イラストレーター のう、ボカロPが楽曲を書き下ろす『レゾンデートル』への手応え ボカロ文化らしい制作のキャッチボールも

のう『レゾンデートル』への手応え

ボカロPとの制作面でのキャッチボールの面白さ

――では、1曲ずつ制作時のお話をきかせてください。1曲目の「リリィアラート」はユニコーンをイメージし、楽曲は雄之助さんが担当されています。

リリィアラート feat.初音ミク【雄之助×のう】

のう:雄之助さんとは以前制作をご一緒したこともありますし、私自身もEDM調の曲がすごく好きなので、「最近はそういう楽曲とご一緒していないな」と思ってお声がけしました。

――ユニコーンはユニコーンでも、科学者によって生まれたユニコーンで、感情が覚醒してラボを抜け出すという、とてもユニークな生い立ちのキャラクターになっていますね。

のう:キャラクターにとって成り立ちは重要だと思っているので、表面には表れてこない部分も含めて、まずはもととなるストーリーを固めていきました。たとえば、すごく寡黙なキャラクターは、大口を開けて笑わないですよね。そんなふうに、それぞれの性格を決めて、この子はこういう表情をするだろうな、とまとめていく作業をとても大切にしているんです。ユニコーンの場合は、人工的につくられていて、感情がなくて、でも綺麗で……。そういう存在を表現したいなと思っていました。

――「綺麗なものは凶暴でもある」という雰囲気も印象的でした。

のう:そうですね。ただ「綺麗」「かわいい」というだけではなくて、影があるからこそ光があるように、暗い面もつくっていったという感覚です。

――雄之助さんから上がってきた楽曲はいかがでしたか?

のう:もともと雄之助さんの音楽のファンでもあるので、雄之助さんらしさをしっかりと乗せてくれたことが嬉しかったです。白くて清潔なイメージで、科学者につくられたというキャラクターの生い立ち通り淡々と進行していくようなダンスミュージックになっていて、初めて聴いたときから「このキャラクターのための曲にしてくださっているな」と思いました。これまでは自分が楽曲を聴いて、それをイラストとして出力してきたので、それを逆の順番で実現させていただけたことに「ボカロPさんってこういう気持ちなのかな」とすごく感動しましたし、制作面でのキャッチボールがすごく面白かったです。ボカロ文化らしい、お互いがお互いの世界をつくって盛り上げていくような魅力に通じるものを感じて熱くなりました。

――のうさんが曲を聴いてからさらにリクエストした部分はあったんでしょうか?

のう:一点だけあって、まだメロディだけをいただいた時のことだったんですけど、「ガラスの割れる音を入れてほしい」とだけお伝えしました。「リリィアラート」は研究者のガラスのポッドを破ってユニコーンちゃんが出てきて、「そこからどうなる?」という曲なんですけど、ガラスは私が描いたイラストにも人工的なものの象徴として入れているので、その部分をリクエストさせていただきました。もともと雄之助さんの曲には、淡々としているけれども熱いものがあると感じていたので、雄之助さんのクールなサウンドと、(作詞の)牛肉さんによるキャラクターを掘り下げた熱い歌詞のコントラストが嬉しかったです。

――2曲目はフェニックスをモチーフにした「phoenix」で、164さんが楽曲を担当していますね。

phoenix feat.GUMI【164×のう】

のう:私はもともと164さんの大ファンで、164さんがよく使われているMegpoidも個人的に思い入れのあるボーカロイドだったので、「164さんの熱いサウンドとGUMIの感情の込もった歌声で楽曲をつくっていただきたい」と思ってお願いをしました。

――熱さから、フェニックスを想像したんですね。

のう:そうなんです。熱い曲がほしいと思って考えたのがフェニックスで、ぜひ164さんにお願いしたいと思っていました。それから、私自身、高校生の頃に164さんの熱い楽曲を聴いて励まされた経験があったので、そのときの気持ちを重ねて、インディーズバンドのギター&ボーカルをしている女子高生のキャラクターにしました。

――のうさんがイラストレーターになりたい、と考えていた頃の気持ちも重ねられているんですね。

のう:「大きな夢で、なかなか理解してもらえないけれど頑張る」という個人的に感じていた思いも乗せて返していただいたので、最初に曲をいただいたときは目頭が熱くなりました。あと、164さんってレスポールギターをお持ちで、自分もそのレスポールのサウンドが好きだったので、今回はイラストでも、ギター&ボーカルの彼女に炎で燃えているレスポールギターを持ってもらいました。そのイラストで、164さんにも「熱い楽曲をお願いします!」と伝えられたらと思っていました。

――3曲目の「オチは同じ」はなきそさんの楽曲で、キャラクターはメデューサですね。

オチは同じ feat.歌愛ユキ【なきそ×のう】

のう:なきそさんは最近ボカロ界に新しい風を吹かせた方で、独特の世界観をお持ちで、それがすごく素敵だなと思っていました。そこで「自分もご一緒してみたらどうなるんだろう?」と思ってお声がけして。なきそさんはダークでほの暗くて、でも可愛くて甘くて……という、不思議な感覚になる楽曲をつくられる方だと思ったので、その音楽がメデューサに合うと思っていました。怖いけれどもどこか幼くてかわいらしい、ちょっと掴みどころのないような、得体のしれない雰囲気を表現できたらいいな、と思っていました。

――メデューサは自分の意志にかかわらず、目があった人を石にしてしまいます。そういう意味では、悲しみを背負ったキャラクターでもありますね。

のう:そうですね。現実世界にメデューサはいないとは思うんですけど、たとえば「自分が意図したことではなかったけれど、相手には違う意図で受け取られてしまって悲しい」とか、普段の生活の中にも、似たような瞬間があると思うんです。今回のほかの楽曲もそうなんですが、直接的ではないにしても、どこか共感してもらえるようなキャラクターをつくりたいな、と思っていました。

――確かに、『レゾンデートル』に登場するキャラクターたちは、それぞれ架空の生き物でありつつも、女子高生やバンギャなどを筆頭に、現代人も近しく感じられる要素を持つキャラクターばかりです。

のう:受け取り手によって感じ方が違ったり、共感してくれたりするように、どこか接点が感じられるような、腑に落ちるような要素があるキャラクターとして構成しています。「オチは同じ」も、なきそさんから上がってきた楽曲を聴いたときに「これこれ!」「ぴったりだ」と思いました。なきそさんらしい、ほの暗くて重い楽曲に、歌愛ユキの歌声で甘さも乗っていて、絶妙な塩梅の曲にしていただきました。

――サビの辺りに入っている、石化して時間が止まることをイメージするような時計の針の音や、石になったことを連想させるような硬い質感の音なども印象的でした。

のう:メデューサから連想するような、石化したときの硬さや孤独をはらんだ曲にしていただきました。私からは、「歌愛ユキを使って、なきそさんらしい音色でお願いします」とお伝えしました。

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