない料理を作ってるの見たことないですもん。ライブハウスで煮物とか出してほしいけど、全然。豚のすき焼きを15分で作れるとか、それポップじゃん。4時間煮込め! って思うけど、それって渋いじゃないですか。今はたぶん、音楽では4時間煮込もうとしてくるんですよ。

伊地知:うまいこと言ってるけど、比べるところじゃない(笑)。

後藤:話を戻すと、このタイミングはやるならがっつり突き抜けないとっていう気持ちがあったんです。『サマソニ(SUMMER SONIC)』の後かな、作ったデモを聴きながら、楽しいけど自分たちの楽しさに走っている感じがしたんです。もうちょっと気張って、野心あるアレンジにしたほうがいいんじゃないかと思ったんですよね。じゃなかったなら、『BORUTO』の主題歌をなんで引き受けたんだよ? って。だからライブハウスで4時間煮込まないでしょ? っていうことなんですよ。それがいいか悪いかは別として、みんなが幸せになれる作り方は、どうやって突き抜けるようなアレンジにしていくかってことなんだろうなって、今回については思えた。成長したのかもしれないですね。

ボルトとカワキが最後に着地するところを想像しながら書いた歌詞

ASIAN KUNG-FU GENERATION

――ギターも「遥か彼方」をちょっと想起させるようなリフ感があるなと思ったんですけど。

喜多:結構今回は差し引きがくっきり出たミックスだなと思って。ずっと鳴っているというより、ちょっと引いて、また出てきてみたいな感じは自分のテーマでもあったので、今後のミックスにおけるギターの参考にもなるかなと思いましたね。音はもういい感じで録ってくれるので、何を使ったかは忘れましたけど、レコーディングはすぐ終わったような気がします。

――歌詞もすばらしくて、『BORUTO』の物語も重なっていると思いますし、それ以上に世の中に向けた思いやメッセージみたいなものも感じられますね。

後藤:『BORUTO』を読むと、まず時系列が結構ややこしいんですよ。過去に遡って始まるので、過去と現在が入り組んでいて。そういう作品だから未来と過去についての歌詞にしようと思ったんです。まだ完結していないですけど、ボルトとカワキ、2人の最後に着地するところが素敵な場所だといいなと想像しながら書きましたね。

――過去と未来があって、その真ん中に現在があってという風景が、今アジカンが立っている場所とも通じるものがあるなと。いろいろなことをやってきて今があって、ここからまた未来が始まっていく、しかもそこに向けてすごく期待している感じというか。

後藤:でも、うんざりはしてますけどね。考えざるを得ないっていうか、うんざりすることだらけだな、マクロ的にはいいこと1個もねえなって。でも翻って私たちの日々の暮らしの中には、喜ばしいことっていくつも見つけられる。そっちからやっていくしかないだろっていう気持ちはあります。それはものすごく狭い世界に閉じていこうという話ではなくて。画面をひらけば言葉が溢れているし、世界が広がったように錯覚しちゃうけど、肌身で感じられることってめちゃくちゃ限定されてるよねって思うんです。助けられる人の数なんて知れてるでしょ、って。だからそういう場所を取り戻していかないと非常にまずい。メタバース的な――メタバースって最近口にするだけでもダサいって思っちゃうけど、そういう取り込まれ方じゃなくて、実際に自分たちが生きているこの世界についての感覚を失わないように生きていかないとまずいなっていう気持ちなんです。だからうんざりするんですけど。とはいえ抱きしめたい仲間とか家族はいるじゃないっていう、そういう思いも投影されてると思います。

――まさに〈うんざりの/その先は〉と歌っているわけですけど、最近の後藤さんの歌詞には、世界に対して不満や不信感はあるけど、それを乗り越えて肯定していくような強さがある感じがします。

後藤:強くなっているのか弱くなっているのかわからないですけどね。でも他ならぬ自分たちの人生って、他人からどうこう言われることとは関係ないっていうか。大事なことって身の回りにしかないと言えばないんですよね。もちろんその先に社会を見た方がいいんですけど。だから、必要に迫られて強く生きようって思わないと、真っ先に何か飲み込まれそうな危機感もあるのかもしれない。

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