[Alexandros]、ロックバンドとしての本能を解放させた『NEW MEANING』ツアーファイナル

[Alexandros]、『NEW MEANING』ツアーレポ

 また、アルバムやシングルを“引っさげない”ツアーだからこその過去曲/レア曲の登場、および最近の曲との接続、今のバンドサウンドによるアップデートもこのツアーの見どころだった。「?」からの「My Blueberry Morning」という2ndアルバム『I Wanna Go To Hawaii.』冒頭を踏襲した展開でフロアをどよめかせたと思いきや、そこから最新アルバム『But wait. Cats?』収録の「Baby's Alright」へ繋げることで、バンドの歩みがたしかに地続きであることを語らずとも証明。また、レイヴ的なアレンジを施し、大胆に姿を変えた4thアルバム『Me No Do Karate.』収録曲「Stimulator」から、最近の[Alexandros]のライブの盛り上がりに大きく貢献している曲「we are still kids & stray cats」へと繋げる展開も、2023年現在だからこそ実現したものだろう。

『[Alexandros]"NEW MEANING TOUR 2023"』(撮影=河本悠貴)

 それにしても、「Supercalifragilisticexpialidocious」(2010年リリースのトリビュートアルバム『Disney Rocks!!』に収録。ライブでなかなか演奏されないこの曲が各地で演奏されたというのも今ツアーと『NO MEANING』の共通点だ)から、Underworld「Born Slippy」に接続するなんて大胆な所業をやるバンドは、ほかにそういないのではないだろうか。「Forever Young」で川上がユニオンジャック柄のギターを弾き、「来日してたけど、彼(ノエル・ギャラガー)のライブには行けなかった」とOasis「Wonderwall」を弾き語りしてから「de Mexico」に入るなど、バンドの根にあるUKロックへの憧憬を滲ませつつ、「Plus Altra」アウトロ中にThe Smashing Pumpkins「Today」を歌う、「MILK」とAC/DC「Back In Black」をマッシュアップさせるなど、UKロックに限らず、自分たちの好きな音楽、今の気分に合う音楽をただただ鳴らす姿は、純粋なミュージックラバーそのものだ。

『[Alexandros]"NEW MEANING TOUR 2023"』(撮影=河本悠貴)

 最後に、ライブ終盤、多くの人の胸を打ったであろうふたつの場面に言及して本稿を締め括りたい。まずは、アンコール5曲目。「爽やかな曲です」という川上の前置きに「来た!」と思った人も多かったであろう「Don't Fuck With Yoohei Kawakami」。ライブで恒例の長尺のギターソロタイムでは、白井がグレッチに持ち替え、THEE MICHELLE GUN ELEPHANT「世界の終わり」をはじめとした数曲のフレーズを奏で、チバユウスケに捧げた。その前後に白井の口から何かが語られることはなかったが、泣き叫ぶようなギターの音そのものが白井の心と直結していたため、言葉などそもそも必要がなかった。言葉ではなく、音楽で語るのが[Alexandros]のやり方だ。

 そして本編最後から2曲目の「Plus Altra」。今年最後のワンマンだったこの日のライブについて「今年いちばん楽しかったです」と語ったMCのあとに披露されたが、そのMCが「このバンドでよかった」という言葉で締め括られたため、思いがけず感動的な空気が生まれた。というのも、「Plus Altra」はバンドの改名前最後に演奏された曲だからだ。雄大なサウンドによるロックバラードが、常に匿名でありたい、括弧内が何であれ別に構わないと謳うこのバンドの在り方を象徴する曲として響く。おそらく「このバンドでよかった」発言はふとこぼれたものであり、そこに重大な意味を込めようという意図はなかったと思うが。

『[Alexandros]"NEW MEANING TOUR 2023"』(撮影=河本悠貴)

 思い返せば、ツアーのタイトルは『NEW MEANING』。たとえば「今回のライブにはどんな意味を込めたんですか?」と聞いたとしても「意味とかないですよ、気分とか感覚です」と答えるのが彼らのスタンスであり、アンコールに応えながら「ラスト2、3曲? わからないけど、いきますか!」と豪快に笑う姿を見るに、それは真実だ。それでも我々観客が今目の前で行われているライブに繋がりや文脈を見出すこと、観た人の数だけ“NEW MEANING”が生まれることこそがロックバンドのロマンなのだろう。ドラマは作るのではなく、生まれるもの。本編終了後、アンコールを求める観客が自然と「Adventure」を歌い始めていたのも素敵な場面だった。ライブでの観客の声出しがOKになった2022年末のライブでバンドが急遽セットリストに追加した曲を、今度は観客のほうから歌って届ける。示し合わせないことの美しさをしみじみと感じた。

※1:https://www.billboard-japan.com/special/detail/3974

■セットリスト
01. KABUTO
02. Forever Young
03. ?
04. My Blueberry Morning
05. Baby's Alright
06. 無心拍数
07. Kill Me If You Can
08. Kick&Spin
09. Supercalifragilisticexpialidocious
10. Stimulator
11. we are still kids & stray cats
12. spy
13. de Mexico
14. Waitress, Waitress!
15. 閃光
16. city
17. Kids
18. Plus Altra
19. Dracula La

Encore〜MILK SE
01. MILK
02. Starrrrrrr
03. 空と青
04. ワタリドリ
05. Don't Fuck With Yoohei Kawakami

[Alexandros]の歴史が浮き彫りになった10周年記念ライブ 記憶に刻まれた庄村聡泰ラストのステージ

のデビュー10周年記念ライブ『 10th ANNIVERSARY LIVE at 国立代々木競技場 第一体育館 “Where's…

電気グルーヴ、[Alexandros]、奥田民生……福島に根付く2年目の大型フェス『LIVE AZUMA 2023』を観て

福島県福島市・あづま総合運動公園で開催された音楽フェス『LIVE AZUMA 2023』。様々なアーティストが熱演を繰り広げた現…

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「ライブ評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる